〜赤〜


私のだけのものになってくれないのなら。
あの子のためにあなたが壊れてしまうなら。
だったら、私が、いっそこの手で――。

「――悟史くん。」
「ん、なんだい詩音――」
バチバチッ!!
私は最大出力にしたスタンガンを振り向いた悟史くんの胸にあてる。
悟史くんの笑顔が強張り、静かに地面に崩れ落ちた――。

疲れきっていた悟史くんは、スタンガンにあっけなくその命を奪われた。
今まで苦しんできた分、一瞬で楽にしてあげられて本当によかった。
魂の抜けたその表情は、けれど安らかだった。
私に笑顔を向けることはもうないけれど、頭を撫でてくれることももうないけれど、
沙都子のために苦しむこともない。
叔母との間で板ばさみになることも、無理なバイトを続けることも。
冷たくなってゆく悟史くんの抜け殻を抱き締め、彼がそうしてくれたように頭を撫でる。
「悟史くん……ごめんね。私は同じところには行けないけれど、幸せを祈ってるから――」
悟史くんの身体をそっと横たえ、肉厚のナイフを取り出し、そして――。

ドシュ……ッ!
「ぐぅ………っ!」
わざと急所を外して自分の身体に突き立てる。
ザクッ、ズシュッ、グシュッ……。
「あぐっ、………くひぃっ、………うあぁあ………っ!」
身体中を、何度も、傷つける。
私の中の汚らしいものが、溢れ出てくる。
悟史くんが今まで味わってきた苦しみをこの身で味わうんだ。
悟史くんがこれから味わうはずだった苦しみを、痛みを、辛さを、すべてこの身で。

ピシュッ……。
悟史くんの顔に、血しぶきが飛んでしまった。
拭いてあげなくちゃ……制服のスカートで手の血を拭い、そぉっと、指で拭ってあげる。

………あれ?
拭いても拭いても、血がとれない……悟史くんには血は似合わないのに。
ごめんね。わたしの血………きれいじゃない、のに……。

めのまえがまっか。わたしの血でまっか。
まっかなせかいに、わたしはとけてゆく。

………もうどこもいたくなかった。



「綺麗な夕焼けですわねー。」
放課後。沙都子がはしゃぎながら下校している。
私もお姉も、レナも圭一も梨花ちゃまも…。みんな笑ってる。
「………ねえ、詩音さんもそう思いませんこと?」
嬉しそうに話しかけてくる。
――そう。私は悟史くんとの約束を守り、沙都子と一緒に力をあわせて悟史くんを待っているのだ。
「うんうん、雛見沢の夕焼けは最高だよねえ!」
お姉が自分のことのように誇らしげに笑う。………相変わらずなんだから。
「本当に綺麗だよねぇ〜!お持ち帰りできないのが残念だよっ。」
レナもいつもの調子でニコニコしてる。
「都会とは大違いだよ。……ここに来れて本当によかった。」
圭一は時々、こんな風に深刻そうな雰囲気になる。
都会で何かあったのかもしれないが、みんなも、私も、何も聞かない。
私が詩音であるように、魅音が魅音であるように、圭一は圭一だから。
「詩ぃ?………どうかしたのですか?」
梨花ちゃまが大きな瞳で私を見上げる。
「………夕焼けは嫌いですの……?」
沙都子も不安げに歩みを止めて私を見つめてる。………いけないいけない。
「あー、ごめんなさい。夕焼けの赤が、ちょっと……なんだか切なくって。
 お姉と違って、恋する乙女は繊細なんですよ☆」
「なっ、なんだよ詩音ー。私だって恋くらい……………あ。」
「ん〜〜?何ですかぁ?よく聞こえませんでしたけどぉ〜〜?……くっくっ!」
「魅ぃちゃん、あの夕焼けみたいにお顔真っ赤だよ☆」
「ん、どーした魅音?今何か言ったのか?」
「圭一さんったら、鈍すぎですわーっ!私にだってバレバレですのにっ。」
「魅ぃは今、乙女なのですよ☆」
「わーーーっ!梨花ちゃんっ、駄目だめダメーーーーっ!!!」
みんながお姉を囲んで盛り上がる中、私はそっと涙を拭う。


……夕焼けのあの赤さを見ると、私が選んでいたかもしれない穢れた光景が浮かんでくる。
たとえ悟史くんが私を思っていなくても。
私だけのものでなくても。
沙都子のために壊れてしまっていたとしても。
悟史くんが悟史くんとして生きていることを私は望んだ。
悟史くんは、私に大切な沙都子を託してくれたんだもの。
「………詩音さん。」
みんなから離れた沙都子が私の制服のスカートを軽くつかむ。
「………沙都子。大丈夫ですよ、何でもありませんから。……夕焼け、綺麗ですね☆」
「ええ。……にーにーは、きっと帰ってきますわ。そうしたら、またみんなでこの夕焼けを見ましょう。
 ……にーにーも、綺麗だって言ってくれますわ。」
スカートをつかんでいた手が、そっと私の手に触れる。
「ええ、もちろんです。きっと、悟史くんは帰ってきます。」
私は沙都子の小さい手を、きゅっと握る。
暖かいこの手を、ずっと守っていきたい。守っていこう。
悟史くんが戻ってくる、その日まで。

――穢れた光景は、もう見えない。








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