ファミリー〜祟殺し編・沙都子救済計画〜梨花編


鉄平が、帰ってきた。
そして沙都子が、学校に来なくなった。

――また、コレか…。
いい加減うんざりだ。
沙都子が苦しむのも、みんなが哀しむのも、もう嫌だ。

「……私たちが…………無力だから………!!」
何度も聞いたあの言葉を、また聞く日が来てしまうだろう。
無力な、自分。
抗うことも出来ず、運命に弄ばれる私たち。
私に出来ることは、何でもないような顔をして最後の日を迎えるだけ――。

投げやりになっていた私の脳裏に、
沙都子と圭一と過ごしたあの日の光景が浮かんで、消えた――。

「………………。」
駄目で元々。それでもまあ、いいか……。
今回くらい、抵抗してみても悪くない。
ワタ流しされるより酷い目にはそう遭わないだろう――。



沙都子を買出しに行かせて酒をちびりちびり。
これがオレ様北条鉄平の至上のひと時。
麻雀も悪くはないが、気を許せる仲間なんていない。
酒の力を借りて、雛見沢を離れていた頃の思い出に浸るのがささやかな楽しみだ。

ピンポーン。
――無粋なインターホンの音。
どうせ勧誘だろう。沙都子だったら勝手に入ってくるだろうしな…。

ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
しつこいな……。

ピンポーン。ピンポーン。ピポピポピポーン。
なんだおらぁ!?
用があるなら入ってくりゃいいだろうがっ!!
………あ。そういや都会にいた頃の癖で鍵をかけちまったんだ…。

ピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポーン。
――やかましいっ!!
「おう、沙都子かぁ!?何度も鳴らすなっていつも言ってんだろが!?」

どすどすと玄関へ行き、鍵を開けると。
『…ごめんなさいっ、眠ってるかと思ったのです…っ。』
ビクビクと小動物のように怯える沙都子の姿はなく、代わりに――。

「ごめんくださいなのです。」
長い髪の、幼い少女。
「……ンだ?沙都子のダチかぁ!?あいつは今買出しで留守にして……って、おいっ!」
「お邪魔しますですよ。」
ぺたぺたぺたぺた。
サンダルを脱ぎ、図々しくあがり込んできた。
……冗談じゃない!その肩を慌ててつかんで止める。
「おいコラ、勝手に………っ、」
「いちいちうるさいな、とって食べたりしないわよ。」

――ぱ。
なぜか本能的に手を離してしまう。
――な、なんだ、このガキ……。
数多くの修羅場をくぐってきたこのオレが、ビビってんのか……?
「――ボクは鉄平とお話をしに来たのですよ。ちょっとだけお邪魔するのです。」
にぱ〜☆
愛らしい笑顔で言われると、さっきの言葉が気のせいのように思えるが、
「――悪いようにはしないから、平和的に行きましょ。
 私は子どもで、力じゃ勝てないもの。………ね?」
「―――あ、ああ……。」
………やっぱり、気のせいなんかじゃねえ……。

とぷとぷとぷ……。
冷蔵庫から麦茶を出し、目の前でコップに注いでやる。
まるで「毒なんて入れていませんよ」と示すかのように。
……こんな小さなガキに、なにやってんだオレ?
「――泡麦茶がよかったのですが……まあ仕方ないか。」
――――?なにやら不満げだ。
それでもよく冷えた麦茶は、この暑い中外を歩いてきた小さな身体には
心地よかったのだろう、ごくごくと一気に飲み干してしまった。
「ぷはー、なのです。」
こっこっこっこっこっ……。
もう一杯注いでやると、少女はそれには手をつけずに唐突に切り出した。
「リナは残念だったのです。」
――――――っ!?
「いたいいたい拷問を受けて、ワタを流されて*んだのです。」
制裁を受けたと聞いてはいたが、そこまでは知らされていなかった。
少女が事も無げに説明する「いたいいたい」拷問の詳細に、気分が悪くなってきた。
「な、………んでおめーがそれを知っ」
「鉄平は怖がりさんなのです。何も心配することはないのですよ。」
天使のような笑顔から、口元をゆがめたあの嫌な笑顔を浮かべ。
「――そうでしょう?“ここの”あなたはそんなにヤバい橋は渡っていない。
 こうして生きているんだから怖がる必要はないのに。――鉄平の怖がり。くすくす。」
バカにした口調ではあったが、不思議と腹は立たない。得体の知れない怖さがあるだけだ。
「………しょ、………んしょっ。」
………………?
テーブルの向かい側から必死に手を伸ばして、オレの頭に手をやろうとしている。
――その姿に少しだけ怖さを忘れ、届きやすいように頭を下げてやる。
ぽん。
小さな、それでも暖かい手が、オレの頭をなでる。
ガキの頃を思い出して、なんだかくすぐったくなった。
「――本当はね。リナもいたいいたい*を迎えずに済んでたかもしれない。
 ひょっとしたら鉄平が代わりにいたいいたい*を迎えてたかもしれない。
 鉄平の中の『いい子』が、その道を避けたの。でもね―――?」
パンチパーマのふかふかとした感触を楽しみながら、淡々と呟く。
「このままでいると、鉄平は別のいたいいたい*を迎えてしまうのですよ。
 ――それも、もうすぐ。」
―――な、……んだって……?
「――んで、オレが……っ、」
「わかってるくせに。沙都子をいっぱい苛めてるのです。
 鉄平の中の『悪い子』がもっと悪いことをしてしまうのももうすぐなのです。
 ――今ならまだ、間に合うから。」
「おめー、………何者だ……?」
頭からそっと手を離す。やけに大人びた表情で、オレを見ながら、
オレの中の“何か”を見つめながら。

「――ボクは梨花。古手梨花。それ以外の何者でもないのですよ。」
「『古手』……?じゃあ、おめーが、あの、梨花ちゃま……っ!?」
オヤシロさまの生まれ変わりと村の老人たちに崇められてる、あの……!?
「――ボクの言うことを信じるも信じないも鉄平の自由。
 ボクに出来ることは、これだけ。後は鉄平しだい。
 ボクはそれに身を任せるだけなのですよ。」
それだけ言うと、麦茶の入ったコップを手に取り、一気に流し込む。
「……それでは、お邪魔しましたのですよ。――麦茶、美味しかったのです。」
少女は再び天使の笑顔に戻ると、呆然とするオレを残して、礼儀正しく帰っていった――。


「鉄平が変わった」
村中はその話題で持ちきりだった。
相変わらずの強面だが、それでもぎこちない笑顔を必死に作って話しかけてくる姿は
なかなかに可愛いと村の老婦人たちには密かに好評のようだ。
さすがに沙都子とは打ち解けられるまで時間がかかったようだが、
最近では照れくさそうに手をつないで一緒に歩く姿も見られるようになった。


「叔父様ー。ご機嫌はいかがでございますの?」
「鉄平、遊びに来たのですよ。」
「おう、沙都子っ、梨花ちゃま!今日はオレの初の給料日なんだ!
 ご馳走用意するからウチで食べてきな!」
「叔父様もずいぶん料理の腕を上げたようですわねー。
 …これなら再婚できる日も近いですわよ☆
 私も少しばかり料理を作ってまいりましたのよ。
 用意しますからお座りになってくださいませ。」
沙都子が嬉しそうに台所へ消える。
「――梨花ちゃま。」
あの時のように、テーブルを挟んで向かい合う。
もちろん今は少女に対する恐怖心などはない。
「梨花ちゃまの言葉のおかげでこうして仕事に就くことも出来た。
 沙都子ともやり直せた。本当に、ありがとう。」
床に手をつき、頭を下げる。
これくらいじゃ侘びにもなりゃしないが、なにもしないよりは、ずっといい。
「――ボクには何のことだかわからないのです☆」
にぱ〜☆
そう言いながら、本当に嬉しそうに笑う。
――まるで、オレを救ったことで自分も救われたかのように。
「――梨花ちゃま。今のうちに泡麦茶……呑むか?」
「にぱ〜☆」
「叔父様っ、梨花っ!ビールは駄目ですわよっ!!まったくもぉ……。」
「わ、悪ぃっ!!」
「みぃ〜〜!!」
ひょっこり顔を出した沙都子にビール瓶を取り上げられた。…かなわねーなぁ…。
「ごめんな、梨花ちゃま。」
こっこっこっ……。
代わりにあの時と同じ、泡のない麦茶を注いでやる。

「――沙都子の、恩知らず……。」
コップに向かった小さい呟きごと、麦茶をごくごくと一気に飲み干した。
「ぷはー、なのです。」







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