ファミリー〜祟殺し編・沙都子救済計画〜富竹編 



「ん〜……いい朝だぁね。」
麻雀仲間との徹マン明けの帰り道、俺は澄んだ空気の神社を通って帰ることにした。
「………負けが込んじまってるからな……。」
何のご利益があるのかわからないが、神頼みもたまにはいいだろう…。
ギャンブルでバカづきになれますように。酒をたんまり飲めますように…俺は手を合わせた。
―――バチン!
「うわっ!?」

合わせた手に何かが当たり、痛みに慌てて手を離した。
辺りを見回す。………何もない。誰もいない。足元には砂利っころがあるだけだ。
「……………?」もう一度手を合わせる。
―――バチン!
「あてっ!」
………………なんなんだ!?

「――あれ、こんな朝早くからお参りですか?この村の人は信心深いですねー。」
カメラを手にした筋肉質な男が、俺ににこやかに声をかけてくる。
………なんね、この男は……。
「――あ、ごめんなさい。僕は富竹ジロウ。しがない素人カメラマンです。
 毎年ここへ撮影に来ているんですよ。」
俺の怪訝そうな視線に気付き、自己紹介を始める。馴れ馴れしい男だぁね…。
この村の自然はどうだ、都会とは全然違う、ダムに沈まないで本当によかった――
俺が口を挟む余地を与えず、5分は話し続けたろうか。
「この村の言い伝えって凄いですよねー。特に綿流しの近いこの時期には。
 ………ここだけの話ですけど、」
急に富竹が声をひそめ、さっきまでの何も考えてなさそうな表情とは打って変わっての
深刻そうな顔で話を変えてきた。
「………なんね?」
俺も思わず身を乗り出してしまう。
富竹がそうするように、俺も神社の石段に腰掛けた。
「…この村の人から聞いたんですがね、ここ数年、毎年祟りが起きてるそうじゃないですか。」
「ああ………まあ、そうだわね……。」
人事じゃないのだが、他人事のように答える。
どうせこいつは旅人だ。俺が誰かなんてわかりっこない――。
「祟りに遭う人間は、信仰心の薄い者、悪事を働く者、そして、邪な心を持つ者――。
 死ぬか、鬼隠しに遭うか。どちらにしても祟りからは逃れられない。……怖い話です。
 怖いくせに、毎年ここにこうして来てしまうのは、
 恐ろしさとはまた別に、この言い伝えに魅力を感じているのでしょうね――。」
よそ者にはこんなくだらない言い伝えも魅力になるのか。
……この祟りのせいで痛い目を見てきた俺には胃のむかつきしか感じないが。
「――で、ですね。ここまでは村人であるあなたはとっくにご存知のことでしょうが…。
 祟りに遭う者には、ある兆候があるんだそうですね。」
……それは初耳だ。富竹はその持ち前の人懐っこさで情報を入手したのだろう。
「……どんな兆候ね?」
信仰心の薄い者、悪事を働く者、そして、邪な心を持つ者――。
すべてに当てはまる俺だ。祟りを信じていなくてもやはり気になる。
「笑わないでくださいね?冗談みたいな話なんですけど。
 『オヤシロさま』は、信仰心の薄い者、悪事を働く者、そして、邪な心を持つ者――
 つまり祟りを与えるべき者に手を合わされることを拒むんです。」
「―――な、………に………?」
「――あ、やっぱり変に思いますよね?僕も正直笑っちゃいましたし。
 でもね、本当なんだそうですよ……。」
手を合わせると、拒まれる。
拒まれる者は、祟りを受ける――。
「……祟りを逃れるには、どうしたらいい……?」
「―――え?……それは村人であるあなたの方が詳しいでしょう?だから僕は――」
俺の深刻そうな顔を見て、富竹は言葉を止めた。
「………まさか、あなた―――。」
「ちょっと、離れててくれんね。」
「――――はい。」
富竹は俺のしようとしていることを察して、茂みに身を隠した。
俺は立ち上がり、『オヤシロさま』に両手を合わせた――。
バチッ!!
「―――――っ!!」
またも手に何かが当たる。
――俺は、『オヤシロさま』に拒まれてるんだ――
「………っ!!」
富竹が、真っ青な顔で茂みから飛び出してきた。
「まさか、そんな……っ!あなたが祟りに遭うなんて……っ。」
ほんの少し会話を交わしただけなのに、自分のことのように心配してくる。
「……祟りに遭う条件に当てはまってるからな……当然だわね。」
俺は本名を名乗り、今までのこと、沙都子への虐待のことも包み隠さず話した。
死ぬことに比べたら、恥じることなんかない。何かに、――誰かにすがりたかった。
「………いえ、まだ間に合います。
 今からでもいい、あなたの中の悪い心を清らかにすればいいんです!」
「………き、清らかに……?」
「そうですよ、やくざな世界から足を洗って、その沙都子ちゃんという子とも仲直りして、
 ちゃんとした仕事に就いて、亡くなられたお兄さんや奥さんにもお線香をあげて……、
 まだ綿流しまで時間はあります。僕と一緒に頑張りましょう!」
「―――一緒、に……?」
「…………。実はですね、……ちょっと離れててもらえますか?」
ガサッ。さっき富竹が隠れた茂みに身を隠す。
富竹が両手を合わせると――。
バチッ!
「――――つっ!」
富竹の手に何かが当たり、その手は崩れてしまった。
「――――ね?」
困ったように笑って、俺を見た。
「……撮影なんて言いながら毎年好きな女に会いに来てるような罰当たりな男なんです。
 死ぬか、鬼隠しか。今年の標的は、僕たちなんです。」
「富竹………っ。」
「死ぬのは、僕も怖いです。でもだからこそ死ぬ覚悟で、考えを改めようと思います。
 浮わついた気持ちじゃなく、この村への思いを込めた写真を撮るように。
 この村の人たちともちゃんと交流します。
 彼女とも誠実な付き合いができるように努力します。
 ですから、鉄平さんも――。」
「――ああ、死ぬ覚悟でやってみるわね!」
「今年は祟りのひとつも起こらせないように頑張りましょう!!」



「鉄平さん!こんにちは。沙都子ちゃんも元気かい?」
澄んだ空気の神社の前で、俺と沙都子は富竹に遭遇した。
「はい!私は今日もばっちり元気ですわよ〜!ね、叔父様?」
「ああ。沙都子には辛い思いをさせちまったが、俺を許してくれて感謝しとるんよ。」
「辛気臭いですわよ叔父様?その話はもうやめですわ☆
 ……魅音さんの口添えで、来週から叔父様もお仕事に就くことになったんですのよ。
 ですからそれを報告に。……お墓までデートですのよ☆」
眩しいほどの笑顔を向ける沙都子には、あの頃の暗い面影はもうない。
「――で、富竹さんは……聞かんでもわかるわね。……隣の別嬪さんが彼女なんね?」
「うふふ、こんにちは鉄平さん。彼がこんなに立派になったのはあなたのおかげね?くすくす。」
「今まで遊び半分だった撮影に真剣に取り組むようになったんです。
 そうして撮った写真の一枚をある雑誌が目にとめてくれて――。
 今度雑誌に掲載が決まりました!」
「――3cm×3cmに縮小されちゃうのよね?……くすくす。」
「鷹野さん……たはは、参ったなぁ……。」
「最初はそれでいいじゃない。私は誇らしく思っていてよ?」
「ありがとう。…今日はこれから村長さんのところにお邪魔するんです。
 正式にお祭りの記録係として使ってもらえないかお願いに。」
「それは素晴らしいですわー!ぜひ梨花の立派な演舞を撮影してくださいませっ!」
「うん、もちろんだよ。……許可がもらえればだけどね。」
「大丈夫ですわ。その話、梨花には話してあるのでしょう?でしたら……ね?」
「ジロウさんったら、ちゃっかりしてるんだから。」
「結構結構!それくらい図々しくなきゃこの村じゃ暮らせんわね!」
みんなで笑いながら歩き、神社に足を踏み入れる。
そして―――。
「富竹さん、」「鉄平さん、」
二人してごくりと息を飲み、両手を合わせる―――。

「「………………………。」」

俺も富竹も、拒絶されることなく、この村の平和を祈ることができた―――。
ふたり頷きあう。沙都子や富竹の彼女には訳がわからないだろうが、それでいい。

「――さ、叔父様、参りましょう。それではごめん遊ばせ☆」
「またね、沙都子ちゃん。鉄平さん。」
「それじゃあ鉄平さん、また会いましょう。沙都子ちゃんも、またね。」



「………………。」
「………………。」
鉄平と沙都子が去り、神社に残った富竹と鷹野。そこへ――。
「めでたしめでたし、なのです。」
「富竹さん、役者だねー!おじさん出る幕なかったなぁ。」
「富竹さんもコントロールいいんですねー。俺といい勝負ですね!」
「うんうん、よく手に小石を飛ばせたよねぇ!手に飛び込んでいくようでかぁいかったよ〜☆」
魅ぃも圭一もレナも、嬉しそうに茂みから姿を出した。
……もちろんボクも嬉しいのですよ☆
「そうだよなレナ、小石を確実に目標にぶつけるのって難しいんだぜ?
 俺は富竹さんに当てる1回だけだったけど、富竹さんは3回だもんなー。」
「よーし、富竹さんには名誉市民として部活に参加してもらっちゃおうかな☆
 綿流しの日を楽しみにしてなよ富竹さん!」
「………え、ぶ……部活っ!?」
「部長ッ園崎魅音の名において、名誉市民富竹氏の我が部への入部を許可するッ!!」
「な、なんだい、その部活ってのは…?!」
戸惑う富竹を置いてけぼりに、いつものやり取りが始まる。
…ボクはこれが嫌いじゃないのです。
「我が部はだな、複雑化する社会に対応するため、活動毎に提案されるさまざまな条件下、
 …時には順境。あるいは逆境からいかにして…!!」
「…レナは弱いから…いじめないでほしいな。仲良くやろうね!」
「身包み剥いでッ!!ケツの毛までひん剥いてやるぜぇえぇえッ!!!!」
沙都子がいないからいつもと調子が違うけど、ここでボクの説明なのです☆
「…つまり、みんなでゲームして遊ぶ部活です。」
「あはは………よーし、綿流しの日を楽しみにしてるよ!」
ボクも楽しみなのですよ。富竹の寄せ書きは、みんなはきっと来年見られる。
………ボクはその場にいられないかもしれないけれど。

ひとしきり騒いだ後、富竹はお辞儀をした。起こした顔は真剣だった。
「……僕に大事な役目を委ねてくれてありがとう。
 多分よそ者の言うことの方が聞いてもらえると思ったんだ。……上手くいってよかったよ。」
満面の笑みでそう言った後、けれど不安げに表情を曇らせる。
……何が言いたいかはわかってるのです。
「でも――『オヤシロさま』に対して失礼じゃなかったかな?……騙ったわけだし。」
「大丈夫。むしろ喜んでるのですよ。にぱ〜☆」
巫女であるボクの言葉に安心した富竹の服を鷹野が引っ張り、ボクたちから引き剥がす。
『ジロウさんっ……部活に参加するって……。祭具殿侵入はどうなるの?』
『おやおや。そんなこと言ったら、それこそ君が祟られちゃうよ?』
『私は真剣なのよ?好奇心なんかじゃないの。祟りなんて怖くない、むしろ大歓迎よ――』
……案の定、鷹野がごねていた。
「お祭りの日以外だったら、ボクが話をつけてあげるのですよ☆」
「――うわっ、梨花ちゃんっ!」
「聞かれちゃったわね。……本当にいいの?約束できる?」
「――はい。約束しますです。鷹野の期待するようなものはないと思うですが、
 そんなに見たいのなら構わないのです。そのかわり……。」
「――――――なぁに?」
「鷹野にも部活に参加して欲しいのですよ☆」
「おっ、いいねーそれっ☆――鷹野三四氏の我が部への入部を許可するッ!!」
「大人が二人も加わるのか……こりゃ気合入れないとな!」
「嬉しいなぁ〜。レナ、負けないよっ!」
「あらあら……私、結構手強いわよ?……くすくす。」


「そしてボクの演舞を一緒に見て欲しいのですよ。最後まで。……あの人の、分まで。」
みんなが盛り上がる中、小さく呟いたボクの声。
オヤシロさまだけが聞いている――。








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