しあわせなひと。


「来週は分校開放日です。授業を村の人たちに見てもらいます。
 ――でも、よそ行きの服を着たりしなくていいんですよ?
 いつも通りの私たちを見ていただきましょうね。
 詳しくは回覧板や村の掲示板に告知しておきますからね。」
帰りがけに言った知恵先生の言葉に、生徒たちは放課後も盛り上がっていた。

「へー……授業参観日とはちょっと違うんだな。」
「うん。それだと基本的に生徒の家族しか見られないでしょ?
 それじゃちょっと物足りないからね。」
「そうそう、村の住人みんなが家族だもんね☆」
「なのですよ。にぱ〜☆」
「魅音さん、ぜひ詩音さんにもお声をかけてくださいませっ!
 私の立派な姿をしっかり見ていただいて、
 にーにーが帰ってきた時にちゃんと伝えて欲しいんですの。
 『沙都子は強くなりました』って。」
沙都子が照れくさそうに笑うと、みんなも優しく微笑んだ。
沙都子や梨花に魅音にレナ、そして圭一…。
ちょっと普通と違った家庭事情の生徒がいる雛見沢分校。
普通に授業参観日の告知をしたら、家族のいない生徒が傷付くに違いない。
校長や知恵先生の、大事な生徒たちへの思いやりだろう。
幸せな生徒たちは、来るべき分校開放日を楽しみにしている――。


「分校……開放日……。」
「――気になるの?沙都子ちゃんのこと。」
「……気にならんかったら、わしは鬼以下だわね。」
興宮の掲示板の前で足を止めた鉄平。
隣を歩いていた律子も足を止めて、ポスターに見入る鉄平の横顔を見つめていた。
「――わしは玉枝に苛められる兄妹を見捨てて、お前の元へ逃げ出したんね。
 お前といる時間が嬉しくて、ずっと忘れたふりをしてきたんね。
 ――そして玉枝が死に、兄が消えた。
 ……友達がいるとはいえ、沙都子は一人ぼっちになってしまったんね…。」
「鉄っちゃん……。」
「かといってわしが今さらのこのこ顔を出したところで、沙都子はわしを拒絶する。」
「……見に行こうよ、沙都子ちゃんを。」
「――ダメだわね。こんなやくざ者が教室に入り込んだら、
 沙都子も他の子どもも怯えてしまうわね……っ。」
珍しく気弱な表情を見せる鉄平。
律子は鉄平の顔に似合わないこういうところが好きだった。
そんな弱みを見せてもらえる自分を幸せに思い、
こんな風に思ってもらえる沙都子も幸せだと思う。
「大丈夫。アタシに任せて。」
「………………へ?」
「――鉄っちゃんにも幸せになってもらわないとね。」


「いででででででででっ!!り、律子っ!もう少し優しくしてくれんねっ!」
「もーちょいだから我慢してっ!!」
パンチパーマをクシで強引に極限まで伸ばされ、その痛みに鉄平は情けない声を上げる。
律子は容赦なく力を加える。その細腕は、今までの苦労の賜物か、かなりの力持ちだった。
「髪も染めちゃうよ。ちょっとしみるだろうけど我慢してねっ。」
「あ゛ーーーーーーーっ!!」
鉄平の悲鳴が、狭いマンションの一室に響き渡った。
「ふーーーーー……。やれやれだぁね。」
「アタマはこんなとこかな。じゃあ後はこの眼鏡とこの服で決まりだね。
 ――アタシも一緒に行っていいでしょ?ちゃんと釣り合うカッコするからさ。」
「ああ。――一緒だと助かるわね。」


ざわ……っ。
分校開放日当日。教室に現れた一組の男女に、教室中が釘付けとなった。
ちょっとラフなオールバックの黒髪に眼鏡の光る浅黒い肌。
その逞しい身体をカッターシャツとスラックスに包み、
ワイルドな管理職といった風情の男。
そのそばに寄り添うように立つ、
暑い中腰までの長い黒髪を涼しげになびかせ、
桜色のソフトスーツのミニタイトのスカートから伸びたしなやかな脚が眩しい女。
雛見沢にはそぐわない、都会的な雰囲気の男女――。

「おい、あの人たち魅音の知り合いか?」
「ううん、おじさんもはじめて見る人たちだよ。」
「圭一くんのお家みたいに、ここに住みたいって思ってる人たちかもしれないよ。」
「なんにしても、私たちはいつも通りに授業を受けるだけですわー!
 見てらっしゃいませ詩音さんっ!」
「ふぁいと、おーなのです。」



カラン、カラーン……。
「――はい、今日の授業はこれで終了です。
 わざわざ足をお運びくださいました皆様方、本当にありがとうございました。――委員長、」
「きりーつ!きょーつけー……」

授業が終わり、生徒たちは見に来てくれた家族や知人と話し始める。
やはり若干の緊張はあったのだろう。開放感からかみんな興奮気味だった。
「詩音さーん!私の活躍、ご覧いただきましてっ!?」
「ええもちろん。立派でしたよ沙都子。」
満面の笑顔で詩音の元へ駆け寄る沙都子を、本当の妹のように頭を撫でて褒める詩音。
「詩音、今日はありがとうね。」
「いえいえ、お姉も立派でちたよ〜。」
「………詩音っ。」
赤ちゃん言葉で頭を撫でると、魅音は顔を真っ赤にしてむくれた。
――本当の妹に対しては、若干ひねくれた表現になるようだが、これも愛なのだろう。

「喜一郎。ボクも頑張ったのですよ。」
「うんうん、梨花ちゃま、よく頑張ったなあ。」
「「「おお、梨花ちゃま………ありがたやありがたや……。」」」
梨花は相変わらずカリスマぶりを発揮していた。

「――礼奈。」
「お父さんっ!来てくれたんだ。――お仕事は?」
「大丈夫。社長に話したら、ぜひ行ってきなさいって休みにしてもらえたんだ。
 今夜は私が夕食を作ろうな。」
「―――うんっ!」
レナは予想していなかった父の登場に大喜びだった。

「――魅音。お前ん家の人は来ないのか?」
「んー、梨花ちゃんほどじゃないけど、ちょっと騒がしくなっちゃいそうだからね。
 でも善郎叔父さんが来てくれてたから大丈夫。……店があるから帰っちゃったけどね。」
「そうそう。ウチの人間が来るとちょっと面倒ですからね。
 葛西にも今日は遠慮してもらいました。」
「圭ちゃんのお家の人は……やっぱりお仕事?」
「ああ。みんなにも会いたがってたけど、どうしても抜けられない仕事があるんだとさ。」
「挨拶したかったでしょうに、残念ですねお姉?」
「しーーおーーーんーーーっ!」
真っ赤になって焦る魅音を、圭一は不思議そうな顔で見つめていた。
「……ところでお姉、あの人たちは誰ですか?」
「ん――……私もわからないんだよ。」
「――あ、噂をすれば…、」

「あのう………失礼しますね。」
緊張した面持ちの男が、圭一たちに声をかけてきた。
「――あ、突然ごめんなさいね?」
男を助けるように、女が言葉を続ける。
「実はね、友人が前にこちらのお祭りが凄く良かったって言ってたから興味があって。
 今年のお祭りももうすぐでしょ?だから興宮のホテルに滞在してるの。
 掲示板で今日の分校開放を知って遊びに来たのよ。
 知らない顔でビックリしたでしょ?」
「――あ、そーゆーことでしたか!ここのお祭りは盛況ですからね。
 楽しんでいってくださいね!」
「そんなに凄いのか……オレも楽しみだな。」
「圭一くん、初めてだもんね。」
「ボクは巫女さんなのですよ。にぱ〜☆」
「奉納演舞は見ものですわよ〜。ぜひ最後までご覧になってくださいませねっ。」
怪しい人じゃないとわかると、みんな安心して会話を始めた。
「うふふ、みんな仲良しでいい子たちね。私もこんな子どもが欲しいわ。――ね、あなた?」
女がちらりと男を見る。
男がとたんに赤面したので、みんな大笑い。一気に場が和んだ。
「今日は本当に楽しかったわ。お祭りの日にまた会いましょう。」
「ええ、ぜひおいでくださいませー☆」
男が沙都子の前にしゃがみこみ、視線を合わせる。
きょとんとした沙都子を見つめて、男はにっこりと微笑んだ。
「君はいい子だね。元気に育ってるね。お友達と幸せそうで嬉しいよ。」
「―――?ええ、私はいつも元気いっぱいで幸せですわよー!」
「あなたったら、この子がお気に入りなのね?私妬けちゃうわ。」
「――え、いや、そんな……っ。」
「うふふ、冗談よ。」
みんなに笑顔で見送られて、男女は帰っていった。
「楽しい人だったなあ。祭りで会えるのも楽しみだ!」
「当日は二人にも部活に参加してもらおっか?」
「あ、いいですねそれ!私も参加していいんですよねお姉?」
「もちろんですわ詩音さんっ。でも勝負の世界は厳しいんですのよー!」
「楽しみなのですよ☆」
「でもあのおじさん、沙都子のことずいぶん気に入ってたみたいだな。」
「お持ち帰りはさせないんだよー。レナがお持ち帰るんだからー。はぅっ。」
「沙都子はモテモテなのです。罪な女なのですよ。」
みんなでいつものように盛り上がり、笑いながら校舎を出る。
「―――じさまったら………。」
「――ん?何か言ったか沙都子?」
「いいえ何も。――さ、行きましょう☆」
沙都子は上機嫌で歩き出す。

魅音や詩音、レナや梨花も気付いてる。
わかってて何も言わない。
圭一と同じように、初めて会った人のように接してくれたのだ。

「ああまでして私に会いに来た努力に免じて、見逃して差し上げたんでしてよ。
 ――幸せ者ですわよ叔父様?」
夕焼け空に向かって、沙都子は小さく呟いた。







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