ファミリー〜祟殺し編・沙都子救済計画〜茜編


珍しく訪ねてきた魅音が帰ったと思ったら、
今度は詩音がやって来た。

毎日毎日興宮のマンションと学校を往復するだけでウチには近寄ろうともしないのに。
――さて、どう出てくるかな。

「――母さん。……お願いします、私に力を貸してください…っ!」
いきなりの土下座。
「けじめが要るっていうんなら、何枚でも……ううん、足の爪まで全部剥ぐ。
 だからどうか、力を貸して――!」
「――爪20枚とは穏やかじゃないね。話してごらん?……ほら、顔をお上げな。」
すでに半泣きで、真っ赤な顔して。……泣き顔までそっくりなんだから。

詩音はなるべく感情を抑えた口調で、今までの自分のこと、一年前のこと、
そして今起こっていることを説明する。
「お願い母さん、沙都子を助けて…!私があの時約束を守っていたら、沙都子を守れたの。
 今沙都子があんなに苦しんでるのは、私のせいなの。だから……っ、」

―――詩音。あんたもいつでも「大切な人のため」なんだね。
自分自身のためじゃないんだね…。

「……こんな時だけ『園崎』に頼るのはずるいけど、もう時間がないの。
 このままじゃきっと、圭ちゃんじゃなく、私の手で――」
「――バカだねこの子は。」
「――――――へ?」
「クズをどうにかするのにこっちまでクズになってどうするの。
 まあ見てなさい、平和的に解決してあげるから。」
「………母さん………っ。ありがとう……ありがとおぉ……っ。」

耐え切れずにボロボロと泣き出した。
――まあ、落ち着くまでは泣かせておくか。

………………。

………………。

「お見苦しいところをお見せしました。
――お手を煩わせるのですから、覚悟は出来ております。」
ことん。
小刀とまな板を畳の上に置く。
「正式には園崎の地下室で行うべきなのでしょうが、なにぶん時間がありません。
 特例として、お許しください………っ、」
まな板の上に左手を乗せ、その小指の爪の間に刃を挟む。そして―――。

「お待ちな、詩音。」
「―――――――え?」
汗をだらだら流し、荒い息の詩音が私を見る。
中断したらせっかくの覚悟が鈍ってしまう、そう責めるような瞳で。
「あたしゃ爪なんか要らないよ、そのかわり……。」
ごくり。詩音の喉がなる。本当は怖いくせに、無理しちゃって……。
「一ヶ月。」
「――――――へ?」
「無事解決したら一ヶ月だけ、『隠れ家』じゃなくて、ちゃんとウチで暮らしなさい。
 ウチでご飯を食べて、「おはよう」と「おやすみ」を私たちに言いなさい。
 ――それが条件。詩音にはかなりキツいよ?覚悟なさいな。」
「母さん……、――――はい!」

何度も何度もお礼を言って、詩音は帰っていった。
「――まったく、本当にそっくりだよあんた達は…。」
爪ばっかり40枚ももらったって困るんだよ。

――あの男の話は魅音にも、葛西にも聞いていた。
「……そうだね、そろそろ手を打たないと、洒落にならなくなっちまうね…。」


「――ねえアンタ、前にリナとつるんでた鉄平ちゃんでしょ?」
「あぁ?」
夜の興宮を歩いていると、突然女の声。
律子とオレを知ってる――?
慌てて振り向くと、目の前にはどピンクの綿飴みたいな頭した頭の悪そうな女。
「アタシさー、リナと前に同じ店にいたんだよー。覚えてないのー?」
イカれた緑の星型のサングラスを外してオレに顔を近付けてきた。
――なんだ、結構別嬪じゃねえか。
「ねえ、リナとは別れたのー?いつの間にか辞めちゃうんだもんなあ。」
「………………まあ、な。」
………律子は死んだ。そう聞いた。ヤバいヤマに手を出して、制裁を受けたらしい――。
「――ね、鉄平ちゃんさぁ、アタシと組まない?
 ヤバい橋さえ渡らなかったら、いい小遣い稼ぎにはなると思うよ。」
……いい加減、沙都子との暮らしも面倒になってきたところだ。
あの家に隠し財産なんてあるはずねえのに、いつまでもあんな村にいるなんて冗談じゃない。
オレがあそこにいるのは、ただ、独りになるのが怖かったからだ。
律子の相棒だったということで、どんな因縁つけられるかわからない。
オヤシロさまの祟りなんかより、今のオレには独りが、怖い――。
「ねえ、聞いてんのぉ?」
ちろり。
女を上から下まで嘗めまわすように見定める。
変な髪形。変なサングラス。真っ赤なコートがなんとも悪趣味。だが――。
身体つきは悪くなさそうだ。むしろ律子よりいい女っぽい。
まあ、美人局くらいなら務まりそうかな…。
「ん?……ああ、アタシがそんなタマかどうかわかんなきゃ組めないよね。
 ――いいよ。アタシらパートナーになるんだし、……試してみなよ。」
その華奢な手でオレの手を取り、近くの店まで案内する。
ガチャリ。
持っていたカギで店に入る。
「――さ、どうぞ。アタシここの雇われママなんだ。
 まだ店の子は来ないし、カギはアタシしか持ってないから大丈夫。」
内側からカギをかけ、誰も邪魔が入らないようにする。
歩きながら店の照明を点けてゆく。
なにやらいかがわしい店内の一番奥、ぶ厚いカーテンで仕切られた秘め事ルーム。
「………ほう。」
こういったことには慣れっこってわけか。……こりゃああいい拾い物かもな…。
ひょい。
女が先に入り、カーテンの中から顔を出して言う。
「えへへー。いいモン見せてあげるよ、鉄平ちゃん。」
にょき。
女のすらりとした、それでいて肉付きのいい素足がカーテンから生えてきた。
うぉっ……。
なんだなんだおい、すげえいい女じゃねえか!
しゅっ。
オレの手が触れる前に、その足はカーテンの中に消え、そして…。
「鉄平ちゃん。………おいで。」
よおっっしゃあぁあぁあぁぁぁあああああっっ!!!
カーテンに手をかけ、一気に開く。
――と、そこには―――――。


「いらっしゃいませ。」
サングラスに黒服の、いかつい男。
………………こ、こいつは………………っ!!
「私が誰だかは、―――名乗る必要はないようですな。」

か……っ、かかかかかかかか葛西………っ!!
なんでこんな男がこんなところに……っ。
「鉄平ちゃん、ウチの子と顔見知りだったんだー。」
女がソファーに横たわりながらケタケタと笑う。
「――ま、とにかくそこにかけて下さい。」
「――――――は、はぁ………。」
逃げ出したい。だがここで逃げてももう同じだ。
こいつに一度睨まれたらこの界隈じゃ生きていけない……!
葛西は情けないほど震えるオレを尻目にため息をつく。
「……ちょっと羽目を外しすぎじゃありませんか、姐さん……。」
「あっはっはっ!いーじゃないのたまにはー。」
姐さんと呼ばれたその女が派手なカツラとコートを脱ぎ捨てる。
………………っ!!

あの園崎組の、かなり腕がたつと評判の、美貌の姐御――。

「やれやれ、カツラは暑いねぇ!葛西、一杯頼むよ。」
「――はい。」
葛西が傍のカウンターで酒を作る。
氷のカラカラ…という音が、オレを追い立てているようでたまらない…。
「――どうだい、美人局される側の立場がわかったかい?」
びくん。
どうしようもなく身体が震えてしまう。
畜生。畜生。止まれ、オレの震え!
ぴと。
姐御の手がオレの手に触れる。咄嗟に離そうとする手をしっかり握ってきた。
「怖がんなくていいよ。あたしも葛西も、組の者も、何もしやしないさ。」
ぽん。
もう片方の手でオレの背中を軽く叩く。
――震えが、止まった――。

「どうだい鉄平ちゃん。あたしと組まないかい?
 ――美人局なんかさせやしないよ、この店で働いてみないかってこと。」
「………………へ?」
「ここの上は従業員用のアパートになってるから、そこで暮らせばいい。
 たんまりとは言えないが、給料だって出る。
 この界隈にいる限り、鉄平ちゃんの身の安全は保障できるよ。……どうだい?」

――それは、慈悲なのか脅迫なのか。いやきっと両方だろう。
ここで拒めば、オレの居場所は雛見沢にすらなくなってしまう。
オレの、命すら。
この案を受け入れれば、オレはきっと心安らかに過ごせる。独りじゃなくなる。
……悩む必要は、もとよりなかった。



カラン、カラーン…。
「すいやせん、まだ開店前で、……姐さん!」
「社長とお呼びっ。――どうだい、その後上手くやってるかい?」
「あ、はい社長!おかげさんでどうにかやってまさぁ!」
あれから3ヶ月。姐……もとい、社長の訪問に、さっそく一杯作り始める。
意外と向いていたのか、この仕事は結構楽しい。
――なにより、オレは独りじゃないと実感できるから。
(ちなみに、いかがわしげだった内装は清潔な雰囲気に改装された。
 ……秘め事ルームだと思っていたのは従業員用の仮眠室だった…情けねえ。)

「今日はね、鉄平ちゃんに差し入れがあるんだよ。――入っといで!」
カラカラン…。
「――お、叔父様……お久しぶりでございます……わ。」
ぎこちなく、おずおずと入ってくる、店に不釣合いな小さな少女。
「沙都子……っ、」
「――は、はいっ、ごめんなさい……ごめんなさいぃ……っ。」
思わず荒げたオレの声に怯え、がくがくと震えだす――。

「――――――――っ!!」

何も、考えず。

「沙都子………っ!」

ただ、あの時のように。

「―――お、叔父様……っ!?」

あの時の、社長のように。

「ごめんな……オレが、悪かった。だから……、」

ぴと。
沙都子の手に、そっと触れる。咄嗟に離そうとする手をしっかり握ってやる。
「怖がんなくていい。オレはもう、何もしやしないから――。」
ぽん。
もう片方の手で沙都子の背中を軽く叩く。
――震えが、止まった――。

「沙都子ちゃん。鉄平もね、ずっと独りで震えてたの。沙都子ちゃんみたいにね。
 でももう大丈夫。もう沙都子ちゃんを怖がらせたりしないから。」
「茜さん……。」
まだ怯えの残る表情で、それでもオレと社長を交互に見つめて。

「――叔父様、お休みになったら雛見沢のあの家にも遊びに来てくださいませ。
 綺麗に片付けて、料理を用意してお待ちしておりますわ。」

ぎこちない笑顔で、それでも沙都子は笑ってくれた――。
この瞬間、オレは初めて本当に独りじゃなくなった…。

「――ああ。必ず行く。………姐さん、ありがとう………っ、」


「―――社長、だろ?」








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