「頭上に幸せ。」



梨花も沙都子もそして悟史も眠りについた夜。
僕は穏やかな寝息を立てている沙都子のそばへ近付く。
……よかったのです。
月明かりに照らされたその寝顔は本当に幸せそうだった。

僕は何にもしてあげられないけど、
僕のことわからないだろうけど、
それでも僕にとって大切な家族だから。
……まだ日付は変わっていない。

『おめでとう、沙都子。』

鉄平と仲直りして、悟史が帰ってきて。
沙都子にとって、本当に最高の誕生日。
この世界はどうなるのか、僕にも先が読めない。
今度こそ6月を越えられるかもしれない。
その先は僕にとって深い孤独と哀しみが待っているのかもしれないけど。
それでもこの幸せな世界を守れるなら、僕はなんだってする。
……僕だって、梨花や沙都子の苦しむ姿はもう見たくないから。

触れるはずないのだとわかっていても、僕は沙都子の頭をそっと撫でる。
案の定、僕の手はすり抜けてしまったが、それでも撫でる。何度も、何度も。
今日みんながそうしたように、僕も沙都子の頭を撫でる。
沙都子にも僕が見えたなら、触れることが出来たならどんなにいいだろう……。

「んーー……」
沙都子がくすぐったそうに眉を寄せ、枕に顔をすりつける。

「――にゅー…………ありがとうございますですわ……」

『沙都子……!ぼ、僕がわかるのですか?』
「………………すー。」
………………。
……くすくす。
たとえ偶然でも、嬉しいのですよ沙都子。

お誕生日、おめでとう。








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