しまい。


暗く冷たい地下牢に、私は「園崎詩音」として閉じ込められていた。
大事な人たちが目の前で殺され、死体を辱められるのを
ただ泣き叫びながら見ているしか出来なかった。
そして今度は、圭ちゃんが――!

「…そんなので私の積年の怨み辛みが償えると思ってるわけ?こんなんじゃ駄目だね。
 ……やっぱり圭ちゃんから挽き肉だぁあぁ!!!!」
「嫌ぁあぁぁあぁあぁああああッ!!!待って姉さまぁあ!!!!
 もう一度!!もう一度だけ…!!」
お姉が足を止め、私を虐めて楽しむために振り返る。
「……ろくろく満足に謝れないあんただからね。
 …特別にお姉が心に届く謝罪の仕方ってのを教えてあげるよ。
 ……一度しか教えないし、一言一句でも間違えたらアウト。……いいね?」
「……はい。…はひ…。…ありぁとうぉざいますぉ姉さま……。ぅぅ……。」

お姉はとても楽しそうに、「誠意あるお詫びの言葉」を言ってみせる。
――私がそれを口にしたところで、私も圭ちゃんも殺されるだろう。
圭ちゃんは助けてもらえるかもしれない。だけどお姉が憎いのは私だから。
私をより苦しめるために、圭ちゃんを痛めつけ、私の目の前に死体を晒すに違いない――!
……お姉はきっと、最後に私と入れ替わって、詩音として生き残る。
姉に虐げられた可哀想な妹として世間の同情を得るだろう。
上手くいけば圭ちゃんは生き証人として命だけは助かるかもしれない。
どちらにしても圭ちゃんは、「詩音」を信じてしまうんだ――。

お姉が「魅音」を汚すなら、私が「詩音」を汚してやる。
オマエダケ キレイデイルナンテ ユルサナイ――。

私の中の何かが、そう言った。
……………………。


「…ちゃんと覚えられたかなぁ。ではやってごらん。誠心誠意徹頭徹尾、心をこめてね。
 …………………ちゃぁんと出来たなら、あんただけを殺してあげるから。」
「………………。」
「どうしたの?さ、やってごらん。お姉ちゃんはちゃんと聞いててあげるから。」
「………………………、」
「どうしたの詩音?圭ちゃんがどうなってもいいのかなぁ?」


「………勝手にすれば?この拷問狂が。」


ぴくり。
お姉の眉が軽くひそめられた。
「………何言ってんのあんた?脅しじゃないのは散々思い知ったはずでしょう?」
「それはお姉の認識不足ですね。
 私は圭ちゃんが殺されたところで痛くも痒くもありませんから。」
私は「詩音」。したたかで魅音より何枚も上手な、魅音の苦手な、詩音――。
「圭ちゃんはお姉にとって大事な人なんじゃないんですかぁ?
 私にとって圭ちゃんなんて、たいした価値ありませんね。
 せいぜいが私が死ぬまでの時間稼ぎくらいで。」
「………………っ。」
お姉は私が強がってるだけだろうと、本心を見透かすように見つめてくる。
「そんなに見つめないでください。いくら私が美しいからって、
 私たちは双子で同性同士なんですから☆」
「茶化さないで。……どういうつもり?」
お姉の声に苛立ちが表れてる。「魅音」は「詩音」のこういうところ、苦手だものね。
「……この美しい顔と身体がミンチになるなんてごめんですけど、
 どっちにしても殺されるんなら少しでも長く生きていたいですし。
 それなら圭ちゃんの血と脂でなまくらになったエモノでミンチにされる方がマシかな――って。
 ――ま、使用済みじゃ気持ち悪いかもですけどね。」
「あんた、何言ってんの?まだ動けないだろうけど、圭ちゃんはきっともう起きてる。
 圭ちゃんが聞いてるのに、そんなこと言って――」
「お姉こそ、何言ってんですか?「園崎詩音」はこういう人間ですよ?
 さっきまではしおらしく命乞いをしてみせてましたけどね。
 そもそも、私は鬼婆や沙都子や梨花ちゃまだって大事じゃない。
 公由のおじいちゃんは好きだったけど、死んじゃったモンはしょうがないし。
 一応それらしく泣いて叫んでお姉の哀れみを乞うようにしてきましたけど、
 もうそんな必要はなさそうですからね。
 ――「園崎詩音」はそんな弱い人間じゃありません。
 お姉の茶番に付き合ってあげてただけですよ?」
圭ちゃん。起きてるよね?………ごめんね。
「………言ってくれんじゃん。あんたの目の前で圭ちゃん殺っちゃっても
 そんな口きけるのかなぁ?」
「ええ、きけますよ。どうせ死ぬんなら、言いたいことは言わせてもらいます。
 ――だいたいお姉はすべてにおいてツメが甘いんですよ。
 たかがちびっこ二人、沙都子や梨花ちゃま殺すのに、
 圭ちゃんやレナさんに尻尾捕まれるようなヘマするなんてありえませんよ。
 私だったらもっと上手くやってる。「園崎魅音」として恥ずかしくないんですかぁ?」
「――――――――っ!!」
お姉の頬が紅潮し、歯をぎりりと音がするくらい食いしばってるのがわかる。
怒れ。もっと怒れ。
私が自分のふがいなさに腹を立てたように。
こんな方法しか浮かばない自分自身に腹を立てたように――。

「だいたいですね、「園崎詩音」は圭ちゃんなんてなんとも思っちゃいないんです。
 脅しになると思うなんてかなり抜けてますよぉ?
 ……ま、仕方ないか☆脱走したとはいえお嬢様学校で教養を身につけた私と違って、
 泥臭い田舎で古臭い因習が染み付いたお姉じゃそれが限界ですね☆あはははははは。」
「――やめてよその笑い。レナみたいで気に障る。」
「あれぇ?お姉はレナさん嫌いですかぁ?そっかぁー、お姉と違って頭いいですもんね彼女。
 あははははははははははははははは。」
「やめて………って、言ってる。」
「お姉ったらムキになって、かぁいいよぉ〜☆……あ、これもレナさんの口癖でしたっけ?
 あははははははははははははははははははははははははは。」
「うるさい……うるさいうるさいうるさあぁい!!」
「何言ってんですかお姉ぇ?私が泣いたり叫んだりするの、
 あんなに喜んでたじゃないですかぁ?
 あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは。」
「やめて……その顔で、その声で……詩音の姿で笑うなああっ!!」
「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
バチバチバチィッッ!!


――鋭い痛みと共に、身体の力が抜けてゆく。
遠くで圭ちゃんが私の名前を叫んでる。
……あんなに酷いこと言ったのに、それでも「詩音」の身を案じてくれてるんだ。
お姉が圭ちゃんの元に向かったようだ。……多分、気絶させられるんだと思う。
何度もスタンガン食らうのは辛いよね。
でも大丈夫。圭ちゃんはきっと助かるから。


お姉が「魅音」を汚すなら、私が「詩音」を汚してやる。
オマエダケ キレイデイルナンテ ユルサナイ――。


……あの時一瞬浮かんだ負の思考は、すぐに消えた。
とにかく圭ちゃんを助けたかった。
私が先に死ぬか気絶するかすれば、
私が圭ちゃんに対する思いを断ち切ったとわからせれば、
事件の生き証人として圭ちゃんは助かる。……賭けだった。
魅音が汚れても、それはいいの。
もともと私のものじゃなかったのに、無理やり奪ってしまったんだもの。
持ち主が奪い返して汚したところで、文句を言える立場じゃないから。

スタンガンの出力は弱くしてあったのだろう、ふらふらするだけで意識を保っていた私は
牢から引っ張り出され、隠し井戸の牢へと連れて行かれる。

……大丈夫。覚悟はできてる。
レナがいるなら、きっと圭ちゃんは大丈夫。
レナなら真実をわかってくれるから。


婆っちゃ。
おじいちゃん。
梨花ちゃん。
沙都子。
助けられなくて、ごめん。
私のせいで、本当にごめん。
レナ。
お姉を怒らせるためとはいえ、変に利用してごめんね。
ずるくて弱かったおじさんだけど、最後はちょっと頑張ったでしょ?
私が言えた立場じゃないけど、どうかお願い、圭ちゃんを守ってあげて。

………魅音。
もう一人の私。
一人になったあなたがどうなるかわからないけど、
あなたにとって私は不幸をもたらす存在だっただろうけど、
それでも私は、もう一度、あなたと双子として産まれたい。

圭ちゃん。
ごめんね。ありがとう。………大好き。








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