ファミリー〜祟殺し編・沙都子救済作戦〜赤坂編


赤坂編 〜妄想は控えめに〜

 …他編に比べて一見平和的解決ですが、非常に悪質です(笑)。



「父さん、母さん。――聞いて欲しい話があるんだ。」
仕事がひと段落し、珍しく家で寛いでいる両親に、俺は話を切り出した。
忙しい両親が二人とも家にいる……これはオレに与えられた最後のチャンスだ。
今を逃したら、きっともうチャンスはない――。
「――あら、何かしら圭一?…お小遣いの前借ならダメですからね?……ふふ。」
「何を言ってるんだ母さん。年頃の少年が話があるって言ったら、
女の子のことに決まってるじゃないか!……レナちゃんか?
それとも他に気になる子でもいるのか?父さんに話してごらんっ。」
――ごめんよ父さん。……そんな楽しい話じゃないんだ。
「女の子」の話ではあるけれど。
「――オレ、ここに来て初めて本当の友達ができたと思う。
年も違うし、女の子ばかりだけど、そんなの関係ナシに大切な仲間なんだ。
……オレはまだガキで、なんにもできない。
父さんや母さんがいて、初めてここで生活してゆけるほどのちっぽけな存在なんだ。
そんなオレがこんな話をするのは間違ってるかもしれない。
だけどもう、父さんや母さんに頼るしかないんだ…っ!」
「――圭一……。とにかく話してごらん。
お前がそこまで真剣になるってことは相当深刻な内容なんだろう。」
「今、お茶入れるわ。……落ち着いて順序だてて話してみて。」
「父さん、母さん。………ありがとう。――実は――……」

オレは沙都子の今の状態と仲間で話し合った解決案を、
なるべく主観を交えないように説明した。
二人とも、合間に質問を入れたりしながら真剣に聞いてくれた。
父さんや母さんとこんなに話をするのって、初めてかもしれない――。

「………そう……難しいわね。」
「相手が人間だからな。…でも、そんなことはもうみんなで話し合ってわかってるんだよな。」
「―――ああ。」
「養子の話は置いておきましょう。相談所に通報するのも待ったほうがいいわ。
早まった行動を取ったら、その叔父さんが沙都子ちゃんに何をするかわからないし。
…逆上して、取り返しのつかないことになってしまったら大変だもの。
そうなったら沙都子ちゃんも、叔父さん自身も、より辛い状態になってしまうのよ。
関係修復の可能性すら潰してしまうことになりかねないものね。」
「そっか……それであんなに頑なに何もないふりをしていたのか…。」
叔父と沙都子の関係修復なんて、思いつきもしなかった――。
知恵先生に通報をせっつかなくて本当によかった。やっぱり冷静な大人の意見は大切だった。
――認めよう。オレたちは、子どもなんだ。
変な意地を張らずに頼れるものには頼っていいはずだ。
………沙都子だって。
「――とにかく、沙都子ちゃんにはどうにかして学校へ通ってもらわないとね。
ずっと二人きりじゃ、息が詰まって虐待がよりエスカレートしてしまうかもしれないし。
なにより、友達に会うことは大切だわ。」
「……そうだな。――圭一、確かその叔父さんは入江さんという人にだけは友好的なんだな?」
「あ、うん……。叔父の方が一方的に親しげにしてるだけみたいだったけど。」
「その入江さんは沙都子ちゃんを救いたい、とおっしゃっているんだね?
 養子にしたいほどに。」
「うん……。」
メイド妄想云々はこの際言わないでおこう。
「入江さんの力を借りたい。圭一、連絡を取ってくれないか。」
「――わかった。……ありがとう……。」

「……わかりました。すぐに伺います。――よく決心しましたね。」
オレの電話で、監督はすぐ駆けつけてくれた。
母さんの手料理を振舞われながら、作戦会議という名の親睦会。
父さんと監督は、意外にも…というかやっぱり…というかメイド談議に花が咲き、意気投合。
孤立していると思われていた前原家も、これで雛見沢に溶け込めるかもしれないな……。
白熱化するメイド談議を見守りながら、オレはくすぐったいような嬉しさに包まれていた――。

――翌日、学校で監督と一緒に、みんなに今回の作戦を説明した。
「……すごいね。ちょっと面白いかも。…ごめん、不謹慎だね。」
「――でも、魅ぃちゃんがそう思うのもわかるよ。…なんでも協力するからね?」
「ちょっと待って欲しいのです。」
「――梨花ちゃん?」
……まさか、ここで梨花ちゃんに止められるなんて……。
何かオレたちの気付かない致命的なミスがあるとでもいうのか?
「――そうじゃないのですよ。その作戦にうってつけの人を知ってるのです。
……大石に連絡して、すぐに探し出してきてもらうのですよ。――――きっと、彼なら。」
「「「「大石!?」」」」
あいつに関わっちゃまずいんじゃないか?
……いや、あいつの仕事は雛見沢で起こる悲劇を食い止めることだ。
児童虐待だって、立派な悲劇だろう。そこらへんは父さんや監督に話してもらえばいい。
「――わかった。……で?その人って一体誰なんだい?どんな人なんだ?」
「準備しながら話しますよ。――ちょっと長い話なのですよ。」


プルル……プルル……ガチャ。
「――あ、こんにちは鉄平さん。入江です。……どうですか一局?
――ああ、面子は私の知人を連れてゆきますのでご心配なく。…いいカモですよ?」
がははという下品な笑い声と共に受話器が置かれる。
――第一段階成功。

ピンポーン。
夕方、北条家のインターホンが鳴る。
鉄平は臨時収入を期待してニヤニヤしながらドアを開けた。
「――こんばんは鉄平さん。ご紹介します。私の知人の前原さん。
……ほら、最近こちらに引っ越してこられた、前原屋敷の。」
お金持ちですからね、カモり放題ですよ?
そんな含みを持たせて、入江は前原という男を紹介した。
腰の低そうな、にこやかな男。芸術家とのことで、浮世離れした雰囲気が漂う。
レートを高くして、あの前原屋敷ごとかっぱぐのも悪くない……。
鉄平はカモの登場に目尻を下げながら愛想よく挨拶した。
「――で、こちらが赤坂さん。麻雀は不慣れなそうですから、お手柔らかに願いますよ?」
身体は精悍そうだが、野暮ったいスーツに身を包み、気の弱い、
金のなさそうな善人といった印象の赤坂は、入江の言葉に頭を掻いて一礼した。
こいつはカモに不審がられないためのデコイ(おとり)だな……。
やっぱり俺の見込んだ通り、入江は虫も殺さぬような顔をしてなかなかの食わせ者だ。
「沙都子っ!酒だ!つまみも用意しろ!」
「――はいっ、わかりました……っ。」
沙都子は鉄平の声に萎縮しながらも、入江の訪問に何かを感じていた。
『大丈夫だよ。』
そんな笑顔を向けた入江に、圭一の、みんなの心を。

――同時刻、北条家近く。
「大丈夫かな、あの赤坂さんって人……。」
「圭ちゃん、梨花ちゃんの認めた人なんだよ?心配要らないって。」
「あの人、麻雀すっごく得意なんだってね!すごいよね…よね!」
「赤坂がいれば大丈夫なのですよ。」
にぱ〜☆
いつものように、けれどいつもよりもっともっと嬉しそうな笑顔。
「――そうだな。オレたちにはまだオレたちの役目があるんだ。――信じて待つよ。」

「あちゃー……また負けちゃいましたな。」
「お強いですね鉄平さん。…お手柔らかにお願いしますよ?」
「――いや、すごいですねー…。僕には何が何だかさっぱりわからないです。」
思った通り、こいつらはいいカモだった。
カモを紹介してくれた入江は不自然にならない程度に負かせてはいるが、
大した出費ではないだろう。
――よし、ここで追い討ちをかけてやれ。
こいつらは気付いてないだろうが、本当に家一軒手に入るくらいのかなりの高レートだ。
前原には女房子どもがいるらしいから、間借りぐらいはさせてやるか?
俺は優しい男だからなあ…くっくっ!……心の中で笑いながら、牌をかき混ぜる。
「――いやあ、まぐれまぐれ。ここからが勝負ですよ!初心者の方が怖いんですからな。」
「んー、じゃあ僕も頑張ってみますね。」
ひゅう………。
にっこりと笑う赤坂の背後から、冷たい風が吹き抜けた、気がした――。

「――そ、そんなっ………!」
「これは………驚きましたね。まさかあなたが――。」
「――あ、赤坂さんっ、何ですかそのすごい手は……っ!」
「――え?えーと?……よくわかりませんけど、勝っちゃったみたいですね。あはは。」
――なんてこった……。
「点数は私が数えましょう。………………。これは私にもかなりキツいですね…。」
彼の口から出た負け分の金額は、俺の身体中から力を抜けさせるのに充分だった。
「――えいくそ!俺の負けだよ!!………だがな、こんな大金、俺は持ってねえんだ。
――沙都子、おめーはないのか!?」
「――え、ええっ!?………そんなっ、ある訳ありませんわ……っ。」
畜生、遺産をどこかに隠してるんじゃねえのかよっ!?
――よし、ちょっと脅しつけてみるか……。
「それじゃあ仕方ありませんなあ……。――赤坂さん、代わりにこの沙都子はどうですかね?
私はこの家以外に居場所がねえんで、この家を手放すわけにはいかないんですわ。
……沙都子、今日からおめーはこのお兄さんの家の子だ。可愛がってもらいな…色々とな。」
「………………っ!!」
沙都子は俺の言葉に目を見開き、そのまま黙り込んでしまった。
「――いやあ、しかし法律上は鉄平さんに親権があるんですから、それはマズいでしょう…。
あとで赤坂さんに追求がきたら色々と困ることになるんじゃないかと…。」
――――ちっ!……まあ確かに変に突っ込まれたらマズいな……。
痛い腹を探られちゃたまったもんじゃない。
「――よし、じゃあ証文を書きましょう。親権はそのままで、
赤坂さんに面倒をみてもらうって証文を!……それならいいでしょう?」
「――は、はあ………。」
「そりゃすごいですねー!赤坂さん、こんな可愛い子を手元に置けるなんて…。
ウチなんて可愛げのない思春期真っ盛りの息子で困りますよ――」
もう何でもいい。とにかくこの負けを上手いこと誤魔化せれば何とかなる。
この家さえ残っていれば売り食いできるだろうし、隠し財産だって探せる。
借金なんざごめんだからな。
テキパキと証文を書き、印鑑と拇印を押す。
「――ほらよ、証文と沙都子だ。好きにするといい。」
「――――ひっ!!」
沙都子の腕をつかみ、証文と一緒に赤坂に押し付けてやる。
怯える沙都子に、赤坂は小さく笑いかけた。
『にぱ〜☆』
「………………っ!!」
俺にはよく聞こえなかったが、沙都子の身体の強張りが抜けてゆくのがわかった。
きっとすべてを理解して、観念したのだろう。
「そいつは育ち盛りですからねえ。もう少し待ちゃあ、充分………」
「――北条鉄平さん。僕はちょっと驚きましたよ。まさか賭け麻雀だったとは…。
しかもこんな高いレートじゃ、お遊びでしたじゃ済みませんよね。」
――あン?何言ってやがるんだこいつ?
「イヤですなあ、しっかり娘をもらっておいて――。……あんたももう仲間ですよ?」
笑顔の後で凄んでみせる。大抵の奴はコレで震え上がり、逃げ出すか、ゴマをするか――。
「――それがね、違うんですよ。」
赤坂は、俺の凄みなど意に介せず、にっこりと笑う。なんだ、こいつ……っ。
「自己紹介がまだでしたね。僕は赤坂衛。――刑事です。」
――――っ!!な、なんだと…っ!?
「……これは驚きました、赤坂さんは警察の方だったのですね。」
「いやー、こりゃ参りましたなあ!!捕まえないでくださいよ赤坂さん――」
「――赤坂さん、人が悪いですなあ…。この位、ギャンブル好きなら軽い方じゃ――」
「賭け麻雀だけならまだしも、少女を売りつけるような真似までとは…。
目をつぶるにも限度がありますね。」
――やべえっっ!!
「――ち、違う違うっ!!誤解ですよっ!!
……ほら、私は見ての通りのヤモメのギャンブル好きでしょう!?
これじゃ沙都子が可哀想なんで、賭け麻雀って名目で人を集めて、
誰か信頼できる方に沙都子の面倒をみてもらえないかと――ねえ入江さんっ?」
乗ってくれよ、さもなきゃアンタも共犯だからな――!
「――え?……ええ、そうです、そうなんでした。……いかがでしょう、赤坂さん。」
俺の真意を理解したのか、あっさり乗ってきた。……やっぱりこいつはかなりの食わせ者だ。
「――ああ、そうなんですか。…それは失礼しました。
麻雀をしながら僕の人柄を見定めていたのですね。…お眼鏡にかなって光栄です。
せっかくの信頼を裏切るわけにはいきませんね。入江さんにはお世話になってますし。
――わかりました。沙都子さんの面倒は僕がみさせて頂きます。
……とは言っても、実は僕もヤモメでして、娘を実家に預けて来ている身なんですよ。
ですから――――。」


「――赤坂。本当にありがとうなのです。」
「間に合ってよかったよ。…遅くなってごめんね。」
「ボクを覚えていてくれて、嬉しいです。」
沙都子は再び梨花ちゃんと一緒に暮らすことになった。
どうなるかと思っていた叔父は、父さんと監督がマメに訪問することで変わっていった。
この二人のメイド談議「口」撃で、徐々に洗脳されているようだ。
メイドの気持ちを体得するためと、メイドのコスチュームを着て部屋の掃除をしたり、
洗濯をしたり、料理をするようになったり……。
あんなに荒れていた北条家は、見違えるほど綺麗になった。
その家の中でメイドコスチュームに身を包み家事にいそしむ姿は、
息子として、一人の村人として、見たくはない姿だが。

赤坂さんは、しばらく雛見沢に滞在するという。
「ボクのところにいるといいのですよ。」
「ありがとう。――僕は梨花ちゃんを守る。守ってみせる。
こうして沙都子ちゃんを守れたようにね。」
「にぱ〜☆」
「にぱ〜☆」
笑いあう二人を見て、沙都子が自分もと加わってきた。
「にぱ〜☆ですわ。」
楽しそうな三人を見て、さらにみんなで――。


「「「「「「にぱ〜☆」」」」」」







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