〜金色〜


今日はみんなで宝探し。
大切な仲間たちとの、楽しい生活。
いつまで続くかわからない、
ある日突然終わってしまうだろう幸せ。
だけど――だからこそ私は今を大切に生きる。

圭一くんが加わって、私たちの結びつきはますます強くなった。
これで悟史くんが戻ってきてくれたら、沙都子ちゃんも詩ぃちゃんも、もっと幸せなのに――。

「レナーー、そろそろお昼にしよ〜〜!」
「あ、うん!悪いけど先に用意しててくれるかな?この子助けたらすぐに行くから!」
「あはは……了解☆でも何かあったら危ないからね、圭ちゃん近くにいてあげて?」
「おう、まかせとけっ!」
「ありがとう魅ぃちゃん、圭一くん。」
「――んじゃ、おじさん先に用意してるよ。沙都子、梨花ちゃん、詩音、行くよー!」

――最近、魅ぃちゃんがすごくやわらかい。
変に気負ったりしない、自然体。
圭一くんにも普通に接することができるようになったんだね。
そのせいか圭一くんも嬉しそうだ。
魅ぃちゃんと圭一くんが幸せなら、レナも幸せだよ。
「………このヨンくんが助けられたらもっと幸せ〜〜はぅっ。」
「ヨンくん?………ああ、あの薬局のカエル人形か。」
「うんそう。ちょっと足場が不安定だから圭一くんは来ないでね。
 ………バランス崩したら落っこちちゃうから。」
「――お、おう。……気をつけろよレナ。」
「大丈夫だよ。待っててねヨンくんっ。」
ヨンくんが引っ掛かってるのは、不法投棄所のはじっこぎりぎり。
「はじっこ」は崖になってて、鬱蒼とした木々が見えるだけ。
……落っこちたら怪我ですむかな。……かな。
――大丈夫大丈夫!いざとなったら圭一くんに助けを呼んできてもらえばいい。
「――レナ。」
「なぁに圭一くん?」
私は内心の動揺を気取られないように笑顔で答える。
「コレ、腹に巻いていけ。はしっこはブルドーザーに繋いでおくから。」
「ロープ………と金具?」
「命綱みたいなもんだ。万一ってこともあるからな。
 救急用具も持ってきてるから心配要らんぞ。」
圭一くんの足元には、救急箱と「非常用」と書かれた布袋。
「圭一くん……ありがとう☆レナ、頑張るよっ。」
圭一くん、成長したね。それだけ気が回れば、魅ぃちゃんももう泣かないですむよね。
――あれ?魅ぃちゃんのために気を遣うようになったのかな?……かな?
「なーに笑ってんだ?………ほら、ちゃんと固定したからもう大丈夫だぞ。
 ――頑張れ、レナっ。」
「―――――うんっ!」

「――しょ、よいしょっ……。」
ヨンくんの上の物をひとつずつ丁寧によけて、彼の手をつかむ。
そして、そっと引き上げ――
「―――とれた!!」
「お、やったかレナっ!」
「うん!ありがとう圭一くんっ。ほら見て―――」
ヨンくんを抱え、ふり向こうとした瞬間、
「―――きゃっ!!」「レナっ!!」
足元のマットレスごと、ヨンくんと私は崖下へ―――。

―――どさっ。
ばふっ……!
「ひゃんっ!!」
「レナ!!大丈夫かレナっ!!」
「は、はうぅ〜〜。………大丈夫だよ圭一くん。
 マットレスの上に落ちたからどこも痛くないよ。――あっ!?」
「――――レナっ!?」
「圭一くん圭一くん、ヨンくんも無事だよっ☆」
「おまえなぁ………っ。」
マットレスからそっと降り、身体中の埃をはらう。
そんなに高くはないけど、ヨンくんもいるし自分じゃ上がれそうにないな……。
「――圭一くん、誰か大人の男の人呼んできてくれるかな?」
「わかった。富竹さんと監督を呼んでくる。……動き回らずに待ってろよ。」
「うん。お願いね圭一くん。」

………………。
あービックリした。みんなにも迷惑かけちゃうなぁ。
……でも、過ぎちゃえばこれも楽しい想い出になるのかな?……かな?

がさっ。
「――君、どうしたの?凄い音がしたけど――」
「きゃあっ!!」
突然、茂みから男の人が現れた。
伸ばしっぱなしの金髪はくすんでボサボサ、髭も生え放題。
ボロボロの衣服の、男の人――。
「………あ、ごめんなさいっ。ちょっと上から落っこちちゃったんです。」
「上から!?………そうか。君も僕と同じなんだね。」
「………………同じ?って、おじさんも落ちちゃったんですか?」
「――うん、もうだいぶ前にね。一人じゃどうにもできなくて。
 ……この上の不法投棄所はめったに人も来ないしね……。」
「――あ、大丈夫ですよ。私、友達と一緒なんです。
 今大人の人たちを呼んで来てもらってますから――」
「本当かい?………助かるのか!?
 僕は………沙都子と詩音に会えるんだねっ!?」
「え――――――――」
――おじさんだと、思ってた。思ってた、けど――。
ボサボサの金髪を整えて、前髪を切って瞳を出し、生え放題の髭がなくなれば。
ボロボロの衣服を取り替え、身体を洗って身奇麗にしたら――。
「――さ、さとし……くん?悟史くん!?
 わ、私……レナだよっ?レナなんだよっ?」
「レナ……本当にレナかい?――あれからどれだけ経ってるんだ?
 沙都子や詩音は……みんなは無事なのか?」
「うん……うん、大丈夫…。沙都子ちゃんも詩ぃちゃんも、みんな元気だよ。
 ――本当に、悟史くんなんだね。」
「うん……。――僕は、叔母を殺そうと思ってた。でもできなかった。
 だけど叔母は死んで、僕は警察に疑われて――。
 どうしたらいいかわからなくなって、みんなに会わないところに行こうとして――」
「……ここに、落ちちゃったんだね。」
「―――うん。すごく後悔したよ。ここで一人になって、本当に悔やんだよ。
 食べ物は自然が豊富だからどうにかなったけど、
 沙都子や詩音やみんなのことを思い出すたび辛かった。
 ――『みんなに会わないところ』にこれたはずなのに、おかしいよね。」
「――おかしくないよ。……本当によかったよ、悟史くん……。」

「レナーーー?大丈夫かーーーーっ!?」
「――あ、圭一くん!うん、大丈夫だよ!」
「今富竹さんと監督が来てくれたから、ロープ引き上げるぞ?」
「――あ、圭一くんちょっと待ってて!」
「――ああ………?」

「……悟史くん。あれから一年経ってる。
 叔母さんを殺した犯人は捕まったよ。……死んじゃったらしいけど。」
「そうか……。」
「――でも、大石さんは悟史くんが怪しいって思ってる。
 上に上がったら、また追求されると思う。……それでもいい?」
「――いいに決まってるよ。」
悟史くんは、きっぱりと断言した。
「この一年、沙都子は苦しんでたと思う。辛い思いをさせたと思う。
 ……詩音だってそうだ。僕をかばっていたんだからね。
 会えない寂しさに比べたら、それくらいなんでもないよ。
 それに僕は本当に叔母を殺してなんかいないんだから。」
「――うん。……じゃあ行こう、悟史くん。」
「――――ああ。」

「――圭一くん、お待たせ!……あのね、下にもう一人人がいたんだ。
 一緒に助けてもらってもいいかな?……かな?」
「人が!?……わかった、先にレナとヨンくんを引き上げるから、
 レナはヨンくんをしっかり抱えてるんだぞ。」
「うん。………いいよ圭一くんっ!」
「富竹さん、監督、お願いします。……せーのぉっ!!」
く………、ふわっ………。
私とヨンくんが少しずつ宙に浮き、そして地上に引き上げられる。
「ありがとう……迷惑かけてごめんなさい。」
「レナ……無事でよかったよ。……さあもう一人助けないとな!」
圭一くんは私の無事を確認すると、私のロープを外して下に放った。
「レナさんっ!…あんまり驚かさないでくださいまし…っ!」
沙都子ちゃんが真っ赤な瞳で声を荒げた。
「沙都子はさっきまでわんわん泣いてたのですよ☆」
本当に嬉しそうに梨花ちゃんが笑う。
「レナさん。あんまり無茶はしないでください。
 大切な人がいなくなるのは、もうたくさんです……っ。」
詩ぃちゃんが瞳を潤ませていた。
「――レナ。あんたって子は、もう………っ。」
魅ぃちゃんも、おんなじ。
「みんな、ごめんね。……あのね、この子がお宝第一号のヨンくんだよ。
 そして、第二号が――」
「……しょ、よいしょっ。……よーし、もう大丈夫だぞっ!」
悟史くんも、無事に引き上げられた。
その変わり果てた風貌でお礼を言う悟史くんに富竹さんはきょとんとしてる。
監督は、彼が誰だかわかってないようだ。
……こちらに向かってくる悟史くんを見て、
沙都子ちゃんと詩ぃちゃんがびくりと身体を震わせた。
「――し、くん………?」「………ーにー………?」
「――ただいま。沙都子、詩音……。」
「悟史くん!!」「にーにー!!」
沙都子ちゃんと詩ぃちゃんはまるで合図をしていたかのように、
悟史くんの左右に綺麗に分かれて飛びついた。
「悟史!?」「悟史なのですか?」
唖然とした魅ぃちゃんと梨花ちゃんも慌てて走り寄る。
「……レナ、このおじさんが悟史なのか?
 ずいぶん年の離れた兄妹だったんだな……。」
「圭ちゃんっ、悟史くんはおじさんなんかじゃありませんっ!!」
「そうですわー!圭一さんなんかよりずっとずーーーっと美形ですのよっ!」
「………圭一、かわいそかわいそなのです。」
「悟史くん……なんですね。無事で本当によかったです。
 これでもう、沙都子ちゃんの哀しむ姿を見ないで済みます。」
「監督……心配かけてすみませんでした。」
感動の再会シーンを、富竹さんは嬉しそうに撮影していた。

「――ゆっくり話をしたいけど、僕はこれから大石さんのところに行くよ。」
「にーにー!?」「悟史くんっ!?」
「僕は無実だよ。…だからこそちゃんと話をしに行かなくちゃ。
 ……僕はもう逃げない。――もう少しだけ待っててくれるよね?」
「悟史くんっ……、」「にーにぃ……っ、」
「………………むぅ。」
「わ、わかりましたわ……。気をつけて行ってらっしゃいませ!」
「――悟史くん。……待ってますから。」
「悟史。……沙都子と詩ぃの作ったお弁当なのです☆
 出前のカツ丼よりずうっと美味しいのです。…持って行ってください。」
「あはは……沙都子と詩音がついててくれるみたいで心強いよ。
 ありがとう梨花ちゃん。――行ってきます。」
「悟史くん、私の車で送りましょう。身体も心配ですしね。」
監督に連れられて、悟史くんは不法投棄所から去っていった。

「――さて、悟史くんも無事に戻ってきましたし、レナさんも無事だったし、」
「ヨンくんも無事救出できましたし、お昼にいたしましょうですわ!」
「――富竹も一緒に呼ばれてくださいです。詩ぃと沙都子の持ってきた分を引いても
 まだまだたくさんあるのですよ☆」
「ありがとう。ご相伴に預かるよ!」
「圭ちゃんもお腹減ったでしょ?レナもいっぱい食べなくちゃね!」
「うん!……さ、行こうヨンくん!」


これからまた格別幸せな日々が始まる。
はしゃいではねるたびに揺れる沙都子ちゃんの金髪のようにきらきら光る、
金色の、まぶしい幸せ―――。








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