部長。


「――ほらよ魅音っ、おめーの負けだあぁっ!!」
「ええーーーーーーーーーっっ!?」
圭ちゃんが突き出したカードは、私のカードをすべて上回る完璧なものだった。
「くっ……。おじさんの負けだよ……っ。」
「へへー、たまには敗北の味を噛み締めるのもいいだろ魅音?」
「うーーーーーーーーー……。」
今日の罰ゲームは、飛びきり過酷。
なんたって圭ちゃんにさせようと思ってたやつだからね。
「さあて、あとはレナや沙都子や梨花ちゃんを倒すのみだな……っと!」
「うーーーーーー…。」
自分の背後でふてくされるように座り込む私を気にすることなく、
圭ちゃんは勝利を確信してご満悦だ。
『ふーーーーん……。』
油断したね圭ちゃんっ。圭ちゃんのカードが、私から丸見えだよ。

「は〜〜ぁ、あ〜〜〜っ。
 特訓重ねて、余裕で勝てるはずだったのにー、
 ん〜〜〜ツイてないなぁっ。」
「「「――――――――――っ!!」」」
私の大げさすぎるぼやきに、レナ・沙都子・梨花ちゃんの瞳が光る。
うん、やっぱりみんな鋭いねえ!
圭ちゃんは私に勝ったとニヤニヤしてる。詰めが甘いんだよねえ。

「圭一くん。……勝たせてもらうよ。」
「私のこのカードで一撃ですわっ!」
「――はい、どうぞなのです。」
「ぐおっ!?」
三人に一斉に出されたカードを見て驚きを隠せない圭ちゃん。
「なんでおめーら、いきなり……っ、」
「圭一くんのカードはハートの4だよね。……よね。」
「ですからそれに勝てるカードを出させていただいたのですわ。」
「これで圭一は負け負けなのです。」
ここでやっと、背後の私を振り返る。遅いよ、遅すぎるよ圭ちゃんっ!
「いやー、みんなありがとねー。あんなに単純な暗号だったのに、情けないよ圭ちゃんっ。」
「魅ぃちゃんが教えてくれたおかげだよ。」
「アレに気付かないなんて圭一さんたらニブすぎですわー!」
「油断大敵なのですよ。」
「くそー、魅音の露骨なイカサマにも気付かなかったとは……っ!」
「いえーい、二人で罰ゲーム〜♪死なばもろともだよ圭ちゃんっ!」
「みーーーーおーーーーんーーーーっっ!!」
「ちっちっ!駄目だよ圭ちゃん、最後まで油断しちゃあ。
 勝負は最後までわからないんだからね!
 ――部長はタダじゃ負けないんだからっ!」






「やめて魅音、やめて姉さん…、やめてやめてやめて…!!!」

――狂い死にしても、不思議じゃなかった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
  ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ…、」

――その方が、楽だった。

「もう嫌…、嫌…!嫌ぁ!!もう誰の死を見るのも嫌!!! 
 私が憎いなら……早く私を殺してよッ!!!憎いのは私なんでしょう!? 
 早く殺して、殺して!!お姉ぇえぇッ!!!!」

――でも、死ぬわけにはいかなかった。

「もうやめてぇえぇえぇえッ!!!圭ちゃんを殺さないでぇええぇえ!! 
 圭ちゃんは何の関係もないでしょ?!殺すなら早く私を…、私を殺してよ!!! 
 もう誰が死ぬのも…嫌ぁああぁあぁぁああああぁッ!!!!」

「簡単には殺さない」と投げ与えられた食物をありがとうございますと必死で食べた。
屈辱的な排泄にも、耐えた。
みんなの苦痛に比べたら、これくらいなんでもない。それに、

――このままじゃ、「魅音」が殺人犯になってしまう――



圭ちゃんは「魅音」を信じてくれた。
でもその「魅音」は私じゃないの――!

圭ちゃんが気絶し、私は「魅音」の服を着せられる。
そして、井戸の中と外。
――絶体絶命。
「魅音」は犯罪者として死に、被害者の「詩音」は生き続ける。
圭ちゃんの前で、生き続ける。
―――だったら。

これくらい、いいよね。
私がいけないって、思ってた。
私が「魅音」を奪ってしまったから、だからこんなに苦しめた、そう思ってた。
―――だけど。
沙都子や梨花ちゃん、婆っちゃや公由のおじいちゃん。
そして、「魅音」。
――さすがにやり過ぎだよ、お姉。

――だから。
必死に耐えてきた心を壊してしまうかもって、言わないでいたことを
今こそ口にしても―――いいよね。


私の命を懸けたこの勝負、どうなるか私にはわからないから。

レナ。
頼ってばかりでごめんね。苦しませてごめんね。
ずるい私はもういなくなるから。
最後までずるいお願いだけど、圭ちゃんを頼むよ。

圭ちゃん。
きっともう、会えない。
でもおじさん頑張るから、いつか気付いてもらえると嬉しい。
本当の「私」に、私の想いに。


――じゃあいくよ。
これが私の、最初で最後の、命を懸けた反撃――。

「……お姉、………この底にはね、…………悟史は、いないよ…。」



――部長はタダじゃ、負けないんだから。







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