「ことだま。」 
2009.2.24「最後の言葉。」 改題  


――声が、聞こえる。

雨の夜。
圭一が二度と戻れない道へと踏み込んだあの場所で。
掘られたばかりの穴の中から。
埋められた男の、声が。

僕は声に導かれ、ひとりここへやって来た。
圭一によるずさんな証拠隠滅の痕跡。
僕がその場所へ近付くと、ぽう…と光の球が浮かびあがった。
『わしは……襲われ殺された。』
声は、この球からのようだ。
『……なぜだかはわからねえ。理由なんざあり過ぎて絞りきれねえ。』
「そうですね。……多過ぎなのです。」
『――痛かった。恐ろしかった。情けねえ話だが、必死に逃げるしかできなかった。』
「自分をこんな目に遭わせた相手が……憎いですか?」
『…………わからねえ。』
光が鈍くなる。
『あのまま生きていても、わしは堕ちてゆくだけだった。』
弱々しい光。
『失って、追い詰められて、わしにはもう暴力をふるうしかできなかった。』
弱々しい言葉。
『止められなかったわしを、止めてくれた。』
「――それでも、殺されていい命なんてないのですよ、鉄平……。」
『そう言われると、少しだけ楽になった気がするの……。』
鉄平の光が、若干明るさを取り戻す。
『――――残された、沙都子は……どうなるんね?』
「わからないのです。僕にはそれを知ることはできませんのです。でも……。」
言葉の先を催促するかのように、光が明滅する。
「でも、幸せにはなれませんのですよ……。」
『………………そうか。』
……しばしの間。
激しい雨音だけが、この場に鳴り響く……。

『今は……どうしてる?わしはここから動けねえ。』
「沙都子は、あの家で……今も鉄平に怯えていますです。」
『わしはもうおらんのに、沙都子……。』
「鉄平のせいだけではないのですよ。仕方ないのです。」
僕のせいでもあるのだから。
『――なあ、沙都子を助けてやることはできんかいのう?』
「沙都子を、助ける……?」
意外な言葉。
沙都子を苦しめてきた張本人なのに。
『襲われて、殺されてわかった。痛かった。苦しかった。恐かった。』
それは、沙都子がずっと受けてきたこと。
『あんなおっかねえ思いをずっとあんな小さい子にさせてたんね……。』
………………。
今までの鉄平からは考えもつかない。
それとも、僕が今まで聞く耳を持たなかっただけで。
彼はこの道筋の世界では、ずっとここで悔やんでいたのだろうか。
「ここまで進んでしまったら、もう無理なのです。沙都子の心はもうボロボロ。」
ひと呼吸置いて、一番嫌な言葉を。
「あとはもう、『終わり』を待つだけ。」
『………………っ!』

いつの間にか地面に落ちていた僕の視界の端に、ちらちらと動く光の軌跡。
鉄平の光が、ここから離れようと何度も見えない壁に体当たりしては落下を繰り返していた。
『沙都子……さとこぉっ』
「やめるのです、わずかな魂すら消えてなくなってしまうのです……っ、」
『かまわねえ』
「鉄平……」
『わしはせめて……沙都子に、すまんかった、と……』
「鉄平!!」
『つた、え……』
慌てて伸ばした両手の中で。
『すまんかったのう……さとこ』
かすかな光が、消えた。
「てっ……ぺい……」
こんなに小さく弱い魂ですら、頑張った。
なのに、僕はまた――――。
「――――――沙都子っ!」
あの子は今もまだ、あの家で怯えてる。
鉄平の幻影に震え、苦しんでる。
伝えたい。けれど、今のあの子には無理。
さらなる恐怖と疑心暗鬼の元となるだけだ。
どうしたら……。
「………………!」
僕の手の中に残った鉄平の最後の言葉に、僕の息を吹きかける。
しゃぼん玉のように包まれた「言葉」は、雨に打たれながらも、上空へ――――。
……僕は梨花とともに、もうすぐ消えてしまうけれど。
どうかこの言葉だけは、沙都子の元へ。


……はぁ、はぁ……っ。
にーにー、見てくださいまして……?わたくし、やりましてよ。
圭一さんに憑りついた鬼を、倒しましたのよ。
わたくし、強くなりましたでしょう……?
風にきしむ吊り橋。下はもう見ない。
……いつまでも、こんな嫌な場所にはいられない。
わたくしの、隠れ家へ――――。

山の上の、トラップに守られた小屋。
誰も入って来られない、わたくしの砦。
わたくしはここで、ひとりでにーにーを待ち続けるんですの。
だってもう、梨花もいない。
圭一さんもいない。
監督もいない。
魅音さんやレナさんは、わたくしに関わらない方が幸せに生きられますわ。
わたくしはもう、疲れてしまいましたのよ。
素裸のわたくしは、草や枝で傷だらけ。砂や土や埃にまみれてる。
でも、ここにはもう、わたくしを汚いと叱る恐い人はいないから。
もう、大丈夫……です、のよ……。
うとうととまどろみかけたその瞬間。
――――――ガタン。
「――――――――ひっ!?」
扉の開く音。侵入してくる大きな足。こちらに伸びてくる大きな手。
まさか…………叔父様!?
どうして?絶対に入れっこありませんのに!!
「ひぃいいいいい、いやぁあああああっ!!」
ギシ……床板がきしむ音。……夢なんかじゃない!!
「にーにー、にーにぃい……っ!!」
恐い。痛い。苦しい。汚い。憎い。嫌だ嫌だ嫌だ……。
「助けて、にーにー……っ!」
――――――ふわり。
開いたままの扉から、飛んできたしゃぼん玉。
それが私に迫る叔父様にぶつかって。
パチン……!
叔父様もろとも弾け飛んで消えるその一瞬。

『すまんかったのう……さとこ』

「……………………っ!」
確かに、聞こえた。
叔父様の声。
とても弱々しかったけれど、あれは確かに叔父様だった。
「……にーにーが、助けてくれたんですのね。叔父様を反省させたのですわね……?」
弾けたしずくが頭に飛んだ。
それはまるで、にーにーの暖かい手のようで。
「わたくし、このまま……幸せなままで、終わりにしとうございますわ……」
わたくしは、このまま、眠り続ける。
にーにーが叔父様をやっつけて、叔父様とも仲直りをして。
梨花も圭一さんも、魅音さんもレナさんもそばで笑ってて。
監督もいつものようにおどけてくれて。
――――わたくし、しあわせでしてよ……。
意識が、遠くなる。
「おやすみなさいませ、みなさま……」








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