「そして、アタシが消えるまで。」 
  


まず見えたのは、アタシの手。
真っ赤なマニキュアが施された、爪も剥がれた痛々しい指先。
次に見えたのは、振り下ろされる鉄パイプ。
それが当たるたびに腕や脚が変な音を立てて歪んで見えるけど、でももう痛くない。
その合間に見える、雛見沢の綺麗な空。でもやけに遠い。
それから、今まで相手にしてきたどんなチンピラより恐ろしい顔をした少女。
その瞳がアタシをとらえ、そして――。


気が付くと、アタシはアタシだった肉塊を見下ろしてた。
ボロ切れのようなそれとは違って、アタシには傷ひとつない。
あーー……アタシ、死んじまったんだ……。
あんな小娘に殺られるなんて、シクったなあ。こりゃ鉄っちゃんもヤバいかな?
いくらいいカモでもコブつきにはちょっかい出さない方が賢明だね。次があったら覚えとこ。
なぜかアタシは自分の死をすんなり受け入れてた。
むしろ面倒から解放されてすっきりした。
アタシを殺した少女は酷く疲れているようだった。……そりゃ疲れもするか。
これから「アタシ」をどうするつもりかねえ。
いくら人があまり来ない場所ったって、死体はこれからどんどん傷んで臭う。
軽く埋めたくらいじゃ野犬に嗅ぎつけられる。掘り出されたらアウトだ。
燃やすにしたって、人ひとり燃やしきるには時間もかかるし、火葬場みたいにはいかない。
かえってカサが増して面倒になるだけだ。
男手のひとつもないとスムーズにはいかないんじゃないかな?
アタシの死体なのに、アタシってばおっかしいの。
……今夜にはもう鉄っちゃんが乗り込むだろう。
アタシがいなかったらトンズラしたって思うだろうね。
もうアタシはいないから、アタシの部屋から何でも持ってって、どこへでも逃げな。
そう言ってやりたかったけど、アタシはここから動けないし、会いに行ったところで言葉なんて通じないだろう。
幽霊ってやつも、意外と不便だ。

……あの小娘に連れられて、鉄っちゃんがやって来た。
まんまと口車に乗せられて、こんなヤバそうな場所までのこのこ来ちまって、素直に灯りまで提供して。
――バカな男だねえ。アタシがいないとこれだもん。

……鉄っちゃんも幽霊になるかと思ったのに、出て来てはくれなかった。
なんでだろう。不意打ち過ぎて未練も何もなくあの世に行っちまったのかな?
お嬢ちゃんは結構やり手だった。
アタシとガタイのいい鉄っちゃんを、まるで魚でもさばくみたいに同時に解体した。
不思議と不快感はなかった。
だってアレはただの入れ物だもん。
アタシも鉄っちゃんも、あの中にはもういないから。
本当に上手くいってたと思うよ。
――お友だちにさえ見つからなけりゃよかったのに。

そこから始まるお嬢ちゃんの長い話と責任転嫁はすごかった。
それにまんまと乗せられ結果的に片棒をかつがされちまった「仲間」たち。
……ガキだねえ。
お嬢ちゃんの過去と現在は確かに不幸だ。
でもそれと「仲間」を責めることとは別問題。
痛いところを突かれた子どもたちは彼女を責めることができなくなり、
「自分の心の安定のため」、彼女に協力せざるを得なくなる。
彼女を警察に突き出したら、「裏切り者」で彼女の敵になってしまうから。
だから秘密を共有して死体を隠蔽するしかなくなる。
おそらく無自覚であろうお嬢ちゃんの誘導には驚かされたよ。
……ハナっからこういう面を見せていたら、カモの娘でなかったら、
ひょっとしたら気の合う友人になれてたかもしんないね。

「アタシ」と鉄っちゃんは、どこぞの山中に運ばれ、埋められたみたいだ。
なのにアタシはここにいる。
アタシの人生で一番強く印象に残ったのはここだってことか……。
情けない人生だったよ、我ながら。
お嬢ちゃんは「仲間」と秘密を共有して、今まで通り過ごせるかな?
……無理だろうね。
だってあの子は罰されていないから。
「仲間」が許しても、自分が納得できない。
そして「仲間」もそう遠くないうちに間違いに気付くはず。
鉄っちゃんはともかく、アタシの場合はせいぜいが過剰防衛だ。
鉄っちゃんの方は完全な計画殺人だけど、未成年だし事情も考慮されてそう重い罪にはならなかったろう。
自首して罰を受けて楽になった方がよかったはずだよ。

――案の定、お嬢ちゃんは日に日に追い詰められ、「仲間」とも上手くいかなくなっちまったようだ。
彼女はここに姿を見せるたびに痛々しくなってゆき、そして……。
ある日、やけにすっきりした表情になった。
――ヤバいな。変に開き直ってる。
ここにまで彼女を探す人間が現れたってことは、アタシたちの死体でも出たんだろうか。
それとも、「仲間」のリーク……?
動けないって、もどかしい。

――すごい騒ぎだった。
こっちの方にまで人が来て話してた。
あの子が人質をとって分校に立てこもって、色々あったらしい。
でも、あの子は「仲間」と和解して、ちゃんと警察に行ったみたいだ。
……よかった。まだ若いんだからいくらでもやり直しがきくよ。
きっとあの子はアタシみたいにはならない。
安心したら、急に視界が暗くなってきた。
……そっか。
アタシ、あの子のことが気になってここから離れられなかったんだ。
ここはあの子の聖域だから。あの子の居場所だったから。
アタシを殺したあの子がどうなるか知りたかった。
生きてるアタシが最後に見たあの子の瞳が忘れられなかったから。
だから……。

ゴミに守られた主のいない城を見て、そして雛見沢の夜空を見上げる。
月がやけに大きい。
でもそれも霞んできた。
さて。アタシはもう行くよ。
これから大変だろうけど、頑張りな。
あんたには「仲間」がいる。強く生きていける。
アタシは確実に地獄行きだから、いつかあんたが行く天国ではきっと会えない。だからここでお別れ。
――じゃあね。







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