翻訳家。


【圭一】

「――圭ちゃん。その……、ちょっと来てくれるかなあ。」
顔を赤らめての誘いに、オレはほんの少しだけ期待して、指定された校舎裏へとやって来た。

「――圭ちゃんさあ…。前から言おう言おうと思ってたんだけどさ、」
「な、なんだよ…っ。」
魅音は、両腕を組み、難しそうな顔で立っていた。
どうやら楽しい話ではなさそうだ。……オレ、何もしてないぞ?
「ちゃんと聞いてよ。大事な話なんだ。二度は言わないからね。」
勿体ぶって、すう……と深呼吸。
「――だいたいさあ、いつもいつも、すっとぼけた顔してるくせして、気取ってんだよねえ。
…………………それだけ。……じゃあねっ!」
強調するように、わざと言葉を区切った棘のある言葉。
それだけ言うと、魅音は一度も振り返らずに走っていった――。

………な、なんだよ、なんなんだよいきなり…っ。
なんでいきなりこんなこと言われなきゃなんないんだ?
「わっかんねーよ……っ!」
――くそ、この萎んだ期待感をどうしてくれるんだ……っ。
じゃりっ。
背後で、砂利の踏まれる音。
「え〜、流しの翻訳家はいかがですかぁ?」
「詩音っ!?……おめー、なんでここにっ……?」
「お姉が圭ちゃんに言いたいことがあるから見守ってて欲しいって。
お姉、あれでかなり臆病者ですからねぇ。」
「見守ってて欲しいって……なんだよそれ。あんな文句言うだけで臆病もないだろ。」
愛の告白ならまだわかるが、あんな一方的な文句でなんで付き添いが要るんだよ?
文句自体は別にいい。――呼び出されて嬉しかった自分が悔しい。
「お姉、素直じゃないですからねー。私はちゃあんとわかりますけど。」
「――詩音、なんか知ってるのか?……オレ、なにかあいつに悪いことしたか!?」
知らないうちに、またあいつを傷つけて、追い詰めたのか――?
「ですから、流しの翻訳家ですよ。…明日エンジェルモートでパフェおごってくださいね☆」
……ちゃっかりしてるが憎めない笑みを浮かべる詩音に頷き、答えを求める。

「圭ちゃん。……お姉ってば妙に言葉を区切ってませんでしたか?――それがヒントです。」
強調というには不自然な口調。………いや、強調してるのは、まさか――!
「――まあ、暗号というには単純すぎますけどねー。
でも複雑すぎてわかってもらえなかったら嫌ですもんね。この位でちょうどいいのかも。」
やけに力がこもってた区切られた頭の一音。それを繋げると――。

『 だ い す き 』

………………………っ!!
顔がかあっと熱くなるのがわかる。慌てて顔を覆うが時すでに遅し。
「じゃあまた明日です。……放課後、お店で待ってますから。」
詩音はにまにましながらオレを見て、嬉しそうに去っていった――。


【魅音】

「――魅音。……ちょっと付き合ってくれないか。」
顔を赤らめながら、圭ちゃんが私を呼ぶ。
………わ。昨日の今日だからこっちまで恥ずかしくなっちゃうよぉ…っ。
圭ちゃん、わかってくれたかな……?
高鳴る胸を押さえつつ、圭ちゃんの後をついて校舎裏に行く。

「ちゃんと聞けよ。大事な話なんだ。二度は言わないからな。」
勿体ぶって、すう……と深呼吸。
「おじさんなんて色気のかけらもない一人称やめたらどうだ?
連戦連勝を鼻にかけて威張りくさってないで、もっと女らしくしたらどうだ?
だんだんホントのおじさんになっちまうぞ?」

………!!え、ええっ!?
なにっ、なんなの圭ちゃんってばっ…!

私はただ、去って行く圭ちゃんを呆然と見送るしかできない。 
じゃりっ。
背後で、砂利の踏まれる音。
「え〜、流しの翻訳家はいかがですかぁ?」
「詩音っ!?……な、なんでここにっ……?」
「お姉が見守ってて欲しいって言ったんじゃないですかあ。
頼まれた以上、私は見届ける義務があるんですよ。…ん?」
「………し、詩音ん……っ。私、圭ちゃんに嫌われちゃったよぉ……っ!」
女らしさのかけらもない私だもの、振られるのは仕方ない。
だけどあんな酷い言い方しなくたって……っ。
どうしよう、泣きそうだ。………詩音がいてくれて、よかったかも……うっく。
「ちょっと待ったお姉ぇっ!仕掛けた方が気付かないでどーすんですかっ!?」
「うっく………、………へ?」
こほん、と咳払いをして、高らかに宣言する。
「私は、流しの翻訳家ですよ?翻訳料として、あとでエンジェルモートに来てくださいね。」

「翻訳家………翻訳………、………あっ!?」
「そうです。お姉と同じ、頭一文字です。……もうわかりますよね?」
圭ちゃんの言葉の頭の一音。それを繋げると――。

『 お れ も だ 』

………………………っ!!
顔がかあっと熱くなるのがわかる。慌てて顔を覆うが時すでに遅し。
「……さて、これから一緒に、お店に来てもらいましょうか。
 ――大丈夫大丈夫、おごりですからね。」
詩音はにまにましながら私の手をとり、歩き出した――。


【圭一&魅音】

その後、魅音と圭一はエンジェルモートで鉢合わせ。
「「………嵌めたね(な)詩音っ。」」
思わずハモってしまう二人だった。
真っ赤になってる二人の前に、ウエイトレス姿の詩音が大きなパフェを持ってやって来た。
「お待たせしましたぁ。パフェ2つです☆…約束通り、これは圭ちゃんのおごりですからね〜。
――それでは、ごゆっくり〜♪」
二人を嬉しそうに見比べながら、軽やかな足取りで去っていった――。







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