暖冬。


雛見沢で迎える、初めての冬。
――前に散々脅かされたように、確かにやたら寒くなってきた。
これでも今年は暖かい方だという。
……あのうるさいほどのひぐらしの声が、今となっては待ち遠しいくらいだ。

「――それでは今日はここまでにします。……委員長、」
「きりーつ!きょーつけー!」
「寒くなってきましたから、風邪など引かないよう気をつけてくださいね。
 ――それではみなさんまた明日。」
「れーい!」
「さよーならーー!!」

生徒たちは、散ってゆく。暖かい家に帰るために。
――甘いな!オレたちはこれから、熱い戦いだぜ!
「――よっしゃ、授業終わりぃぃっ!」
「今日の部活はなにかな?かな?」
「くっくっ……今日はスペシャルゲームだよ。」
「――魅ぃ、嬉しそうなのです。」
「……なにやらいい匂いがしますわねぇ…。」
「今日のゲームは……これだぁっ!!」
魅音が誇らしげに取り出したのは、乾燥フルーツと砂糖ののった、台形のバームクーヘンみたいなケーキ。
「おっ、うまそーーー!!」
「コレ、魅ぃちゃんが作ったんだね?かぁいいよぉ〜☆」
「ケーキをどうするのですか?」
「大食い競争ですの?それとも早食い?……レディには厳しいですわねぇ…。」
「あはは……これはね、外国のクリスマスパーティーで使うケーキなんだよ。
 この中にひとつ、オーナメントが隠れてるんだ。
 みんなで一切れずつ食べて、中にオーナメントの入ってた人が罰ゲーム。……どう?」
「……作った魅ぃ本人なら、入ってる場所もわかるのではないですか?」
「――そうくると思ったよ。……オーナメントを入れるのは詩音に任せたんだ。
 『お姉には絶対わからないようにしましたからね☆』って…。……ホントに全然わからなかったよ。――とほほ。」
「なるほど……詩音さんなら魅音さんに不利になるようにしますものね。」
「ホントに仲のいい姉妹だなおめーら……。」
「うーーー……。」
「もちろん魅ぃちゃんは最後に選ぶんだよね?」
「そりゃ当然。……ならみんなもOKかな?」
「「「「おーーーっ!!」」」」
「じゃあ、罰ゲームを発表するよ!
 オーナメントを当てた人は、他の全員にクリスマスプレゼントを贈ることっ!!」
「「「「えーーーーーーっ!?」」」」
「4人にいっぺんか……結構厳しいな。」
なにしろオレは金欠だ。
「それって魅音さんが断然有利じゃございませんこと?」
「――ボクたちは貧乏なのです。」
「――おじさん個人に使えるお金はほんのちょっとだよ。……そうじゃなくて、『賢者の贈り物』って知ってる?」
「――あ、うん知ってる知ってる!
 貧しくても心優しい夫婦がいて、クリスマスにお互いに贈り物をするんだけど、
 妻は綺麗な髪を売って夫の時計の鎖を買って、夫は大事にしてた時計を売って妻の髪飾りを買って、
 役に立たなくなっちゃうんだよね……。」
「――思い違いは哀しいのです。」
「……でも思う気持ち自体はとても優しくて暖かいですわ。」
「プレゼントが何であれ、相手を思いやる気持ちが大切ってこと。
 お金をかけなくても、相手が本当に喜ぶだろう贈り物はできるはずだよ。」
「――なるほど、オレたちの信頼関係と相手の心理を読む洞察力がモノをいうわけだな。――燃えてきたぜっ!!」
「それは面白そうですわー!なんだか負けた方が当たりみたいですわねっ!」
「もうすぐクリスマスだからね☆たまにはこんなのもいいでしょ。」
「もらえるもの楽しみだし、プレゼントを考えるのも楽しみだよ。………だよっ。」
「にぱ〜☆」
「よっし♪みんな納得したところで、ゲーム開始だよっ!!」
「「「「おーーーーーーーーーっっ!!」」」」

「――うん、美味い!!魅音やっぱり料理上手だよなぁ。」
「うんうん、かぁいいだけじゃないんだよ〜☆」
「………じつに美味しいのです☆」
「ホント、お店のケーキみたいですわー☆」
「んーー、我ながらコレは大成功だよ!」
みんなで均等に切り分けたケーキを選び、せーので口に入れた。
その美味しさを堪能していると、
ガチッ☆
「あてっ!!」
口の中に、固い感触。そっと取り出し、魅音持参のウエットティッシュで綺麗に拭うと。
――サンタをかたどったプラスチックのオーナメント。
「今回の罰ゲーマーは―――オレだな。」
「くくく……圭ちゃん、私ら4人を歓ばせることができるかなぁ?」
「………魅ぃちゃん、なんかニュアンスが違うんだよ?」
「私は手強いですわよ?せいぜい機嫌を損ねないようにお気をつけあそばせー☆」
「――沙都子、嬉しそうなのですよ。……にぱ〜☆」
「――じゃあ、用意する時間もあるだろうから、罰ゲームは今週末のクリスマス・イヴに決定!いいね圭ちゃんっ!」
「おうっ、まかせとけっ!!」

考えるぞ。みんなへのプレゼントを。
オレのかけがえのない大切な仲間が笑顔になる、そんな贈り物を―――。



「――さて。今日はいよいよクリスマス・イヴ。放課後の教室には私らメンバーだけ。
 プレゼントはちゃんと用意できてるかい圭ちゃん?」
「――魅ぃ、やたら説明的なのですよ。」
「いちいちうるさいな。――さ、圭ちゃん、出して出してっ!」
「みぃ〜〜……。――何がもらえるか気になってたまらないのね?」
「梨花ちゃんも楽しみなんだよね?……レナもそうだもん、わかるんだよ。」
「にぱ〜☆」
「――さあ圭一さんっ?早くお貢ぎなさいませー!」
みんなのテンションはかなり高まってる。オレだってドキドキだ。
……オレは紙袋から、最初のプレゼントを取り出した――。


【レナ】

「――レナ。」
「はいっ!………何かな?何かな?」
レナの手に、1冊のアルバムを置いてやる。
「………写真?………あっ!」
表紙をめくったレナは、中を見た瞬間かぁいいモードに豹変した。
「これ……ケンタくん………ヨンくん……あっ、こっちはナルドくんっ!
 ――うわぁ、ベコちゃんまで〜…すすすすごいんだよぉ〜〜!お宝写真満載なんだよぉ〜〜はぅっ。」
「親父が絵の資料用に街中を色々撮影しててさ。季節ごとに撮ってたから衣裳も色々揃ってるだろ?
 絶対喜ぶと思ったから、親父に頼んで譲ってもらったんだ。」
「圭一くん……ありがとぉ〜〜!レナ、これ毎晩寝る前に見るんだよ☆…だよっ☆」
「――レナは合格だね☆やるね圭ちゃんっ。」
――よし。最初をレナにして自信をつけたところで――。


【沙都子】

「沙都子っ。」
「ふぇっ!?……な、何を貢いでくださるんですの?私はちょっとやそっとじゃなびきませんことよー!」
「―――ほら。」
沙都子の目の前で、布をひろげる。
「――エプロン……ですわね。これを私に……?」
「ああ。これを着て、またオレに料理を教えてくれないか……?」
「………にー………っ。」
ぎゅうっ。
エプロンを抱き締め、小さく呟く。そして――
「――そうまでして私に料理の教えを請いたいのでしたら仕方ありませんわっ!
 厳しく鍛えて差し上げますから覚悟なさいませーー!」
「………沙都子も合格だね。」
魅音の声は、とても優しかった。
「……ご、合格とは言えないほどの縫い目ですけど、心の広い私は喜んだふりをして差し上げてますのよーーー!」
「嬉しがってる沙都子ちゃん……かぁいいんだよ〜☆」
「圭一。……100点満点なのですよ☆」
――沙都子の嬉しそうな憎まれ口が心地よかった。

オレは紙袋からスケッチブックを取り出すと、
梨花ちゃんの目の前で開いてみせた――。


【梨花】

「………………。」
突然私の前に現れた、もう一人の、私。
「――ボクを、描いてくれたのですか。」
それはとても稚拙で、本物の「私」とは全然似ていなかったけれど。
「――うん。親父に教わって、頑張って描いたんだ。絵心ないから下手だけど…気持ちは込めたぞ、思いきり。」
――確かに下手だ。だけど――
その言葉通り、気持ちはたくさんこめられている。
失敗作を破り捨てたのか、ずいぶん薄くなったスケッチブック。
消しては描き、描いては消した跡。
絵の中の私は、大切な友達に囲まれて幸せそうに笑ってる――。

――私がいなくなっても、この絵は残る。私がいた、証が残る――


「―――圭一。」
ずっと黙って絵を見つめていた梨花ちゃんが顔を上げる。
「――ありがとう……なのです。大切に大切にしますですよ☆」
とびきりの、笑顔。よかった……。
「梨花ちゃんも合格だね。」


【魅音】

「――さぁ、最後はいよいよおじさんだねっ。」
「―――魅音。」
オレは握りこぶしを突き出した。
「……………?」
不思議そうに覗き込む魅音の前で、そっとひろげると。
「―――お人形……。」
「うわぁ、ホントだ〜〜かぁいいよぉっ。」
「――まぁ、ブローチになってるんでございますのねー!」
「紙粘土でできてるから、あんまり丈夫じゃないからな。つける時はおしとやかにしてろよ?
 ……オレにはこれくらいしかできなくてごめん。」
「………………っ。」
「魅音……気に入らなかったのか…?―――っ!?」「――魅ぃ?」
「――――圭ちゃん……。」
魅音がオレの手ごとブローチを包み込み、いとおしむように頬擦りしてきた。
あーーーーーいかんいかんっ、赤くなるな顔っ!!
「ばか……反則だよぉ……っ。でも………ありがとう、圭ちゃん。合格だよ…。」
魅音は潤んだ瞳で、これ以上ないくらい幸せそうに笑ってくれた――。


【圭一】

「――さーて、ゲーム終了ーーー!!よくやったね圭ちゃんっ!!」
ブローチを胸につけた魅音が赤い顔で宣言する。
「圭一くん、本当にありがとうっ☆」
「正直、圭一がここまでやるとは思わなかったのですよ。………予想を裏切ってくれるんだから。」
「初めての冬を迎えた圭一さんに私たちからもプレゼントですわー!」
「――――――――え?」
オレ………に、プレゼント?
「これは罰ゲームじゃないよ。大切な仲間への、純粋な贈り物。」
「みんなでひとつずつ作ったのですよ。――圭一のために。」
「これで寒くないんだよ。……だよっ☆」
「都会育ちの軟弱な圭一さんにはこれくらいありませんとねー☆」
レナから、マフラー。
梨花ちゃんから、手袋。
沙都子から、帽子。
オレは制服の上からひとつひとつ身につける。
「私からは………はい、これ。」
ふわ……。抱きつくように覆いかぶさる暖かい感触。
「制服の上から着られるように、カーディガンだよ。」
「みんな……あったかいよ、すごく。――ありがとうな。」

極寒の雛見沢。
だけどオレは、オレたちは、すごく暖かい――。








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