ファミリー〜祟殺し編・沙都子救済作戦〜大団円編


大団円編 〜もう誰もなかない世界〜

 『ファミリー』全編に込められた沙都子への想いを託します。
 どんなに強引な展開でも、沙都子の幸せを喜べたならあなたは合格。
 この最後の小話は、そんなあなたへのささやかなご褒美です。
 突っ込み無用。あなたはこの物語を拒否する権利はありません(笑)。


沙都子は学校へ向かっていた。
叔父が珍しく遠くへ出かけ、やっと自由な時間ができたのだ。
今はとにかく仲間に会いたい。
たとえ一時でも、幸せな時間を過ごしたい――
校庭に一歩足を踏み入れると、そこには……。

「――――ただいま、沙都子。」

「――――――――――に、」
声より早く、駆け出していた。
夢にまで見た、あの頃のままの、懐かしい声の――――
「にーにー!!」
受け止めてくれた手は、暖かかった。
「にーにー、にーにぃぃ……っ!」
ああ、夢じゃない。確かに悟史だ……。
「話は聞いたよ。よく頑張ったね。――でももう我慢しなくていいんだよ。」
ふわ……。優しく頭を撫でる暖かい手。待っていた言葉。
「――ふ、ふわあぁああぁぁあぁあああぁぁあぁ……っ!」
今までの苦しさや寂しさ、辛さや痛みを洗い流すように流れる涙。
泣きじゃくる沙都子を、悟史は優しく撫で続けた――。

「にーにー、もう大丈夫ですわ。……お帰りなさいませ……!」
泣き腫らした目で、にっこりと微笑む沙都子。
気がつくとみんなが校庭に集まっていた。
「よかったな沙都子。…もうにーにーの代わりは要らないかな。」
ちょっと寂しそうに圭一が笑う。沙都子の胸が軽く傷んだ。
「圭一さん…。円満退職とは甘いですわ!圭一さんも私のにーにーでしてよ!」
「雇用主の命令じゃ仕方ないな。…にーにー2号ってことでよろしくな悟史!」
「あはは……よろしく、圭一。」
握手を交わす二人の兄を見て、沙都子は幸せそうに微笑んだ。
「沙都子ちゃん、よかったねぇ!レナも嬉しいよ悟史くんっ。」
満面の笑みで近寄って、かぁいいかぁいいといつものようにはしゃぐレナ。
「レナさんにも心配かけてすみませんでしたわねぇ…でももう大丈夫ですわ。」
「沙都子を可愛がってくれてありがとう。」

「悟史…、沙都子はいっぱい頑張ったんだよ。だからいっぱい甘えさせてあげて。」
おずおずと、魅音が声をかける。いつものような威厳はない。素の魅音だった。
「魅音さん……。それは魅音さんも同じですわ。」
「魅音もいろいろ苦しかったと思う。本当にありがとう。」
「……そ、そんなこと言われたらおじさん困っちゃうよぉ……っ。」
バトンタッチね、と魅音は照れながら後ろへ下がった。

「――沙都子、よかったですね。――悟史くん……お帰りなさい。」
震える唇を噛み締めながら、無理に笑顔を作る詩音。
「詩音さん………。――今だけですわよ。」
「へ?――――あ……っ。」
「詩音。……沙都子を守ってくれてありがとう。僕を庇ってくれてありがとう。
 僕にできるのは、これくらいでごめんね。」
優しく頭を撫でられて、詩音の涙腺が決壊した。
「うえっ……うっく、さとしく、……悟史くん……っ!」
「にーにー、詩音さんは私よりずうっと甘えんぼさんですわよ☆」
「あ、あまえんぼで、いいもん……っ、うっく……」
詩音が落ち着くまで、悟史は優しく撫で続けた――。

「沙都子。よく頑張ったのです。いい子だったからご褒美がきたのですよ。」
「梨花……っ!」
沙都子は自分を孤独から救ってくれた友達に――ボクに抱きついた。
「ありがとう……本当にありがとうですわ…っ。
梨花がいなかったら、私、とても耐えられなかった……!」
すがり付いて泣く沙都子の背を、ボクは優しく撫でる。
「梨花ちゃん、本当にありがとう。」
悟史はそんな沙都子とボクの姿を見て、一回深呼吸してきり出した。
「叔父さんに話をしてきた。」
「――――え?でも叔父様は今街に……」
「後で詳しく話すけど、あの人はもうここには来ないよ。だから――」
沙都子とボクを交互に見る。ボクも沙都子も悟史をじいっと見つめている。
「沙都子。梨花ちゃん。――あの家で、一緒に暮らそう。」
「ボクも――なのですか。」
「うん。梨花ちゃんは沙都子にとってかけがえのない親友だからね。
 それに僕は頼りないから、梨花ちゃんみたいなしっかり者がいないとね。」
「梨花………私からもお願いしますわ。」
二人の突然のお願いに、ボクは相変わらずの無表情。
みんな固唾を呑んで見守っている――。
「………………………。」
「………………………。」
「………………………。」

「にぱ〜☆」

わあっ。
歓声があがる。
「よおしっ!今日の部活は沙都子と悟史と梨花ちゃんの新しい家の大掃除だよ!
放課後みんなで集合すること!いいねっ!?」
「「「「「おーーーーーーーーーっ!!!」」」」」

ひとしきり騒いだ後、さすがに日差しがきついので、みんなで教室に移動した。
悟史は懐かしい教室で落ち着く間もなく質問責めにあった。
「にーにー、今までどこに行ってたんですの?
どうしていきなりいなくなってしまったんですの…っ?」
「――ごめん。実はあの時…………叔母を、殺そうと思ったんだ。」
「にーにー……。…それは私も考えましたわ。ですからそれは責められません。
 私だって、あの人がいなくなればどんなにいいかって、ずうっと…。」
悲痛な告白だったが、兄妹の心情はよくわかる。みんなはじっと次の言葉を待った。
「――でも、にーにーではなかったのでしょう…?」
「――うん。僕は殺してはいない。…殺せなかった。怖かったんだ。
 殺してしまえば、負担は軽くなる。だけど――、」
言葉を切り、詩音を見つめながら。
「僕はせっかく得られた僕自身の幸せを捨てたくなかった。だからできなかった。」
「悟史くん……っ。」
「――でも、僕が望んでいたように叔母が死んで、警察に呼ばれて、
 もう何がなんだかわからなくて、どこをどう歩いているのかもわからなくて…、
いきなり背後から口を塞がれて、意識が途切れて、それから――」
「どうして!?なんで悟史くんが…っ!」
「そうですわっ、にーにーがどうしてそんなっ、」
「大丈夫、僕はね、守られていたんだよ。」
「「………………………え?」」
「知らない場所に連れて行かれ、知らない部屋に閉じ込められて。
 でも顔を隠した男の人が、僕の世話をしてくれたんだ。
 『無実が証明されるまではここにいろ。
そして妹や大切な人を守れるくらいに強くなれ。僕のように。』 
その人はそう言って、僕に護身術や生きるための知恵や技術を教えてくれた。
…沙都子も強くなったけど、僕も少しは強くなれたよ。
――カリフラワーとブロッコリーの区別はできないけどね。」
「一体、何者………」
「………なんですの、その人。」
さらりと語られるすごい事実に、沙都子も詩音もそしてみんなも同じ疑問を抱く。
「あ、でも悪い人じゃなかったよ。――ほら!」
「――――――――あ!!」
「クマさんなのです。」
「か、かぁいいよぉ〜、大っきいよぉ〜〜。」
持っていた大きなボストンバッグから取り出された大きなぬいぐるみ。
それは沙都子が前にねだった、悟史ごといなくなってしまった、
あのクマのぬいぐるみだった――。
「僕の代わりに買っておいてくれてたんだ。もちろん後でお金は払ったけどね。」
「一体何者なんだ、そいつ……。」
「園崎家の方でも散々調べてたのに、そんな情報入らなかったよ…?」
「僕にもわからないんだ。何度も聞いたんだけど、教えてくれなかった。
 僕の大切な人たちに――みんなに迷惑がかかるといけないからって。」
「そっか……。」
誰だかはわからないが、身を案じてくれていることだけは確かだろう。
「――ただ、これだけは伝えて欲しいって言ってた。」
「――――なんですの?」

「『にぱ〜☆』」

………………………。しばしの間。
「――な、何ですのソレ?まるで梨花みたいですわね――――梨花?」
つう………。
ボクの瞳から、涙がひとすじ。
けれどその瞳は輝き、頬はいきいきと紅潮して喜びを主張していることだろう。
「梨花、どうしたんですの……?」
「――その人はね、叔父を呼び出して説得してくれたんだ。
 叔父がここを離れて真っ当な職に就くのを見届けたらここに来るそうだよ。」
「ボクを……忘れないでいてくれたのですね……守ってくれるのですね。
――――――………か、さか………っ!」
「梨花……………?」
「……大丈夫なのです、悪い人じゃないのです。…ボクが保障しますですよ。
 今日は頑張って新しいお家のお掃除するのですよ。」
沙都子と悟史とボクの、そしてもうすぐやってくる彼の、住む家。
笑い声の絶えない、暖かい、明るい家庭。
新しい、家族――。

会えなかったけど、離れていたけど、血は繋がっていないけど、
ボクたちは、みんな、ファミリー…――。








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