ファミリー〜祟殺し編・沙都子救済計画〜藍子編



酒に浸かって、一日を怠惰に過ごす。
律子を失って、まわりは敵だらけで。
わしは雛見沢に戻ってから、抜け殻のように過ごしていた――。

ピンポーン。
沙都子は学校、麻雀の約束もない。
訪問販売だな、とわしは再び横になった。
うとうとし始めたわしのそばで、みし、と畳を踏む音がした。
不審に思い目を開けると――。
「お邪魔します。…開けっ放しじゃ無用心ですよ?」
「うわっ!?………なんねあんた……!」
いつの間にかわしの寝てる居間まで図々しく上がりこんでいた、30半ばくらいの女。
…だが雛見沢の人間と違ってどこか垢抜けている。
「……どこの訪問販売ね?ウチにゃ金なんざねぇから何もいらんね…。」
「――いやですわ、そんなんじゃありませんよ。」
女はにこやかに否定する。
「……じゃあ何の用ね?」
若干の凄みを利かせるが、それでも笑みを崩さない。
「――はい。私、最近家族でこちらに越してまいりました前原藍子と申します。
 共働きなものでご挨拶に伺うのが遅くなりまして申し訳ありません。
 本当でしたら主人が伺うべきなのですが、どうしても抜けられない仕事がございまして…、
 あの、これよろしかったら。」
手提げ袋から包装紙に包まれた箱を取り出し、そっと差し出す。
「まえばら……ああ、あの前原屋敷の。…こりゃわざわざすまんわね。」
多分菓子折りだろう。酒のつまみならありがたいんだが。
「……実は今日訪問しましたのは、ウチの息子の圭一がそちらの沙都子ちゃんに
 大変お世話になったとのこと……本当にありがとうございました。」
「ああ…いや……別にいいわね。沙都子は今学校だから、帰ったら伝えておくわね…。」
だから早く帰ってくれ、そう言外に含ませるが、
気付いているのかいないのか女はただ微笑んでいた。
「――それでですね、せめてものお礼をと思いまして……。
 余計なお世話かしらと思ったのですけど、お独りだと伺いましたので…。」
「――一体何のつもりね?」
………独り。
そう、わしは律子に裏切られ、独りになってしまった。
触れられたくない部分に踏み込まれ、不機嫌さを露にする。
「はい。ちょっと掃除をば。」
「――――あぁ!?」
「小さな女の子だけじゃ、さすがに行き届かないところもありますでしょう?
 せめてものお礼をさせてくださいませ。」
にこやかに微笑みながら廊下を進む。
そこには女が持ち込んだのであろう掃除道具が置かれていた。
「おいっ、勝手にそんな……っ、」
「ほら、そこっ!板敷きは埃が溜まりやすいのよっ!」
歩きながら三角巾を着用した女の顔つきが急に変わった――。
「歩くだけでこんなにざらざらしてるなんて、健康にも良くないわ!
 さあ一緒に綺麗にしましょう!……はい、道具持つ!!」
「え?あ、………ああ……。」
あまりの迫力に逆らえず、わしは言われるままに雑巾を手にする。
「違うっ!いきなり床を拭いたって意味ないでしょっ!?
 まず上から埃を落とすのよっ。そこのはたきを持ってっ!」
「――は、はいぃっ!」
「それで優しく埃を落として、…そうそう。床の埃は私が箒で掃うから、それから水拭きね。」
「なるほど………こうでええんね?」
「そうそう、丁寧にね。……この調子でどんどん綺麗にしちゃいましょう!」
「お、おう………。」

「――ダメダメっ!掃除機は丸くかけないっ!
 ちゃんと隅っこまでかけなきゃ綺麗にならないわよっ!」
「ちょーーっと待ったあっ!Gパンは他の服と一緒に洗っちゃダメっ!
 色がついちゃうでしょっ!?」
「ゴミの分別はちゃんとしなきゃ!生ゴミは水分を切らないといけないのよっ!」
「窓はちゃんと開けるっ!風が通らないと臭いも湿気もこもるんだからっ!」

女は手際の悪いわしを叱咤しながら、それでも楽しそうに掃除を進める。
わしも慣れない仕事に戸惑いながらも、必死で身体を動かした。
家に吹き込む風が、汗をかいた身体に気持ちいい。
身体中に溜まったアルコールやドロドロとした嫌なものが
汗と一緒に流れてゆくような――そんな心地よさだった。

「――ほーら、きれいきれい♪」
へとへとのわしを尻目に、女は見違えるように綺麗になった部屋を見回して
満足げに微笑んだ。
「――な……んで、他人のために家事をしてそんなに嬉しそうなんね?」
「何言ってるの!誰かのためにする家事ほど楽しくて幸せなものはないわよっ!?
 ……自分が綺麗にした家で、大切な家族が快適に過ごせるのよ。
 自分の作った料理で、家族の胃が満たされるのよ。
 自分が綺麗に洗った服で、家族が清潔でいられるのよ。
 手を抜いたらすぐに結果が形になって現れるから張り合いもあるわっ。イベントと同じよっ!」
「………イベント?」
「――あ、こっちのこと☆……でも、あなたも今日一日身体を動かして気持ちよかったでしょ?
 自分の家が綺麗になるのは嬉しいでしょ?」
「………………ああ。」
なぜか素直に返事が出てきた。女に対する反感はもうない。
「……よかったら仕事の合間に色々お教えしますよ?
 料理、洗濯、掃除…どれもやりがいのある大切なことですからね。」
「ああ。………よろしく頼むわね。」
「ええ。よろしくね鉄平さん。」
ぐごぎゅるる〜〜。
わしの腹が豪快な音をたてて鳴った。たっぷり身体を動かしたから仕方ないわね。
「うふふ。もう夕方ですもの、お腹も減りますよね?
 よかったら今夜はウチにいらしてください。…沙都子ちゃんも一緒に。」
「沙都子も、一緒に……。」
「ええもちろん。……家族なんですから。ね?」
「………いや、だが………。」
「――大丈夫。沙都子ちゃんもきっと一緒に来てくれるから。」
ひょっとしたら、この女は……すべてを知っていたのか?
わしの虐待を知った上で、危険を承知で乗り込んできたのか?
だとしたら………完全に負けだわね。
「……ああ。風呂で汗流してから沙都子を連れてお邪魔するわね。」
「ええ。お待ちしてますから。……それじゃお邪魔しました。」

玄関を出て行こうとする女の背中に、おふくろの背中を思い出した。
もう遠い想い出の、記憶の中にしかない母の姿を、母は強し。――そんな言葉とともに。 




「叔父様っ、ただいま帰りましたわーー!」
「ただいまなのですよ、にぱ〜☆」
「おう、沙都子、梨花ちゃま、おかえりね!夕食はもうできとるんよ!」
ずらりとテーブルに並べられた料理に、沙都子も梨花ちゃまも瞳を輝かせて見入っていた。
「叔父様すごいですわー!」
「じつに美味しそうなのです☆」
「ほれ沙都子っ。また後で店の新メニュー教えるから、前原の小僧っ子に教えてあげるねっ!」
「もう……。私より上達してしまって悔しいのですわ…。」
「本職には勝てないのです。仕方ないのですよ。それに――」
「――なんですの?」
「その分圭一に教えることができるのですから、ラッキーなのですよ☆」
「……ま、まあ、そうですわね…。」

頬を染める沙都子と、嬉しそうに笑う梨花ちゃま。
――大切なわしの家族。
家族の健康と笑顔を守る。それが今のわしの幸せ――。







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