ファミリー〜祟殺し編・沙都子救済作戦〜沙都子編



暴言を吐かれるたびに。
暴力をふるわれるたびに。
にーにーに会える時が近付くんだと思って、耐える。
痛くない。怖くない。苦しくなんか、ない。
にーにーが受けた苦しみに比べたら。
北条沙都子は、強いんですのよ―――!


「―――沙都子。」
にーにー………!
目の前には、待ち焦がれた姿。
これは夢………ですわね。
それでもいいですわ。
たとえ夢でも、会えて嬉しいですわにーにー……。

「………………。」
―――にーにー……?
どうしてそんなに哀しそうな顔をするんですの?
私は強くなりましたのに。

「………おん、と……」
―――――え?

「――詩音と、話をしてごらん。本当に強いなら、できるよね?」
……私、あの方嫌いですわ。
魅音さんの格好で学校へ乗り込んで私に暴行を加えたんですのよ?
にーにーだってあんなに怒ってたじゃありませんの。
あの方だって、私を嫌いなはずですわ……っ、

「………………沙都子。」
……わ、わかりましたわよ……っ。
明日、魅音さんにお願いして会わせていただくよう手配してもらいますわ……っ。

――最後まで笑顔を見せずに、にーにーは消えてしまった……。


「――それで?この私に何の用があるって言うんです?」
「――――――詩音っ。」
魅音さんと一緒にお邪魔したマンションの一室で、案の定不機嫌全開の詩音さんが出迎えた。
「……詩音さんが私をお嫌いなのは充分存じておりますわ。
 正直私も、詩音さんを好ましく思ってはおりませんので。」
「ちょっと……沙都子ぉ〜〜〜。」
私と詩音さんの間で困ったようにウロウロしている魅音さんを尻目に、
私たちは居間のソファーに腰掛けた。魅音さんも慌てて席に着く。

「…言ってくれんじゃない。私もわざわざ嫌いな人と話をするほど暇な身じゃありませんので、
 とっとと用件済ませて帰ってくれません?」
「………………。」
「――何ですか?ちゃっちゃと話してくださいよ。」
「……にーにーが、夢に出てきたんですの。」
ぴくり。詩音さんの眉がひそめられる。
「………っ。自慢ですか、それ?私だって悟史くんの夢くらい毎晩だって見ますけど――?」
「にーにーは、詩音さんと話をしろって……そう言ったんですわ。」
「―――悟史くん、が……?」
私のことを気にかけてくれている、忘れないでいてくれる…。
そう主張するとろんとした瞳できゅんきゅん言っている。
……やっぱり私、詩音さんは苦手ですわ。
――こほん。
魅音さんの小さな咳払いに、詩音さんは振り回して乱れた髪を手で払って座り直した。
「悟史くんに免じて、真面目に聞かせていただきます。……何を話してくれるんです?」
ぎゅ………っ。
制服のスカートの裾を握り締め、勇気を振り絞る。
にーにー、見ていてくださいませ。
北条沙都子は、強いんですのよ……っ。

「――私は……にーにーが苦しんでいるのも知らず、いいえ薄々勘付いていながら、
 それでもにーにーに寄生していたんですの……っ。」
「――知ってるよ。あんたのせいで悟史くんがどれだけ苦しんだか、
 この私が、一番良く知ってる……!」
「――――詩音……っ。」
強くなる口調に合わせてきつく握り締められた詩音さんの左手を、
魅音さんの両手が優しく包み込む。
それで幾分落ち着きを取り戻したのだろう、ソファーにもたれて大きく息をついた。
私はそのまま話を続ける。
「……にーにーがいなくなったその日に、
 私は私の存在がどれだけにーにーを苦しめていたか思い知ったんですの…。」
「――遅すぎるよ……。悟史くんは、もう」
「にーにーは、帰ってきますわ。私が誰にも頼らずにひとりで耐えられれば。
 にーにーに頼らなくても大丈夫な強い北条沙都子になれば、きっと……。」
「………沙都子。あんた、その痣……、」
「――――詩音……っ。実はね、沙都子ね……、」
「………………っ。」
魅音さんが詩音さんに耳打ちする。
話を聞き終えると、詩音さんは足を組んで私を見た。
「――馬っ鹿じゃないのぉ?」
「――――しおんっ!?」
「詩音、さん………?」
「――だってそうじゃない。
 あんたがその叔父さんにいいようにされて、どうして悟史くんが喜ぶの?
 今まで悟史くんが苦しんでた分あんたが苦しめば帰ってくるって?
 ……悟史くんはそんな人じゃないよっ!
 私の知ってる悟史くんは、私の大好きな悟史くんは、
 どんなに辛くても、あんたを守れて幸せそうだった。
 あんたを守るために、自分が犠牲になったんだ。
 今あんたがここにいられるのは、悟史くんのおかげなんだよ?
 あんたの心も身体も、粗末にしていいはずがない……っ!」
「――し、詩音……さん……っ。」
「……正直、悟史くんが自分自身よりも大切にしてるあんたが憎かった。
 悟史くんを犠牲にして、悟史くんを苦しめてたあんたが大嫌いだった。
 だけど……沙都子は、悟史くんの大切な妹なんだよ?
 悟史くんの大切な人が傷付いて、嬉しいわけない―――」
そこまで言いかけて、詩音さんの動きが止まった。
何かに気付いたように見開かれた目。
「詩音さん?……どうなさったんですの……?」
「思い、……出した………。」
「え………?」
「詩音………?」
「去年の綿流しの前日、悟史くんから電話があって…。
 ……沙都子のこと、頼むからねって……言われてた。」
「――わ、わたくしの、ことを……?」
「――私、悟史くんがいなくなって、ただ辛くて哀しくて、
 ……その言葉の意味に気付かなかったんだ…。」
「にーにー………っ!」
堪えていた涙が、溢れ出す。
いつかにーにーに会えた時のためにとっておいた涙が、止まらない。
「私のことを……私をひとりにしないために、ひとりで我慢させないために、
 託してくださってたんですのね……!」
「沙都子……ごめん。忘れてて……ごめんなさい……っ!」
詩音さんと抱き合い、二人で泣いた。背中に優しく暖かい温もり。……魅音さんだ。
詩音さんや魅音さん、梨花にレナさんに圭一さん…みんなを拒む必要なんてなかったんだ…。

たくさん泣いて、もう涙なんか出尽くしたくらいに泣きはらして。
なんだか憑き物が落ちたようにスッキリした。
「――私は、ひとりじゃなかったんですのね。
 なのにひとりで強くなろうなんて、バカでしたわ。
 詩音さん、私、強くなりますわ。自分の身は自分で守れるように。
 でも人の助けを拒まずに、利用できるものは利用させていただきますわ。
 詩音さんのように、したたかに。」
「言いましたねー☆
 じゃあ私も、沙都子のえげつないトラップワークを習得させてもらいますからね☆」
「ちょっとちょっと、カンベンしてよー。
 あんたたちにそんな手強くなられたらおじさん困っちゃうじゃんよー。」
「………………。」
「………………。」
「………………。」

「あーーっはっはっはっ!」
「……ふ、あははははははは。」
「をーーっほっほっほっ!」
私は、二人と一緒に、本当に久しぶりに、心の底から笑い転げた――。

「――んじゃま、この状況を打破すべく、作戦開始としますか☆」
「作戦名は何にします?」
「そうですわねー……『沙都子救済作戦』なんていかがでしょう?」
「自分で言うかぁ〜?――ま、いっか☆」
「それじゃあ、『沙都子救済作戦』開始ですよ!
 みんなにも力を貸してもらわなくっちゃ☆」
「「「おーーーーーーーっ!!!」」」



幸せな気持ちで床についたその夜。
夢に出てきたにーにーは、昨夜とは違って、優しく笑ってた―――。







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