祟殺し編・沙都子救済決心 〜梨花と圭一〜


学校に来なくなり、日に日に憔悴してゆく沙都子。
みんなと俺との温度差が、俺の神経をピリピリと刺激してくる。
どうしてみんな平然としてられるんだ!?
このままじゃいけない、俺が沙都子を守るんだ!
俺はにーにーの、悟史の代わりなんだから。
それには災いの大元のあいつを――あの叔父をどうにかしなければ。
そうだ、もうすぐ綿流し祭じゃないか。
一人が死に、一人が鬼隠しに遭うという、祭りの夜――。
あの叔父が祟りに遭えばすべて解決する。
鷹野さんが言ってた、祟りは人為的なものだって。
祟りを起こせるのは園崎家――――魅音だ!!
俺は魅音の家へと向かう。
恥も外聞も関係ない。沙都子を守るためなら、なんだってするさ――。

「本当に、何でも?」
「ああ、それで沙都子が幸せになるならな。」
「鉄平を――――殺すの?」
「――――――――っ!?」
俺の背後で、声がする。
聞きなれたはずの、けれど不思議な違和感を伴う口調――。
「……梨花、ちゃん……。」
長い黒髪を風に任せ涼しげにたたずむその姿は、いつもより大人びて見える。
「祟りの正体は――犯人は、私にもわからない。でも、魅ぃは関係ない。
 園崎家に、魅ぃにそんな力はないの。……圭一の願いは、魅ぃを傷つけるだけ。」
本当なのか……?じゃあ一体誰があいつを消してくれるんだ?
俺が梨花ちゃんに向けた視線は相当厳しいものだったのだろう、
とても哀しげな瞳を向けられ、何も言えなくなってしまった。
「……………………。」
「圭一、答えて。もしこれ以上事態が悪化したら、沙都子が壊れてしまったら。
 ……圭一は鉄平を殺すの?」
「………………っ。」
質問口調だったが、梨花ちゃんは確信している。
沙都子のために、俺があいつを手にかけようと思っていることを。
「『私の知ってる』圭一なら、きっと殺してる。それだけ沙都子を思ってるんだもの。
 ――でも考えて。自分のために圭一が手を汚したら、沙都子は余計に自分を責めてしまう。
 たとえ沙都子に気付かれなくても、汚れた手で沙都子の頭を撫でられる?
 沙都子の前にいられる?――きっと無理。沙都子の前にはいられない。
 悟史と同じように圭一まで消えてしまったら、
 たとえ鉄平が死んでも沙都子は幸せにはなれないの。
 『にーにー』を二度も失ったら、沙都子は確実に壊れてしまう。」
「う、…………あ。」
「沙都子は私たちを拒んだけれど、私たちを嫌ってるわけじゃない。仲間だと思ってる。
 救いを求めず、頑なになるのは正しくないことだけど、だからって無理やり強制はできない。」
にーにー、沙都子、仲間、沙都子、壊れる……沙都子が。
「私たちはみんな、沙都子を思ってる。どうにかしたいと思ってるのは圭一だけじゃない。
 それなのに、今の私たちは、バラバラ。こんなの私たちらしくない。
 沙都子だって、私たちが私たちのままであることを望んでるはずなのに――。」

『圭一さん』

「さと、こ…………」
ぺたん。
身体中の力が抜け、呆然と膝をつく。
梨花ちゃんの姿に、あの眩しい沙都子の笑顔が重なる。
それはとても神々しくて清らかで、強くて。
俺の穢れた考えを吹き飛ばしてくれた――。
「あ……あぁあああ……っ!沙都子……沙都子ぉ……っ!」
「圭一……泣かないで。」
「あぁ……うわあぁあああああ……っ!」
ぴと。
沙都子が叫べなかった分まで搾り出すように泣く俺の頬に、小さな手が触れる。
まるで沙都子にそうされてるようで――ますます涙が溢れてきた。

「……ぁ……う、さと、こ……っ、」
「――――圭一。人を殺すほどの覚悟があるなら。殺さない方法を考えましょう。
 一人一人の力は弱くても、力をあわせれば私たちは無敵のはずよ。……そうでしょう?」
あんなに泣いたのに、まだ震えの止まらない肩を撫で、諭すように話しかけてくる。
梨花ちゃんにそうされるたび、ますます自分の存在がちっぽけで情けなく思えて、
ますます視界がぼやける……。
「でも……俺に、俺たちに何ができる?あんなに考えたのに、何も浮かびやしないじゃないか。
 俺たちはガキだ。オトナたちの都合に振り回されるしかできない、
 かといってすべてを捨てることもできない、女の子一人守ってやることすらできない、
 ちっぽけな存在なんだっ……」
「圭一……そんなこと、言わないで……。」
「…………りか、ちゃん……?」
「お願い……沙都子を、助けて……っ。私一人じゃ……私たちだけじゃなにもできないけど、
 圭一がいれば、みんながひとつになれるの。沙都子のにーにーでなきゃ、ダメなの。
 だから……おねがい。」
「梨花ちゃん……。」
大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼしながら、何度も繰り返す。
自分じゃダメだと。
にーにーじゃなくちゃいけないのだと。
「――圭一は悟史みたいになってはダメ。大切な人を守るために自分が犠牲になっても
 意味はないの。
 何にもしなかった魅ぃも、上手くやれなかったレナも、諦めていた私もいけないの。
 でも、今度こそ沙都子を守ってみせる。圭一がいれば大丈夫――だから、」
梨花ちゃんが俺に求めるものはとても大きい。
とても辛く、投げ出したくなるようなこともきっとある。
だけど――。

「わかった……わかったよ梨花ちゃん。俺は沙都子を守る。みんなと一緒に、正しい方法で。」
「ありがとう、圭一……。さっそくみんなと一緒に話し合いましょう。
 私たちにできる最善の手段を見つけるために。」
「ああ。――行こうぜ梨花ちゃん。」
「はい!」

梨花ちゃんに――この神秘的な少女に言われると、何でもできそうに思える。
沙都子を救い出して、みんなで一緒に部活三昧。
お昼はみんなで奪い合うように弁当を食べる。
そんな日々が、再び当たり前に訪れるような――そんな気がした。








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