キンモクセイ。


「うはーーー、キンモクセイのいい香りっ!」
放課後、レナが宝探しに出かけて二人だけの帰り道。
雛見沢もずいぶん涼しくなってきた。気がつけばひぐらしの声はもう聞こえない。
今日の魅音はやけに嬉しそうにはしゃいでる。そんなに秋が好きなのか……?
「ねえ圭ちゃん、そう思わない?」
「濃厚すぎてむせっかえりそうだ……。」
魅音には悪いが、正直、ちょっと気持ち悪い。
「えー、圭ちゃんはこの香り、嫌いー?」
「いやー……なんつーか、トイレの芳香剤?」
「こーーーーーらっ!人工の香りと一緒にしちゃ失礼だよっ!」
「………誰に?」
「へ?………………キ、キンモクセイ……。」
「………ぷ。」
―――困ったように呟く姿が妙におかしくて、俺は思わず吹き出してしまった。
「け、圭ちゃんっ!………ほら、ちゃんと嗅いでごらんっ!」
真っ赤な顔で俺の手を強引に取る魅音に、少し離れた草むらまで連行された。

さわさわ……さわわ………。
秋風が辺りの草を揺らすたびに、遠くからほのかな香り。
「――キンモクセイか。」
「ほら、このくらい離れればそんなにキツくないでしょ?」
「………………。」
甘い、それでいてさわやかな香り。その花の色にふさわしい、オレンジ色の、香り――。
「――どう、圭ちゃん。………聞くまでもないか。」
瞳を閉じて鼻から何度も呼吸を繰り返す俺を、魅音は軽く笑った。
けれどそれはバカにするとかそんな笑いじゃなく、わかってもらえた喜びの笑いだった。

「圭ちゃん。はじめて雛見沢に来た時って、何の匂いがした?」
その心地よい香りに包まれて呆けている俺に、唐突に魅音が聞いてきた。
「え、うーーーん……。草の、匂い……かな。」
「んー、まあそうだろうね。」
俺のなんともひねりのない答えにも、魅音は笑わなかった。
「じゃあさ圭ちゃん。都会はどんな匂いがした?興宮もまあ開けてはいるけど、圭ちゃんとことは大違いでしょ?」
「んーーーーーーーーー………。」
なぜだろう。何も思いつかない。
「あれ?「排気ガス」とか「人いきれ」とか返ってくると思ってたのに…。」
魅音も不思議そうに俺を見つめる。
「………匂いなんて、あったかな……。」

――あの頃俺を取り巻く世界に、色はなかった。真っ白だった。
彩るものが、なかったから。
――なにもなかったんだ。
外界を拒み、自分の殻に閉じこもっていた俺には、音も、匂いも。

何も言えない俺を助けるかのように、魅音が口を開いた。
「――ここにはさ、自然がたくさん残ってる。当たり前にあるべきものなのに、都会にはそれがない。
 ……不思議だよね。でもさ、圭ちゃんはもう雛見沢の人間なんだよ。当たり前の自然を受け止めていいんだよ。
 ……当たり前の、わた……、仲間たちも。」
「魅音………。」
「――あ、あれ?おじさん何言ってんだろね?あはは…。」
照れくさそうに俺の視線を避け、俺に背を向けた。そして――。

夕日に照らされて光るポニーテールをほどき、その長い髪を風にまかせる。
「こうするとね、身体中に風が吹き抜けて気持ちいいんだよ。」
キンモクセイの香りのする風が、魅音の髪をなびかせてゆく。
風下にいる俺には、その香りがもう魅音のものとしか思えなくなっていた…。

「魅音、俺………、」
「――ん、なあに圭ちゃん?」
魅音が振り向く。逆光にきらめく髪がその穏やかな表情を縁取り、思わず見とれてしまう。


「俺………キンモクセイの香り、好きだ。」








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