未来のない男女(さきのないふたり)


綿流しの夜。富竹は囲まれていた部活メンバーに別れを告げ、鷹野の元へと駆け寄った。
「――やあ、お待たせ。」
「ふふ。ジロウさんったら、モテモテね?」
何度も振り返り手を振る富竹を見て、鷹野はからかうように笑う。
「ああ。…ほら、見てごらん。」
そう言うと富竹はシャツの裾を照れくさそうに――それでも誇らしげに引き出して、読みやすいようにピンと伸ばす。
鷹野はちょっと身を屈めて、シャツに書かれた文字を声に出して読み上げた。

「『今年こそメジャーデビューだね! 魅音』――あらあら、頑張らなくちゃね。
 『今度写真も見せてくださいね☆ レナ』そうね、撮るばかりじゃ失礼よ。
 『やーいビリ! 沙都子』やーい、ジロウさんのビリー。くすくす。
 『次回はがんばりましょう。 梨花』………次回、ね。
 『また遊びに来てください。 圭一』………………………。」
鷹野の笑みが、消えた――。
「―――私たちに、『また』なんてあるのかしらね。」

ザァ……っ。
風が吹き、木々を怪しくざわめかせてゆく。
「今夜は綿流し。禁忌を犯した私たちに、来年は――明日はあるのかしら。」
『共犯者』の富竹に、そう問いかける。
「――『祭具』はどれも素晴らしかったわ。手入れされていないのが勿体ないくらいよ。
 私に付き合わせて悪かったわねジロウさん。」
「僕は覚悟の上だよ。…きみと一緒だからね。」
罪悪感も恐怖も確かにある。けれどそれは偽りのない本当の気持ち――。
「ねえジロウさん。…私も書かせてもらっていいかしら?」
「――え?…あ、ああ。いいけど書くものは…、」
鷹野は「くす」と笑うと、ポケットから口紅を取り出した。
「薄い色だから多分洗ったら消えちゃうけど、後に何も残らない方がいいわよね。――色々と。」
鷹野の指示に従い背を向けた富竹のシャツをピンと伸ばして、
背中に文字が伝わらないよう素早く手を動かした。
「――おいおい、何を書いたんだい?恥ずかしいことじゃないだろうね…。」
「うふふ、大丈夫よ。…もし無事に雛見沢を出られたら…、後で見てちょうだいね。くすくす。」
ザァ……っ。
柔らかく笑う鷹野に合わせるように、夜風が彼女の髪をなびかせた。
月明かりにきらめく髪が彼女を縁取り包んでゆく。
その姿をどうにか残しておきたくて、富竹は何度も何度もシャッターを押した。
「生きて帰れたら、後でこの写真をきみに見せるよ。」
「――ええ。楽しみにしてるわ。」
「きみの寄せ書きも楽しみにしてるよ。」
ふたり笑顔で約束を交わす。

――自分たちがその写真を、寄せ書きを見ることはないだろうと感じながら――。








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