ちいさな勇気。



圭ちゃんが、泣きながら許しを請う。
私にすがり付いて、何度も謝る。

――正直、圭ちゃんの言ってることはよくわからなかったけれど。
でも大切なことだってことだけはわかるよ。
私からは言わなかった――言えなかったけれど。
私にも、けっして消せない罪がある。
私も「あの日」の過ちを背中に刻んで、一生償いながら生きてゆくから。
だから私は圭ちゃんを許す。

圭ちゃんの暖かい温もりとともに、優しい心が流れ込んでくる。
私は、圭ちゃんを――信じるよ。
一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。そう思うから。
だから私も出来る限りのことをするよ。
圭ちゃんやレナや梨花ちゃんや沙都子、大切な仲間たち。
みんなの平穏な生活を守るために。




「……うぉ。何だかやたら可愛いのが出てきたぞ。」
みんなへの、私にはない、善郎おじさんからのお駄賃。
圭ちゃんの手に渡ったのは、ひときわ可愛い、女の子の人形だった。
「あっはっはっは!圭ちゃんには一番似合わないのが出てきちゃったねぇ!
 圭ちゃんが持ってたら、確実に明日から変態扱いだね。うん!」
私は明るく笑い飛ばす。けれど――。
ずきん。
………あれ?
どうしたんだろう。左手の、爪が――痛む。
何かを警告している。頭の中に、古い映画のような映像が流れ込んでくる――。


「圭ちゃん……ごめんなさい。私にも許されない罪があるの。
 私……私のワガママのせいで、『魅音』を奪ってしまった。
 私が詩音だったのに、お姉から。
 そのせいで『詩音』は遠くの学校へ追いやられ、辛い思いをさせてしまった。
 私がワガママを言わなければ、詩音は『魅音』のままだった。
 私が『魅音』だったから、だから悟史を救えなかった。
 詩音が『魅音』だったなら、詩音だけじゃなく、沙都子をも救えたはずなのに。
 沙都子が幸せなら、梨花ちゃんだって、レナだって幸せでいられたはず。
 みんなが幸せなら、圭ちゃんだって幸せでいられたはずなんだよ。
 ――それでも圭ちゃんは、私を許せるの?」
――あ、………れ。
……これは、いつの――何の、記憶?何の、懺悔?
教室で、泣きながら圭ちゃんに――みんなに懺悔している。
知るはずのない世界を、未来を知っている『私』からの、私への、警告。

――そうだ。私は『あの時』、勇気を振り絞って圭ちゃんに、みんなに打ち明けたんだ。
圭ちゃんも、みんなも「魅音は魅音だ」と受け入れて――許してくれた。
……頑張れ魅音、あの時の勇気に比べたら、これくらい――!

「――け、圭ちゃんっ!!そのお人形……わた、私に、くれないかなぁ……。」
「――――魅音?」
「似合わないのはわかってる。柄じゃないのもわかってる。
 でも私、圭ちゃんから、そのお人形もらいたいよ……!」
「………………いいよ、魅音。」
ぽす。……と、私にお人形を抱かせてくれた。
「――あ、ありがとう、圭ちゃん……っ。」
「うわぁ、魅ぃちゃんよかったねえ!」
「魅音さんはお綺麗ですから、よく似合ってるでございますわよ。」
「魅ぃもかぁいいのが大好きなのですよ。圭一もびっくりなのです☆」
真っ赤になってうつむくだけの私と、からかうでもなく喜んでくれるみんな。
善郎おじさんは満足そうに店内に入っていった。

「よかった、本当は魅音にあげたかったんだが、なんか照れくさくてさ…、」
圭ちゃんの言葉は、お人形よりももっと嬉しかった。
――簡単なことだったんだ。

そう、未来を変えるのは、ほんのちいさな勇気だけ。







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