祟殺し編・沙都子救済決心 〜圭一と大石、そして〜


「――大石さん。」
「――おやおや前原さん。そんな恐い顔してどうしたんですかな?」
放課後。俺は校門の外で意味ありげに佇んでる大石さんに自分から声をかけた。
「……わかってるだろ、俺の言いたいことくらい。
 ――沙都子が酷い虐待を受けてるのに、どうして何もしないんだ!?」
「虐待?穏やかではありませんねぇ。――沙都子さん本人がそう言ったんですかな?」
口の端を上げるあの嫌な笑いを浮かべ、大石さんは俺を見た。
「沙都子は否定するに決まってるだろ。保身のためもあるし、意地もある。」
「仲間のあなたたちにも否定するくらいでしょう?
 本当は虐待なんて受けてないんじゃないんですか?
 『仲間』だったら何だって打ち明けるでしょうに。」
「――――仲間だから、だよ。大切な仲間にとばっちりが行かないように、
 心配させないように、仲間だからこそ本当のことを言わないんだ。
 ……あんただって警察の仲間がいるならわかるだろう?」
「……さあてねぇ。私はそんなに青くはありませんからなぁ。」
飄々とした姿勢を崩さず、茶化すような口調。……落ち着け、冷静になれ、圭一。
「違うな。あんたには仲間なんていないんだ。そうやっていつもいつも高みから人を見下して、
 人を信じることもしないから、信じてもらえないんだ。
 ……昔死んだって言うあんたの友人のことも、そんな風に見下してたんですか?」
大石さんは持っていたタバコを地面に投げ捨て、靴で踏み消した。
「――聞き捨てならないですなぁ?」
すう、と両手が俺にのびる。
またにこやかに隠れた暴力で脅そうというのか。
「――もう、その手は効かないぜ大石さん。」
「………………っ!?」
ギリッ……。俺の両肩にかかろうとしていた両腕をつかみ、逆方向にひねり上げた。
さすがに反撃されるとは思わなかったのか、痛みに顔をしかめながら慌てて手を引っ込める。
「……そうきましたか。なかなかやりますなぁ。んっふっふっ!」
明るく笑うが、瞳は笑っていない。
「……大石さん。あんただってバカにされたら怒るものがあるんじゃないか。
俺たちだって、仲間を、雛見沢をバカにされたら腹が立つんだ!」
「…………ほぅ。」
痛めつけられた両腕をわざとらしくさすりながら、感心したように俺を見る。
真面目に話を聞く気になったのだろうか。
「あんたは“事件”が起きるのを待ってるんだろ。
 雛見沢の古い事件を追ってるのは知ってる。死んだ友人のために必死なのも。
 ――魅音に聞いたからな。」
「ああ、そうですよ。今ここで沙都子さんの虐待問題を取り上げられたら、
 捜査どころではなくなりますからね。
 事件解決の前には、些細なことは後回し。同情は禁物。大事の前の小事。
 それでいいんですよ。
 ……まったく、青すぎてついてゆけませんなぁ。――失礼しますよ。」
「――――それで、あなたは本当にいいんですか?」
「……………………?」
立ち去ろうとする大石さんの背中に、声がかかる。――待ってたぜ。
「助けることができたはずの命を、自分の選択一つで失わせてしまう――。
 ――本当にそれでいいんですか?
 たとえ事件が解決しても、亡くなった彼は喜ばないんじゃないんですか?」
「………………。」
帽子を目深に被った背広姿の男を、怪訝そうな目つきで睨みつける。
「――誰ですかね、あんた?」
「昔……捜査のために大切な命を失ってしまった――そして危うくもうひとつの大切な命を
 永遠に失ってしまうところだった――バカな男ですよ。」
そう自嘲しながら帽子を脱いだ彼の姿に、大石さんの目が大きく見開かれた。
「――――赤坂さんっ!?いつこっちに……っ、」
「私は、私の傷口を軽くしてくれた少女に恩返しをしなくちゃいけない。
 彼女を守るために帰ってきたんです。死にたくないと救いを求めた彼女のために。
 圭一くんから連絡を受けて大切なことを思い出したんです。
 ……圭一くんには軽めの護身術を教えておきました。……痛かったでしょう?」
「あ、さっきのは、赤坂さんが……、」
大石さんは俺に対しての態度とはまったく違う、一歩引いた、尊重した姿勢を見せる。
赤坂さんはそんな彼を諭すように、やさしく、ゆっくり話を続けた。
「……彼女は多くを望んではいない。彼女の大切な仲間たちと幸せに過ごしたい、
 たった一つの切実な願い。そのためには、沙都子ちゃんにこれ以上
 虐待を受けさせるわけにはいかないんです。」
「その少女は、古手梨花――ですか。」
「ええ。……あの時のことをすべてお話します。彼女は事件が起きることを知っていました。
 ひょっとしたら、これで大きく捜査が進展するかもしれません。ですから――。」
「…………大石さん。お願いします。ガキが生意気な口きいてすみません。
 でも俺たちには、大石さんの力が必要なんだ――!」
俺は大石さんに頭を下げ、必死に願った。
……カナカナカナ……。ひぐらしのすだく声が、やけに大きく聞こえる……。
「……負けましたな。北条沙都子さんは何としても守りましょう。
 ――前原さん。私ももう少しだけ、青い頃に戻ってみようと思います。
 今じゃ腕ききの赤坂さんと古手梨花を敵に回すとやっかいですからな、んっふっふっ!」
「大石さん……ありがとうございます!」
いつもと違う、穏やかな優しい表情。……きっとこっちが大石さんの本当の顔なのだろう。
「それじゃ、ゆっくり話せる場所に移動しましょうか。」
「梨花ちゃんがお茶を用意して待ってます。泡麦茶もあるそうですよ?」
「ほぉ、それはまた結構ですなぁ。……では、参りましょうか!」
「……大石さん、その吸殻はちゃんと持ち帰ってくださいね。」
「敵いませんなぁ、んっふっふっ!」
吸殻を拾い上げ、笑いながら歩きだす。赤坂さんも隣に並んだ。
二人の頼もしい大きな背中を得て、
また一歩、待ち望んでいた日常生活が近付いたような――
――そんな気がした。







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