「特効薬の処方箋。」


「ちょっと、圭ちゃん……。どうして私たちはこんなところにいるんです?」
「しー。あんまり大きな声出すなよ。まわりに迷惑だろ?ここは図書館なんだから。」
「うーーー……。」

圭一とのデートは、興宮の図書館。
目の前には数字のいっぱい並んだ計算式の問題集。
そりゃみんなとのデート内容までは知らないけど、それぞれ楽しい時間だったと聞いている。
なのに、どうして……。
「――ほら、ブツブツ言ってないで問題解け。詩音ならできるだろう?」
「そりゃあこのくらい私なら楽勝ですけどね。お姉ならともかくとして、」
「魅音だってあれで結構勉強できるぞ?……ほら、とりあえずこのページだけでいいから。」
「はいはーい。わかりましたよー。」
めんどくさー。つまんなーい。
あれからせっかく強引に圭一とのデートの権利を得たってのに、何ですかコレ。

『私だけ、仲間外れ?』

……違う違う、それはない!
私ったら、気を抜くとすぐネガティブな思考になるから困りますね。
気を取り直して、目の前の問題に取り組み、答えを書き込んでゆく。
「――うん、さすが詩音だ、正解だな!」
「まあざっとこんなものですー。」
「でもさ詩音、」
「――――――え?」
圭一が手をのばし、私の計算式の下にサラサラと書き込んできた。
それは、まどろっこしい寄り道のいっさいない、最短距離の、美しい計算式だった。
「答えは同じでも、全然違うだろ?」
「はー……すごいですね圭ちゃん。正直見直しました。」
圭一は頭がいいとは聞いていたけど、実際に目にすると意外というか、らしくなさに驚いた。
「思い悩んで苦しむのもそりゃあ大事だが、考え過ぎるのもよくないぜ?
 それに、悟史が帰ってきた時に遅れた分の勉強を教えてやるのは詩音の役目だからな。
 なるべくわかりやすく教えられるようにしてやらないと困るだろ?」
「圭ちゃん……。」
――そうか。そのために私を……。
だったら最初っから言ってくれればよかったのに。
でも、ひたすら計算式を解いてゆく作業は、哀しさも寂しさも忘れられた。
頭の中がクリアになってゆくのが自分でもわかった。
「――さ、要領はもうわかったろうから、こんな感じで片付けてゆこうぜ!」
「わかりました圭ちゃん。私の飲み込みの良さに舌を巻いても知りませんからねー☆」

ひたすら夢中で問題を解いていった。
悟史くんのこと、沙都子とのこと、お姉とのこと、園崎家や鬼婆のこと……。
真っ白になった頭の中に、再びそれらが戻ってきた。
綺麗に順序立てて、それぞれの立場や思いとともに。
……家に帰ったら、ゆっくり考えてみよう。

「どうですか圭ちゃん?」
「さすがだな詩音、バッチリだ!これなら悟史も大丈夫だぞ!」
ぽん。圭一の手が、頭に優しく着地する。
「…………っ、」
悟史くんの手の感触を思い出したけど、比べて哀しくはならなかった。
悟史くんは悟史くん。圭一とは違う。
だけど、圭一の手は圭一で、優しく暖かい。
それでいい。
悟史くんの暖かさは、私の中にずっとある。

「ムチだけじゃないんだぜ?この後はちゃんとアメも用意してあるぞ。」
「――――ふぇ?」
「この近くに公園があっただろ。そこで遊ぼうぜ!」
「……はい☆」

夕暮れの公園で、子どもみたいに圭一とはしゃぎまくった。
汗だくになったけど、楽しかった。
圭一のおごってくれた缶ジュースが、美味しかった。

悟史くんが帰ってきたら、同じように勉強を教えて、そしてこうやって公園で遊ぼう。
ありがとう、圭一。
お姉が圭一を好きになった気持ち、今ならわかるよ。








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