女の子だけの夜。



「「「パジャマパーティー?」」」
昼食後のまったりとした教室に、レナ・沙都子・梨花の声が響きわたる。
「―――そ。今度の週末、おじさん家で。どーかな。」
「うんうん、いいね!すっごくいいね!」
「もちろん男子禁制ですわよねぇ……。」
ちろり。
沙都子はちょうど教室に入ってきた圭一を横目で見ながら、わざと聞こえるように言う。
「――なんだなんだおいっ。沙都子、またなにか悪だくみかぁ?」
「違いますですわよーだ☆」
「パジャマパーティーなのですよ。」
「パジャマ……なんだって?」
「パジャマパーティー。圭ちゃん知らない?…ま、簡単に言えば女の子同士のお泊り会だね。
 入浴・寝室を共にすることによって交流を密にするというイベントだよ。
 ……圭ちゃんも女の子になれば混ぜてあげてもいいけどぉ〜〜?」
「誰がなるかっっ!!」
「ホントは混じりたくてたまらないくせに、素直じゃありませんわねぇ圭一さん!
 混ざりたくばフリフリのドレスでも着用して、
 『お願いします、どうかこのわたくしめを仲間に加えてやってくださいませ…っ!』と
 うるうるした瞳でおねだりしてごらんなさいませ………ひゃうっ!」
「さーーーーーとーーーーーこーーーーーーっ!!」
沙都子の頭を鷲掴みにしてわしゃわしゃとかきまぜる。…相当頭にきたらしい。
「だーれがおねだりだっ!なーにがフリフリのドレスだっ!お子様がそんなプレイを語るのは100万年早いわっっ!!」
「ふわぁああああん!髪の毛ぐちゃぐちゃですのーーーっ!」
「せっかく綺麗にセットしてきたのに、かぁいそかぁいそなのです。」
「フリフリドレスの圭一くんが……うるうるした瞳で……おねだり……はぅっ。」
ぷしっ。
「―――レナっ、ほら鼻血拭いてっっ!!」
「うにゅ〜〜…。でも圭一くんがどんなにかぁいくおねだりしたってダメなんだよ?」
「女の子同士でないと話せないこともたくさんあるのですよ。――ねえ魅ぃ?」
「―――えっ、あっ、その……っ、」
ぷしゅうぅううう……。
「おいおい魅音っ!?どうしたっいきなり真っ赤になって……。」
「圭一くんはわからなくていいんだよ。……だよ。」
「どんなパーティーになるか悶々とした一夜を過ごすとよいのですよ。にぱ〜☆」
「圭一さんの羨ましがる顔が今から楽しみですわー☆」


「楽しそうで何よりですけど、授業始めていいでしょうか?」

「「「「「――ち、知恵先生っ!?」」」」」
いつの間に教室に入っていたのだろう。いつの間に昼休みが終わっていたのだろう。
呆然とする部活メンバーを、困ったように微笑みながら腕を組んで見つめる知恵。
まわりの生徒たちもいつ彼らが気付くか見守っていたようだった。
「――はい委員長、号令よろしくね!」
「―――き、きりーーつ!きょーつけーーーー!!」

心はすでに、週末に飛んでいた――。



「くっくっ……。今ごろ圭ちゃん、おじさんのこと羨ましがってるだろうねぇ……。」
パジャマパーティー当日。
みんなで魅音の漫画を読みながら笑いあったり、腕をふるって美味しい料理を作って味わい、
週明けにみんなで食べるクッキーを焼いてみたり……。
来たるべき夜に向けてテンションはヒートアップ。

そのテンションが冷めないように、パジャマに着替える前に、みんなで入浴。
魅音は湯船の中でみんなを見回しご満悦状態だった。
「魅音さん……あんまり見ないでくださいませっ。女同士でも恥ずかしいですわっ……。」
「うわぁ……恥じらう沙都子ちゃん、かぁいいよぉ〜〜。」
「――魅ぃ、視線がおやぢくさいのです。」
「いやー、だってさー。目の前に美少女たちの一糸まとわぬ水も滴る裸身があったら、どーしたって目がいくでしょ☆
 圭ちゃんに話したら地団駄踏んで羨ましがるだろーねぇ……くっくっ!」
「ふっ、フケツですわーーーーっ!!圭一さんに詳細希望されても黙秘権を行使なさってくださいませっ!!」
「ダメだねっ!沙都子の年の割に発育のいいそのみずみずしい身体を懇切丁寧に説明してあげなくっちゃ
 勿体ないよっ!可愛らしいデザインの制服を緩やかに持ち上げるそのふくらみがどれだけ男心をそそるか
 知らないってのは罪だよ罪!
 おじさんがこの目でしかと見たそのふくらみを言葉だけで想像させられるくらいに説明するんだからっ!」
「み、魅音さん………っ。」
「………ボクはぺったんこだからきっとつまらないのですよ。」
「ちっちっ、甘いよ梨花ちゃん!つるぺたはある意味萌えなんだからねっ!
 その艶やかな長い髪に覆われた白い裸身は、コントラストが効いてて妖しい色気があるよ!
 思うに梨花ちゃんの不思議な魅力ってのはその二面性にあるね!
 それにね梨花ちゃん、つるぺただって言ってるけど、自分でわかってないだけだよ!
 最近、少しずつ大きくなってきてるのは、服の上からだって確信してた!
 そして、今!その確信は確認に変わった!!見事だよ梨花ちゃんっ!!」
「……こんな、………こんな魅ぃ、…見たことない…。」
魅音のおじさんっぷりは止まらない。ヒートアップしてゆくテンションは圭一以上だ。
圭一を交えてならともかく、女同士でこんな状態になるのはいくらなんでも不自然だ――。
「魅ぃちゃん。」
「おーっと、もちろんレナだって忘れちゃいないよっ!
 見かけのほやほやさとは裏腹に、中々にいい身体してるの、知ってんだから――」
「……じゃあレナは圭一くんに魅ぃちゃんの身体を説明するよ。
 魅ぃちゃんは意識をそこから反らしてるみたいだけど、
 圭一くんが時々魅ぃちゃんの胸をちらちら見てるの知ってるんだ。」
「ふっ、フケツっ……もがっ☆」
「―――黙って聞いてるのですよ沙都子。」

「ふぇ……け、圭ちゃんが……っ?」
「うんそう。だって魅ぃちゃん、こんなに大っきいんだもん。
 レナもそれくらい大きかったらなあって思ってよく見てたから、気付いちゃったんだよ。……だよ。」
「わ、わぁあああぁ……っ。」
「えーと、魅ぃちゃんの胸はー、レナの手のひらじゃ掴みきれないくらいでー、
 ウエストから腰へのラインの流れが、こー……、」
「わーーーっわーーーーっわーーーーーーっっっ!!!!
 ごめんっ、おじさんが悪かったよ…っ!だから圭ちゃんには言わないで……っ!」
「あはは、冗談だよ魅ぃちゃん。悪乗りしすぎだったから、ちょっとお返し……魅ぃちゃん?」
「―――――――魅ぃ?」
「魅音さん……っ!」
「おっ……お願いだから……これだけは……おねがいっ……。」
水滴で濡れた壁に背中を押し付け、必死に懇願する魅音の姿に、普段忘れていたそのことを思い出す。
そこに意識を向けさせないようにと、無理に明るく振舞って隠していたそのことを――。
「………魅ぃちゃん。言わないよ、大丈夫……ごめんね。」
ぼろぼろと涙を零す魅音を優しく抱き締め、冷たい壁からそっと引き離す。
「魅ぃちゃんは、魅ぃちゃんだよ。その背中に何があっても、私たちの大切なお友達。」
「……魅音さんが秘密にしたいのでしたらそうしますけど、
 圭一さんは知ったからって態度を変えるような人じゃありませんわよ。」
「女同士のナイショなのです。ミステリアスな魅力も女には必要なのですよ。……にぱ〜☆」
「うっく……。えへへ、ごめんねみんな……ありがとぉ……っ。
 そうだ、デザートに美味しいアイスクリームがあるんだよ!あがったらみんなで食べよう!
 ……その前に、お湯に浸かって100数えてあったまろーーーー!」
「「「おーーーーーーーーー!!!」」」



「あーーー、さっぱりしたーーー☆」
「湯上りの肌にパジャマが気持ちいいですわー!」
「アイスもすっごく美味しかったよぉ〜〜……はぅっ。」
「極楽極楽なのですよ。」
布団を敷き詰めた一室に、パジャマに着替えて集合した。
「いよいよパジャマパーティー開始だねぇ!無礼講と行こうか皆の衆!」
「なんだかドキドキするね。……するねっ☆」
「魅ぃ、お酒はないのですか?」
「り、梨花ぁあ?お酒はダメですわよっ!」
「みぃ〜〜〜〜っ!」
「んーー……今日は無礼講だしねー。パーティーといったらお酒だよねぇ。でもOKは出せないよ。」
「………みぃ。」
「――ま、婆っちゃは旅行中だから怒られることはないと思うけどさ。やっぱり立場上OKはできないんだよねぇ。
 台所の冷蔵庫の中にたっぷり用意してあるなんて、とても言えやしないしね――。」
「……にぱ〜☆」
ぴゅん!
そう音がしても不思議じゃないほどの勢いで、梨花が台所へと飛び出した。
「魅音さんっ!!まったくもぉ……。」
「にゃっはっはっは…。まぁまぁ、あひゃひゃひゃひゃ…!」
「レナたちも飲んでいいのかな。……かな。」
「レナさんまで――。……わ、私も……いただいてよろしいんですの?」
「―――――共犯だかんね?」

「みぃ〜〜〜〜〜☆」
両手いっぱいにワインやビールのビンを抱えた梨花が戻ってきた。
「ごくろう!……んじゃ、パーティー開始といきますかっ!」
「「「うわぁ………っ!」」」
魅音が布団の脇の紙袋の中身をぶちまけると、みんな歓声をあげた。
和洋中あらゆる種類のおつまみと紙皿・紙コップ…。布団が埋め尽くされるほどの量だった。

「さあ、今夜はこれがなくなるまで盛り上がるよ〜!んじゃ、みんな飲み物はOK?」
「「「おーーーーー!」」」
「女同士のパジャマパーティーに……乾杯!」
「「「かんぱーーーーーい!!!」」」


「……でさぁ……ったんだよねー。」
「ホント〜?あははー!」
「それって、なんなんですのー?」
「すごいのですよ☆」
「でしょー?それでその時、圭ちゃんがね……、」
夜も更けて、まったりと飲みながら他愛のない話に花を咲かせる。
魅音が話を続けようとした時、異様な視線に気がついた。
にま〜〜〜。
「……………へ?な、何………っ?」
みんながにまにましながら魅音を見ていた。
「魅ぃちゃん、さっきから圭一くんの話ばっかりだよ。……だよ。」
「すごく楽しそうに話してましてよ☆」
「魅ぃは圭一が大好きなのですよ。にぱ〜☆」
「わあぁぁあぁああああああっ!!!」
しばらくばたばたと布団の上で両手を振って暴れていたが、
酔いがまわったのかそのまま布団に倒れこんでしまった。
「………魅ぃちゃん?」
「魅音、さん……?」
「………………魅ぃ?」
柔らかな布団に包まれて、そのまま眠りについたのだろう…。
がばっ!!
「「「わあぁっ!!」」」
急に飛び起きた魅音の目はすわっていた。
「そうだよ。確かにおじさんは圭ちゃんが好きだよ。
 男同士とか親友とか言ってるけど、本当は女の子として見て欲しいんだ。……文句ある?」
「――よく言えましたのですよ☆」
「圭一さんに直接言えればもっとよかったんですけどねぇ。」
「――大丈夫。一度こうして口に出せたんだもん。今度はシラフで、圭一くんの前で、『大好き』って言えると思うよ。」
「そうですわね!きっと言えますわ☆」
「ファイト、おーなのです。」
「もう……おじさんばっかしからかわないでよー。………………っ!」
魅音は照れ隠しに紙コップの酒を一気に飲み干した――。



魅音は勢いよく紙コップを置くと、キッとレナを見据えた。
「じゃあさ、レナはどーなのよ?」
「………聞きたい?レナが誰を好きなのか。」
レナの瞳の色が変わる。後悔しないね?とでも言うように。

――レナもきっと圭一を好きだろう。それならそれで仕方ない。ちゃんと言ってくれた方が嬉しいから。
そう覚悟を決めて魅音は大きく頷いた。
「――うん、聞きたい。聞かせて。」

レナの瞳がいつものような穏やかな光をたたえたものに戻る。
そしてにっこり微笑みながら。
「レナはね。――お父さんが一番好き。」
「レナ………?」
「レナさん………?」
「――――レナ。」
「ウチの両親が離婚してるのは知ってるよね。
 お母さんが浮気して、私とお父さんを捨てていなくなっちゃった。
 ……レナね、ずいぶん荒れたんだ。友達に怪我させて、病院のお世話になって……。
 でもね、そんなレナを、お父さんは見捨てなかった。
 お父さんだって辛いのに、『ふたりでゆっくり立ち直っていこう』って、
 そう言ってくれたんだ。抜け殻みたいだったお父さんの瞳がしっかりしてきて、
 そんなお父さんと一緒に、レナも今のレナになれたんだよ。」
時々村でレナと一緒に買い物をしている姿を、魅音も沙都子も梨花も見ていた。
頼りなげだけれど優しい瞳でレナを見て。レナも嬉しそうに微笑み返して。
「――だからね、レナはお父さんが一番大好き。」
レナのその言葉はすんなりみんなに浸透していった。
「――そっか。素敵なお父さんでよかったねレナ。」
「―――うん!」
魅音が圭一のように頭を撫でると、くすぐったそうに笑った。
「――あ、でもねでもねっ、ケンタくんも大好きなんだよ☆
 おやすみ前にはキスをするんだけど、今夜はできなくてちょっと残念〜〜はぅっ。」
どたっ。
魅音と沙都子は、布団に思いきりキスをした――。
「どうしたのかな?……かな?」
「―――レナ。台無しなのです。」

「……梨花ちゃんは、どうなのかな。」
「――――――え?」
「大好きな人。大切な人。……いないのかな?……かな?」
「大好きな……大切な、人……。」
いつもの笑顔とは違う、なんともシニカルな笑みを浮かべる梨花。
「――梨花は……誰かを待っているようですわ。なんとなく、そう感じるのですわ…。」
「――――――沙都子。」
「いったい誰なんだい?」
レナや沙都子や魅音を見ているようで、どこか遠い空を見ているようだった。
過去と未来に思いを寄せるような、そんな瞳で。
「………来るかどうかもわからない人。でも来てくれたら、きっと私を守ってくれる、人。」
「よくわからないけど、梨花ちゃんは王子様を待ってるんだね。」
「「王子様ぁ?」」
魅音と沙都子が同時に声をあげる。
「――そうかもしれない……。茨で覆われた城の中に幽閉されている私をってくれる王子様を――
 待ってるのかもしれないのですよ☆」
にぱ〜☆と、いつもの笑顔で。魅音も沙都子も、その笑顔に引き込まれるように一緒に笑った。
「梨花ちゃん、すっごくかぁいいよ〜〜!」
「……レナは鋭いのです。油断も隙もあったもんじゃないのですよ。」

「――さて、と。残るは沙都子だねぇ。……といっても、聞くまでもないか☆」
「ふえ?ななななんですのっ!?」
「うんうん、決まってるよねぇ☆」
「――なのですよ。」
「………ふぇ……なん……ですの……っ。」
じりじりと接近してくる3人に、怯えを隠せない沙都子。そして――。
ぎゅうっ。
「ひゃあっ!?ななななんですのぉ〜〜!?」
3人に抱きつかれて、困惑する沙都子。
「……んもぉ……私はもう子どもじゃありませんのよ……。」
照れながらも、みんなの温もりに包まれて、安心して瞳を閉じる。
「………ーにー……っ。」
幸せそうな笑みを浮かべ、そのまま沙都子は寝入ってしまった。
「「「……………。」」」
3人は顔を見合わせて軽く微笑むと、沙都子のまわりに集まるように眠りについた――。



「今日の部活は圭ちゃんの負けーーーーーーっ!!」
「なにーーーーーっ!?」
「あっけなさすぎて物足りませんですわーーーっ!」
「あはは圭一くん、勝負の世界は非情なんだよ。……だよっ。」
「くそぅ……やけに団結力が増したじゃねぇか……ぐふぅっ。」
「パジャマパーティー効果なのですよ。にぱ〜☆」

……その後、雪辱戦に燃える圭一が強引にソウルブラザーズを誘って
パジャマパーティーを開いたのだが、それはまた別のお話(笑)。
しかしその努力も実ることはなかったのだ。

富竹以外は部員じゃないということをすっかり忘れている圭一だった……どっとはらい。









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