リセット。


――気が付くと、私は知らない場所に寝かされていた。
「………………っ?」
薄暗い部屋の中で身体を起こそうとしたが、動かない。
――――拘束されているようだ。
そうだ、私は相棒と一緒にいるホテルから無理やり連れ出されたんだ。
「気が付いた?間宮リナ――律子さん。」
――凛とした女の、声。
「…………ふうっ?」
声を出そうとしても、猿轡をかまされていて何も言えない。
「くすくす……。いい格好ね。ごめんなさいね?舌を噛まれると困るから、辛抱してね?くすくす……。」
女の不快な笑いをかき消してやろうと、私は必死で身をよじる。
けれど頑丈な拘束台は、ギシ、ミシ、と軋む音しか立ててくれない。
女は私の無様な格好を見てさらに楽しげに笑った。――――畜生。
「――ねえ律子さん。あなたの相棒、どうしてるか知りたくない?」
…………!
そうだ、知らない男たちにホテルに乗り込まれてから、アイツの姿を見ていない。
逃げてくれてりゃいいけど、私がこんな状態じゃ、きっとアイツも――。
金を手にするための踏み台に過ぎないただの手駒だけど、
どうしているのか、どうなるのは気になる。――私もきっと同じ目に遭うのだから。
「顔が見たい?でも、ダメ。……意地悪で言ってるんじゃないのよ。
 ――だって彼、もう顔なんてないんですもの。くすくす。」
え…………?
「うふふ。私ね、拷問に憧れてたの。思いっきり、知識のありったけをぶつけてみたかったの。
 ――――楽しかったわ。」
なに……何を言ってるの、この女?
こいつ、まさか私たちが着服した金のありかを吐かせるために……?
「――いやあねえ。そんなことしないわよ。」
女は私の聞きたいことを察し、にこやかに否定する。
「自白なんてさせないわ。何を言ったって聞こえない。聞くつもりもない。
 だって途中で自白されちゃったら、せっかくの拷問をやめなきゃいけなくなるでしょう?
 私たちには拷問の大義名分があればそれでいいの。――――くすくすくす。」
拷問……まさかこいつ、アイツを、最後まで――?
「顔はね、鼻をそいで耳もそいで、皮を剥いじゃったの。そこにね――くすくす、塩を塗ったの。
 粗塩よ。凄かったわぁ……。」
「………………っ!!」
拷問って……拷問って、まさかそんな残酷な方法だなんて思わなかった。
今どきそんな足の付きそうなことをするやくざなんていない。
この女……園崎組の者じゃないの……?
命令でも制裁でもなく、自分の欲望のためだけにこんなことを……?
――――恐い。異常だ、この女。
「――あら、震えてるの?可愛いわね。……今彼に会わせてあげるわ。――ほら!」
「――――――――――っ!!」
女は満面の笑みを浮かべながら、彼を――彼だった“もの”の一部を私の眼前に……。
「……う、おふぅ……っ!」
――胃液が、逆流する。
女は猿轡から漏れる胃液と私の口元をハンカチで綺麗に拭き取った。
「――あらあら、きれいきれいしましょうね。……あなた、コレ好きじゃなかったかしら?
 “相棒”なんでしょ?男はね、コレがなくなるとすべてを失ったようになっちゃってつまらないから、
 切っちゃうのは本当に最後の最後なのよ。くすくす……。」
なんなの、この女……。
なんでこんなことができるの?
どうしてそんな風に笑っていられるの?
私も――――同じように始末するの――――?
「ふ、……おふ、ふぅう……っ!」
身体の震えが止まらない。
涙がぼろぼろ溢れてくる。
女は怯えるしかできない私を嬉しそうに見下ろしている。
そして、私のむき出しの腹部に手をやり、笑顔で――。
「うーん、そうねぇ……。あなたスタイルもいいし、その服ならちょうどいいわ。
 ――腸を引きずり出しちゃいましょう☆いいわ、素敵!にぱ――丶(>▽<)ノ――!!」
「ぐ……ふうぅううう……っ!!」
いや……いや!
恐いよ、助けて……!
「あらあら、活きのいいこと。これならじっくり楽しめそうだわ。――――始めるわよ!」
「………………っ!!」
どこからか現れた男たちにテキパキと指示をする。
「あなた達は道具を用意して。でも手出しは無用よ。こんな楽しいこと、他の人になんてさせないんだから。
 私だけの、楽しいオモチャ……うふうふうふふふ…!」
この女、狂ってる……!
いや……たすけて……だれか……、

――――鉄っちゃん!!

………………え?
どうして?どうしてアイツの名前……。
アイツはただのカモ。利用するだけしてポイ、それだけの存在。私にとって男なんてそんなもの。
そんな私を信じて、ゆるみきった笑顔を見せていたバカな男――――。

『――――律子。』

「………………っ、」
…………バカだ。バカなのは私の方だ。こんな時になって、本当に大切な存在に気付くなんて。
遅すぎる…………。

「――それじゃ、始めるわよ。……覚悟はいいかしら?くすくす……。」
――ごめんね、さよなら鉄っちゃん……。



「――律子っっ!!」

――――――え?
バン!!
大きな音をたてて、扉が開く。そして、大勢の足音。
「何者!?邪魔する気?」
「うおおおおおおおおっ!!」
「うわぁっ!」
「三佐!逃げてください、ここは私たちが……!」
「ちいっ!」
怒号と銃声。緊迫した雰囲気。
――何が起こっているの?私、どうなるの?
私の上に、とても暖かいものが覆いかぶさって、まわりの騒ぎから私を守ってくれている。
私は知ってる。このぬくもりは、私の一番大切な――――。


――どれくらい経ったのだろう。
気が付くと、私は知らない場所に寝かされていた。
あのぬくもりに包まれて、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
清潔な、真っ白な部屋。
「ここは……、」
身体を締め付けるものも、口を塞ぐものもない。
「――病院だぁね。……何も心配要らんわね。」
「鉄っ……ちゃん……っ!」
身体のあちこちに包帯や絆創膏をつけた姿で、それでもいつものように笑ってくれた。
ただ抱きついて泣くしかできない私の頭を、いつまでも優しく撫で続けてくれた――。

「――ごめんね、鉄っちゃん……ありがとう。」
「律子。……お前がいなくなって初めて、わしはお前がどれだけ大事か気が付いたんね。」
「鉄っちゃん……。」
「あちこち伝手をあたって探し回って、……お前が園崎の金を奪って逃げたと……。」
「………………っ。」
「それでな、園崎もお前を探してると知って……わしは園崎に頼んだんね。」
「え…………?」
園崎に、何を……?
「律子を説得して、金は取り返す。だからどうか律子を探して、命だけは助けてくれんね、と……。」
「――――――――――っ!!」
園崎の恐さは、私にだってわかる。命がけの横領だった。
でもまさか、鉄っちゃんが私のためにそんな危険を冒すなんて――。
「律子の残した服を渡して、訓練された犬に匂いを追わせて、あそこにたどり着いた。
 あいつらは捕まったわね。園崎が連れて行っちまったから、あの女がどうなったかはわからねえ。
 ――――でもあの女、最後まで笑ってたんね。」
「………………っ。」
あの女の無気味な笑顔を思い出し震える私を、優しく抱き締めてくれる。
あたたかい……。こんなあたたかい人を裏切って、なんてバカだったんだろう……。
「鉄っちゃん……ごめんなさい。お金は手付かずで残ってる。園崎に返すよ。……できる限りの償いをする。」
「律子……よく言ってくれたわね。」
コンコン。
「あんたら、邪魔していいかい?」
「………………っ!」
この声、園崎組の……。
鉄っちゃんは「大丈夫だ」と言うように私の手を握る。――うん。覚悟は、できてる。
「……どうぞ、入ってくれんね。」

「恐い思いをしたようだね。……思い知っただろ?自分の犯した罪の重さを。」
入ってきた女性――園崎組の姐さんは、涼しげな瞳で諭すように言う。あの女とは違う視線に、少しだけ安心した。
「はい……。」
「……あの女はそうとうイカれちまってるようだった。まあそっちはもう心配要らないから安心おし。」
あっさりと言って笑顔を向けてくる。あの恐い女を、もう心配要らないと――。
……本当にバカなことをしたんだな、私……。
あの女よりももっと恐ろしいことをされるかもしれないんだ。
でも…………。
「――あの、お金はお返しします。そしてできる限りの償いをします……!」
大切な人を裏切ってしまった代償は、支払わなくちゃいけないから。
「――もちろん、金は返してもらうよ。そしてあんたにはこの罪を償ってもらう。」
「……はい……っ。」
「姐さん、わしも同罪だわね。わしも美人局で園崎組のシマを荒らしてきた。
 律子が横領の相棒にわしを選んでたら、わしもきっとあの男と同じことをしていたんね…!」
「鉄っちゃん、そんな……!」
「――やれやれ。こんなトコで見せ付けられても困っちまうよ。
 あんたらには、雛見沢に移り住んでもらう。そこであたしの娘たちを守って欲しい。
 ――あの女の残党がいるかもしれないし、園崎家と北条家の確執は知ってるだろ。」
「――あ、はい……だいたいはこの人から。」
「わしらに、あの家に住めと言うんですかい?」
あの家……鉄っちゃんが出て行った北条家のことだろう。今は誰も住んでない、荒れ果てた状態らしい……。
「ああ、そうだよ。あんたは沙都子ちゃんの保護者なんだろ?
 沙都子ちゃんには梨花ちゃまとの生活があるから一緒に住む必要はないけど、仲直りはしておやり。
 律子さんがいれば生活もまともになるだろ?」
「はあ……面目ねえ。」
「あの、それだけでいいんですか……?私の罪は、とてもそれだけで済むものじゃ……、」
「婆様の、――園崎家頭首のご命令だからね。あたしゃそれを伝えるしかできないんだよ。」
「園崎の……頭首に、」
鉄っちゃんが軽く身を正す。私も一緒に背筋を伸ばした。
「そんな硬くならなくてもいいよ。あの人は素直じゃないからね。村の平和を守っておくれな。
 ……結構厳しいよ?心してかかりな。」
「「――――――はい!!」」

鉄ちゃん……ごめんね、ありがとう。
鉄っちゃんとふたりで、もう一度やり直すよ。

――本当に大切な人と、一緒に。







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