沙都子誕生祝SS「頭上の幸せ。」


それは他愛のない雑談がきっかけだった。
「沙都子はさ、みんなによく頭撫でられるけど、やっぱりそれぞれ違うもんなの?」
「そりゃそうですわ。梨花と圭一さんとじゃ手の大きさだって違いますもの。」
「ボクの手はちっちゃくて可愛いのです。圭一と一緒にされたらかわいそかわいそなのです☆」
「おいおい、梨花ちゃん……。」
「あはは。――でもレナと魅ぃちゃんじゃどうかな。
 手の大きさもそんなに変わらないから難しいんじゃないかな。……かな。」
「そうだよなー!沙都子の頭はそこまで敏感じゃないだろうからな。」
「むかー。まるで私の頭が悪いみたいじゃありませんのっ。
 ――いいですわ。でしたら試してごらん遊ばせ。目をつぶっておりますから、
 みんな一人ずつ撫でてみればよろしいですわ。見事当ててみせましてよーーー!」
にま〜〜〜。
………………?
みんなは私のその言葉を待っていたかのように、何ともいえない笑みを浮かべる。
――なんだか気味が悪いですわ……。
「よーしよし。それじゃあ試してみようじゃないの。ただし、一週間後ね。
 あたしらだけじゃつまらないから、おじさんが何人か集めておくよ。――いいよね沙都子。」
「もちろんでございますわー!一週間後を楽しみにしてなさいませっ!」

なんでも部活にして盛り上がる、この明るさが心強い。
深い絶望の淵に落ち込んでいた私をこんなに強くしてくれた、かけがえのない仲間たち――。
「――本当に、楽しみですわ。」

待ちに待った、一週間後の今日。
【目かくしなでなで誰でしょう?】ゲーム開催日。……変なネーミングですこと。
「心の準備はいいかな沙都子。」
放課後の教室。椅子に座る私の前で、魅音さんが嬉しそうに説明を始める。
もうすでに人が集まっているようだ。
「沙都子が目かくしをしたら、集めた人たちに教室に入ってもらう。
 誰がいるかは教えないよ。――沙都子の知らない人はいないから安心して。」
「レナさんや圭一さんや梨花も一緒ですのね。」
「うんそう。でもおじさんも含めて、ズルはしないよ。あくまでもいつものままで。
 純粋に撫でただけで違いがわかるものなのかおじさんも興味あるからね。
 ――ま、ちょっとしたお祭りと思って楽しんでよ。」
「楽しそうなのは魅音さんの方でございますですわよ☆……私は準備OKですわ。」
ぎゅ。用意された目かくしをする。――うん、本当に見えない。
ちょっと……恐いですわね。
「みんなー、入ってきてー。声だしちゃダメだかんねー。はい、ゲーム開始ぃっ!!」
扉の開く音、そしてたくさんの足音。……いったい何人に声をかけたのだろう。
……まぁ私に直接触れようなんて人間は幸か不幸かそういないだろうから、
過去の経験と照らし合わせればすぐにわかるだろう――。
「さぁどうぞ。最初はどなたですの?」
「………………。」
私の前に、人の気配。そして――。
ぽん。小さな手が、私の頭を撫でてくる。
慣れ親しんだ、私を何度も慰めてくれた、この手は――。
「梨花ですわね。すぐにわかりましてよ?」
「にぱ〜☆」
嬉しそうな笑い声が、私の背後へと移動した。

次の手。撫でる手は華奢なのに力強い。
そして鼻をつんと刺激する、この美味しそうな匂いは――。
「知恵先生ですわね。」
「あら凄いわ。どうしてわかったのかしら?」
「ナイショ――でございますですわ☆」
まぁいわゆるサービス問題というやつだろう。
私は笑いを堪えながら、次の手を待つ。

ぽん。丁寧に触れてくる手。ほのかに漂う甘い大人の香りと、それに――。
「鷹野さん……魅音さんに呼び出されたんですのね?わざわざご苦労様でございますわ。」
「うふふ、さすが沙都子ちゃんね。よくできました☆」
カレー臭で鼻が効かなくなることを見越しての順序だったのだろうが、
香水でごまかしても通い慣れてる診療所の匂いは嗅ぎとれてしまう。
そう甘くはありませんことよ魅音さんっ。

次の手は、ちょっと乱暴。だけどとってもあったかくて――。
「圭一さんですわね?相変わらずデリカシーのない撫でかたですこと☆」
「おー。ちょっとはやるじゃないか沙都子。こりゃ楽しみだ!」
圭一さんはいつもストレートだからすぐにわかる。
わかるほどに習慣になっていることが嬉しかった。

次の手は……丁寧で、優しい。
でもなぜか謝られているような、とても申し訳なさそうな――。
「監督?――魅音さんったら、お仕事中の方を巻き込んではいけませんわっ。」
「あー、大丈夫ですよ。沙都子さんに触れるまたとないチャンスですからね。
 呼んでいただけて感謝してるくらいですよ。」
「みぃ〜。沙都子、気をつけるのですよ。」
「あはは……やだなあ。私はそんな危険な人じゃありませんよ?」
監督も私みたいに、何かを背負っているのだろうか。
でもこうして明るく笑ってるのだから、気付かないふりで私も笑う。
「梨花、鷹野さん。しっかりおさえておいてくださいませね☆
 ――さ、次の方どうぞですわー!」

次の手は、……暖かい。でもちょっと寂しそう。
私を撫でることで、自分をも撫でているような、そんなちょっと切ない――。
「詩音さんですわね。遠くからわざわざご苦労様でございますですわー!」
「あら凄いですね沙都子。でもまだまだですから、気を引き締めてかかってくださいね。」
「をーほっほっ。望むところですわー!」

ぽん。ちょっと大きめの手が頭に触れる。ちょっと緊張しているようだ。
……あまり慣れていないのだろう。
「富竹さんですわね?ご愁傷様ですわ☆」
「あはは……どうしてもって言われて断れなくてね。」
結構面白いですわ、コレ。
それに頭を撫でられるのはくすぐったいけど嬉しいですし。

次の手が、頭を撫でる。
――撫でる。
撫でる。……撫でる。
なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで。
「……レナさんっ!ほどほどになさってくださいませっ!
 髪の毛が磨り減ってしまいますわー!!」
「はう〜☆だって沙都子ちゃんかぁいいんだよぉ〜☆」
私の背後でみんなが笑う。レナさんもえへへと笑って背後へまわった。
――ふふ。レナさんったら。

ぺた……。
――――――?
この足音……覚えてる。
目の前に、恐い気配。
背後のみんなにも緊張が走っているようだ。
ぽん。大きな手が、私に、触れる。
「――――――――っ!!」
びくん。身体が大きく震える。
私はこの手を、知っている。
恐い――――痛い……。
「………………っ。」
手が、おずおずと動き、私を撫でる。
――あれ……?
あんなに恐かったのに、なぜだろう。
この手も、泣いている。謝っている。
「叔父様……ですわね。戻ってらしたんですの?」
「沙都子。……すまんかったわね。恐がらせて本当に悪かった。」
久しぶりに聞く叔父様の声は、とても弱々しかった。
「沙都子。この人はね、今園崎の監視下でまともな仕事をさせてるんです。
 恋人と仲良く暮らしてるようですから、こちらには戻ってきませんよ。
 ……一言謝りたかったんですって。」
「そう、でしたの……。」
魅音さんが詩音さんと一緒に手を回してくれたのだろう。
「わしが、間違ってたんだわね。――本当に、すまなかった……。」
「――叔父様。」
ぽん。手さぐりで、叔父様の頭を撫でる。
私の頭を撫でていた手が一瞬止まるが、私が頭を撫で続けると、
叔父様の手もためらいがちに動いた。
「もう、いいんですのよ……。どうか愛する人と幸せに、まっとうに生きてくださいませ。
 私も今はとても幸せなのですから。」
「沙都子……ありがとう。本当にありがとうね……っ。」
私の背後で、鼻をすする音。たくさんの「よかったね」。
直接叔父を目にしていたら、最初に萎縮していたかもしれない。
――魅音さんの取り計らいに感謝しないといけませんわね。

「――さぁ、次はどなたですの?
 早くゲームを終わらせて、みなさんのお顔が見たいですわー!」

ぽん。一見ガサツそうだけど、とても丁寧で優しい手。
「魅音さんですわね。……最初っからこのためにゲームをさせようと私を誘導したんですのね。」
「まぁ、これでも一応沙都子の師匠だからね☆」
「――もう目かくしを外してもよろしくて?」
「あー、ダメダメっ!次で最後だから、当てるまで外さないでよー。」
「はいはい、わかりましたわ。――最後の方、どうぞお触りくださいませー!」

ぽん。
「……………………っ!!」
どうしよう。
身体が、震える。
「あ……………………ぅ、」
恐いんじゃ、ない。
哀しいんじゃ、ない。
だって、この暖かい、待ち望んでいた手は――――。

「――――――――――に、」
もうわかってる。だからゲームはおしまい。
私は強引に目かくしを外す。
涙でぼやけた目の前には――――。


「にーにー!!」
「沙都子。……ただいま。」

散々泣いて、空白の一年間を問い詰めて。
教室中の飾り付けや机の上のケーキやごちそうに気付いたのは、
それから30分も後のことだった。








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