右手と左手。


「…圭ちゃんは、自分の右手と左手は仲が良いと思う?」
「え?右手と左手?
 …それは仲がいいとか悪いとか、そういう言い方で例えるものじゃないなぁ…。」
「そういう関係だから。仲が良いとか悪いとか、そういう尺度では測れない関係。」
……私はこれから、最後の罪を犯す。
改心したと見せかけた「魅音」が、友人を……自分を、殺す。
最期まで私を「魅音」だと信じて、深い絶望に包まれて死んでゆく彼…。
そんな彼と、腕を組んで他愛のない話をして歩いてる。とても滑稽だった。
「例えば利き腕というものがあるように、右手と左手には間違いなく優劣の違いがある。
 ……もしも鍋掴みが片方しかなかったら、迷うことなく利き腕にするでしょ?そういう差はあったんじゃないかと思う。」
……私は右手だった左手。大切にされていたのに、いきなり移植されてしまった手。
もちろん左右逆になったことで、左手だった右手にも不自由はあっただろうけど。
 「…………………………。」
圭一は、答えに困ってるようだ。
そりゃそうだよね、ちょっと変な喩えだったかもしれないね。わかって欲しいなんて思ってないよ、大丈夫。
私はそのまま話を続ける。
「だからと言って、左手がなくなったっていいなんて思う人は誰もいないはず。……そんな、よくわからない関係だね。」

「――でもさ魅音。」
「………………え?」
黙って聞いていた圭一がぽつりと呟く。
「確かに利き腕――この場合は右手だろうけど――は大切だ。
 でもさ、左手は心臓に直結してる大切な手だって聞いたことがあるぞ。結婚指輪とかって左手だろ?」
「………………っ、」
「そんな大切なものを身につけられるんだから、左手は左手で大切にされてるんじゃないかな…?」
――けい、ちゃん………っ。

きゅうっと、胸が痛む。
照れたように笑う圭一の顔に、悟史くんと詩音の顔が重なって、消えた――。
懐かしい、切ない想いに包まれて、すべてをなかったことにしてやり直したかった。
――でも、もう遅い。
約束を忘れた私が、罪を重ねてしまった私が、幸せになれるわけがない――。
ならばせめて、最期まで鬼でいさせて――!


「……じゃあそろそろいい?この拷問はね、とてもシンプル。
 左手の小指の先端の節に釘を打つ。順に親指まで打ったらまた小指に戻って、今度は真ん中の節に釘を打つ。
 …この調子で15本の釘で左手を打ちつける。それがおわったら次は右手。
 ……それが終わったら次は、…………まだ意識があったら教えるね。
 指先って、たくさんの神経が集まってるから、圭ちゃんが想像するよりもはるかに痛いよ。
 …両手30本を打ち終える前に、失神しちゃう人もいるそうだから…。」
釘を圭一の、左手の小指に当てる。……そこへ大金槌を叩きつければ、…始まる。終わる。
 
――左手の、指先。
結婚指輪を身につける、心臓に直結している大切な手……。


「…………他の人を拷問する時には何のためらいもなかったけど。……なぜかあんたにはためらいがあるよ――。」







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