ファミリー〜祟殺し編・沙都子救済作戦〜ソウルブラザーズ編 


ここは雛見沢。………の、人気のない森の中。
そこに集められた中年男たち。
「わざわざ私を呼び出すとはどんな用件ですかな?――んっふっふっ!」
「診療所を長く空けるわけにはいかないので手短にお願いしますよ?」
「僕も鷹野さんとの約束があるんで、早めに終わらせて欲しいなあ。」
突然の呼び出しに応じてやって来た大石・入江・富竹。
圭一を加えた四人は、魂で結ばれた兄弟なのだ。
だが今日はエンジェルモートでの定例会でもなく、圭一の表情は真剣そのもの。
オマケに人気のない鬱蒼とした森の中――。
「よく来てくれた、マイソウルブラザーズ!!
 今日呼んだのは他でもない、ソウルブラザーズの力で沙都子を助けて欲しいんだ!!」
圭一のその願いを察していた入江と富竹は黙って頷く。しかし――。

「しかしですなぁ、前原さん………、」
「シャラアアップ!!!今のオレは前原圭一じゃない、Kだっ!!
 イリーが愛してやまない沙都子を、トミーの部活仲間の沙都子を、
 オレの妹分の沙都子を、放っておけるのかっ!?」
案の定不満を露にしたクラウドを、Kが一喝する。
「……いや、だからですなK……、」
「だあぁああまらっしゃあああああああぁぁあああああぁぁぁああっっ!!」
ぎゃあぎゃあぎゃあぁ………。ばさばさばさ……っ。
木々が震え、鳥たちが一斉に飛び去った。
今までにない迫力のKの叫びに、クラウドまでもが萎縮している。
『これは珍しい光景だ』とカメラを向けるトミーを、イリーが静かに制した。
呼吸を整え、Kは噛み締めるように語り始めた。
「いいかクラウド、このままあの叔父を放っておいたら、
 沙都子のあの心を開いた者だけに見せる困ったような笑顔も見れない、
 構って欲しい心の現われである手の込んだトラップも、
 不器用ながらも懸命に心を込めて作る料理も味わえなくなるんだ。
 あんたも見たろ、沙都子のあの生気をなくした表情を。あれじゃ生ける屍だ。
 少女の魂を見殺しにして、何が魂(ソウル)ブラザーズだ…っ!!」
「「「―――――――――――っ!!」」」
Kの言葉に、クラウドだけでなく、イリーやトミーも衝撃を受けたようだ。
「け………Kぇえ………っ!」
がくりと両手を付き、涙しながら懺悔するクラウド。 
「――大丈夫。まだ間に合います。」
イリーがその背中に優しく手をかける。
「そうそう。僕たちが力を合わせれば無敵だからね。」
トミーも白い歯を光らせて笑った。
「――さあ、それじゃオレたちソウルブラザーズの力で沙都子を救おうじゃないかっ!!」
「「「おーーーーーーーーーーーっっ!!!」」」


「――よし、沙都子ちゃんが家を出たよ。……買い出しみたいだね。」
「ターゲット『テッツィー』は変わらず在宅中ですな。」
「――じゃあまずテッツィーの好感度の高いイリー、頼んだぞ!」
「了解☆任せてくださいK!」
ピンポーン。
沙都子が外出したのを確認して、ソウルブラザーたちは作戦を開始した。
「こんにちは入江です。――いい酒が手に入ったんですがいかがですか?」
イリーの呼びかけに、テッツィーはにまにましながら現れた。
「――いやあ入江さん、よう来てくれたわね!」
目ざとく酒の銘柄を確認して、満面の笑顔を向けてくる。
「つまみもいいのがあるんですよ。……どうですご一緒に?」
くい、と杯を傾ける仕草を見せると、テッツィーはあっさり乗ってきた。

――つまみを肴に、穏やかな酒宴。
沙都子は部活メンバーが上手く引き止めているから、
目的のためにもっとたっぷり飲ませよう――。
「――ん、ん………っ。」
「どうかしましたか鉄平さん?」
「……や、なんかちょっと身体がだるいわね……っ。」
「結構強い酒ですから……大丈夫ですか?」
「あー……ちょっと横になれば、これくらいなんでもないわね。」
「――あ、では今布団を敷きますから。」
まめまめしく押入れから布団を出し、綺麗に敷いてやると、
テッツィーはのたのたとその上に横になった。
「――なんか悪いわね。」
「いえいえ、どうぞお気になさらず。」
ピンポーン。
「……そうだ、私の友人たちが差し入れを持ってくると言っていたんです。
 彼らかもしれません。……上がってもらっても構いませんか?」
「ああ………ええわね。」
つまみを頬張りながらしつこく呑み続けるテッツィーは、
どかどかと乱入してきた「友人たち」の姿に口からスルメをぽとりと落とした。
「いやぁ、どーもどーも!おじゃましますよ〜!」
雛見沢で煙たがられている刑事、大石。
「はじめましてー。うわー、ちらかってますねー。」
カメラを手にした屈託のない筋肉・富竹(仮)。
「これじゃ沙都子がいくら頑張ってもキリがないな。」
噂の前原屋敷の息子・圭一。
「鉄平さん、驚かせちゃいましたか?……彼らは私の友人たちです。
 実は私たち、歳も育ちも異なれど、魂で結びついたソウルブラザーズなんです。」
「そうる………なんだってぇ!?」
テッツィーは鯉みたいに口をぱくぱくさせながら呆然としている。……無理もない。

「――それにしても……鉄平さん?入江さんや前原さんから話に聞いてはいましたが…。」
いくら入江の友人といっても、この男は警察の人間だ。
虐待やその他の後ろ暗い行いを知られていては敵わない……。
「――な、なんの話ね………っ、」
嫌な笑いを浮かべながら、嘗め回すように見つめてくる視線が不快だったが、
テッツィーは必死に虚勢を張った。
「あなた、なかなかいい身体してますねぇ……んっふっふ!」
「―――――はぁ?」
「そうそう、僕も身体には自信があった方なんだけど、正直負けたよ。」
「都会出身のオレにはその方言がまたたまらなく魅力的なんですよね〜!」
「私もね、前々から鉄平さんとお近付きになりたいと思っていたんです。身も心も。」
「………な、……んだって?」
布団に横たわるテッツィーをなんともいやらしい笑みを浮かべながら囲む男たち。

………この笑みには覚えがあった。
テッツィーがかつて律子と組んで美人局をやらかしていた頃。
律子の絶妙な誘惑(しかし自分からは決して愛を言葉にせず、相手を夢中にさせるのだ)に
その気になったカモが、律子を舐めるように見つめる、あの笑みだ――!

「あれ?どうしましたかな鉄平さん?そんなに震えて。」
「おかしいですねぇ。酒には弛緩剤しか入れてないはずなんですが。」
しれっと、イリーが聞き捨てならないことを口にする。
「しかん、ざい……だと………?」
「それさえ飲ませれば、どんな屈強な男でも、僕たちの思いのままってことですよ。」
「そうそう、俺たち4人を相手にしなきゃいけないんだから、
 身体の力を抜いておかないと後が大変だろうしさ。」
「思いのまま……相手……。……ま、まさか、そんな……っ、」
身の危険を感じ逃げようと必死にもがくが、身体は少しも動かない。
「くすくす………。」
トミーの鷹野三四直伝の妖しげスマイルがテッツィーを追い詰めてゆく。
「大丈夫大丈夫、痛くしないから……くっくっ!」
Kが両手をわきわきさせながら近付いてくる。
「自慢の腰の振りをどうぞ味わってくださいね〜?んっふっふっ!」
クラウドが前後左右に動く腰を見せ付けてくる。
「これでテッツィーも仲間にゃりん☆」
イリーがメイド服を手に不思議な語尾でしなだれかかる。
「ひぃいぃぃいいいいいぃぃぃいいいいいい………っ!!」
――か細い悲鳴を最後に、テッツィーの意識は途切れた。


律子………。
律子、すまんわね………。
俺、汚れてしまったんね……っ。
お前に合わす顔と身体がないわね……。


「………………っ。」
テッツィーが目を覚ますと、部屋はすっかり綺麗になっていた。
身体は動くようだ。――どこにも痛みはない。
恐る恐る布団から起きてみると。
「「「「グッモーニン、マイソウルブラザー・テッツィー!!」」」」
「ひいぃぃいいいいいいぃぃぃっ!!」
満面の笑みで、ソウルブラザーたちが正座していた。
「改めて自己紹介だ。オレはK!」「クラウドですよ。」「トミーだ。」「イリーです。」
「………………。」
「………あんたはテッツィーだ!さあ答えろ、マイソウルブラザー!」
テッツィーは答えない。先刻の行為を思えば無理もないが。
「……テッツィー。恐怖に怯える弱者の気持ちはわかりましたか?」
イリーが穏やかな表情で、それでも真剣に問い掛けてきた。
「あんたに暴力って手段じゃ堪えないだろうから、別方向で同じことをしたんだ。
 ……酷い目に遭わせたこと自体は反省してる。……けどよ、」
Kが後ろめたそうに、それでも鋭い目でテッツィーを見すえる。
「……沙都子さんの恐怖は、先ほどのテッツィー以上だったと思いますよ?」
イリーがKの気持ちを代弁してくれた。
「でも、その気持ちがわかったならもう大丈夫!」
トミーの明るい笑みがなぜか心強い。
「あんたは自分の中の萌えを暴力でしか表せなかったんだ。でも暴力じゃ萌えは語れない。」
「これから沙都子さんの魅力についてじっくり語り合いましょう!」
「いや〜、正直私も最初は萌えの何たるかがわからなくて説教食らったもんです。」
「オレたちは兄弟だ!なあテッツィー!」
「「「テッツィー!!!」」」
「――兄弟………か。」
悪いことをしたらちゃんと叱る。けれど拒絶はしない。
そんな当たり前で当たり前じゃないことを自分にしてくれた人間は今までいなかった。
テッツィーはしばらくうなだれていたが、おずおずと顔を上げた。そして――。

「俺はテッツィー!………よろしく頼むわね。」
「………………。」「………………。」「………………。」「………………。」


「「「「おおぉおぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおっっっ!!!」」」」

ソウルブラザーズの歓喜の叫び声が、北条家に響き渡った――。



「……それじゃ沙都子、テッツィーは行ってくるわね!」
「また定例会ですの?詩音さんに迷惑かけないでくださいませねっ!?それから…、」
「なんね沙都子?」
「……わたくしと梨花に、ケーキをお持ち帰りでお願いしますわ☆」
「合点承知ね!……じゃ行ってくるわね!」
満面の笑みでエンジェルモートへと出かけるテッツィー。
「まったく、圭一さんも監督も、叔父様を変な道に引き込まないでほしいですわ。
 ……まあ、楽しそうで何よりですけど☆」




*誤解を招きそうですので追記。
 弛緩剤はイリーのハッタリですので入れていません。
 テッツィーが動けないのは単にお酒が強すぎただけです。ご安心を(汗)。







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