ファミリー〜祟殺し編・沙都子救済作戦〜入江編


入江編 〜もうひとつの可能性〜

 大石編のベースはそのままで役者を変更という
 『ひぐらし』世界観そのものともいえる大胆な試みの結果、
 虐待の理由まで変わってしまった恐るべきシナリオです。
 大石編の【決行】まで読んでからご覧ください。


【やさしい追放】

「………う、………。――――っ!?」
寒気を感じて、鉄平は意識を取り戻した。
あたりはすでに暗くなり、冷えた空気が漂う、雛見沢の、路上――。
「―――ここは……?なんでこんな路上で、オレは……」
身体中が鈍く痛む。その痛みに導かれるように、ぼんやりとした思考がクリアになってゆく。
「――――!!沙都子め……っ!!」
「――大丈夫ですか?こんなところで寝てしまっては風邪を引きますよ。」
線の細い長髪の男――入江が目の前に立っていた。
「――あんたは入江…っ、な、なんでこんなところにっ」
「あなたはお酒を飲んではしゃぎすぎて酔い潰れていたんですよ。
――いくら「送別会」だからって、前後不覚になるほど飲まれるのはどうかと思いますよ。」
「送別会――?……なんだよ、それ……」
「園崎の遠縁の居酒屋で、住み込みで働かれると聞いてますよ。
沙都子さんの叔父さんのためならって、詩音さんと魅音さんがわざわざかけあって
紹介してくださったのに、覚えてらっしゃらないんですか?」
「―――んだって?そんな話、オレは……っ、」
「――ええ、そうです。お世話になってる叔父様を驚かせようという
粋な計らいだったのですよ。――この恩に報いるためにも、お仕事頑張ってくださいね。」
「――ちょっ、待てよ、オレはなぁっ……、」
「――あなたはもうここにいてはいけないということですよ。
――ああ、心配は無用です。沙都子さんには私や雛見沢の住人がついてますから。
あなたの荷物も…ほら、きちんとまとめてありますよ。」
「オレの荷物、だと?………っ!!」
いつの間にか、足元に大きなトランクが置かれていた。
慌てて開けてみると、鉄平の衣服や私物がすべて詰め込まれていた。
知らぬうちに住み込みで働くことになっていた園崎の遠縁の店の連絡先のメモまでも。
「――な、なんだよ…っ、オレはここにいちゃいけないってのか…っ!?
あんたは……、そうか、あんたもあの時、校庭にいたんだよな。
間抜けな罠にかかった俺を冷たい目で見てやがったよなあ!?」
「………………。」
入江は何も言わず、オレを見る。責めるように、哀れむように。
「――あんただけはオレの味方だと思ってたのによ…あんたまでオレを裏切るのか」
「――それはこちらの台詞ですよ。…あなたの強引さやガサツさは正直困りものでしたが、
決して不快ではありませんでした。――沙都子さんに危害さえ加えなければね。」
「――………。」
「あなたは沙都子さんを――『雛見沢の子』を傷つけた。それは私たちを傷つけたも同然です。
あれだけで済んだのは軽い方だと思いますよ。あなたも雛見沢の住人ならおわかりでしょう?」
「――……っ。」
――そうだ、雛見沢の結びつきの強さは痛いほど知っている。
ダムの一件で北条家を追い込んで、俺の居場所をなくしやがった。
……そういえば、こんなことをあの警察の男が言っていた……。
『ここで殺人事件が起こっても、村中が結託して犯人をかばうでしょう。
アリバイを作りあい、あらゆる手段で住人を守る。……やっかいな土地ですよ。』
それじゃあ、それじゃ、オレも―――っ。
「――私はね、あなたと多少なりとも交流があった。
だからせめてあなたを優しく送り出して差し上げたい。私の寝覚めも悪いですし、ね。」
「―――――――っ!」
言葉の意味を理解したのだろう。鉄平の顔色が悪くなってきた。
「まだお酒が抜けてないようですね。…ウチのスタッフに送らせましょう。」
近くに止めてあったワゴンに鉄平を連れて行き、スタッフに行き先を告げてドアを閉めた。
最後まで黙ったままの鉄平を乗せた車が、遠ざかる――。

【そしてまた、圭一】

「――まあ、こんなとこでしょうか。」
「監督。………ありがとうございます。」
叔父と監督とのやり取りを見届けて、俺は物陰からひょっこり顔を出した。
「……いえいえ、前原くんの勇気に比べたら、私のしたことなど些細なものです。」
「あいつ――監督には態度が違ったな。」
「彼は彼で、この村で自分の居場所を見つけようとしていたようですね。
……方法は間違っていましたが。」
「――これで……よかったんだよな……。」
「――大丈夫ですよ。前原くんは一生懸命頑張りました。
もちろん、沙都子さんや他の皆さんも。
彼の様子は時々見に行ってみますからご安心くださいね。……それでは失礼します。
あなたもお疲れでしょうから、早く休んでくださいね。」
外見通りの細やかな気配りをみせ、監督は帰っていった。
………………。
強引に追い出してしまったが、これが「最悪の選択」以外で俺たちにできる最良の方法だった。
これ以上そばにいたら、沙都子は壊れてしまう。
そしてその前に俺自身、叔父に何をしでかすかわからなかった。
遠く離れたところで、堅実に暮らしてくれればそれでいい。
追いかけてまでどうこうしない。
そうすれば、お互い幸せでいられる。
――悟史がいれば、きっともっといい方法がとれたのだろう。無力な自分が情けなかったが、
これからも沙都子のたくさんのにーにーやねーねーの内の一人として、沙都子を守ってゆくよ。
だから早く帰って来いよ、悟史―――。


【叔父】

「すいませーん、まだ準備中で………、――あんたはっ!」
「――こんにちは。お仕事にはもう慣れましたか?」
あれから一ヶ月。居酒屋の開店前の準備に追われるオレの前に、ひょっこり入江が現れた。
「――裏切り者に用はない、帰ってくれ!」
入口前で、のれんや看板の準備を続ける。相手になんかするものか。
「――裏切られるのは辛いですよね。信じていたのに、信じたかったのに、
身を切られるような思いでしょうね。――あなたも同じことをしていたんですよ。」
「………同じって、なんだよっ…、」
「あなたは沙都子さんを裏切った。」
「…………!?」
「あなたが村人に冷たい目で見られるのは自業自得です。
ですが懸命に生きてきた沙都子さんにその鬱屈をぶつけるのは間違いです。
――雛見沢がかつて差別に苦しめられてきたのはご存知ですよね?
そんな中で生まれた生きる知恵は、忘れてしまいましたか?」
「それは……あれだろ、一人に石を投げられたら〜って、あの、」
「そうですね。理不尽な暴力には、それより大きな暴力で返す。哀しいことですが。
でもね、それだけじゃないんです。笑顔で接すれば笑顔が返ってきます。
優しく接すれば優しさが返ってきます。自分自身をうつす鏡のようなものなのです。
あなたは敵意を撒き散らしていましたから、だから自業自得なんですよ。」
「………………」
オレはあの村で、仲間と家にこもってた。
仲間ったって、麻雀相手なだけで信用なんかできない。
外には敵しかいない。他に居場所なんかない、仕方なく帰ってきた村だった。
敵ばかりの雛見沢で笑顔で暮らしていた「北条の娘」が癪だった。
――お前だけが幸せに笑うのは許せない。
「あなたはあんな小さな女の子を傷つけたのですよ。
けなげに生きてきた沙都子さんの笑顔をあんな風に変えてしまったのはあなたです。」
ああ、傷つけたさ。オレの手元に呼び戻して、こき使ってやった。
学校なんか行かせない。友達にも会わせない。オレが一人なんだから、当然だ。
殴ってやった。蹴ってやった。出された料理に文句をつけて、ひっくり返した。
あの生き生きとした笑顔が、死人のような乾いた笑顔になっていった。
しまいには表情がなくなった。――いい気味だった。
オレが苦しんでるのに、何も考えずにへらへら笑ってるこいつが悪いんだ――。
「――ですが沙都子さんは誰も頼らなかった。逃げなかった。
前原くんが勇気を出してみんなを説得しなければ、ずっとあのままだった。
――どうしてだと思いますか?」
「……………。」
「――悟史くんですよ。彼が叔母様と沙都子さんとの間で悩んで苦しんでいたのは
ご存知でしょう?
沙都子さんはね、悟史くんがいなくなったのは自分のせいだと思っていたんです。
彼が受けた苦しみ以上のものを受けなくては、強くならなければ悟史くんは帰ってこない。
理不尽な暴力に負けず、強くなったらきっと帰ってくると信じ、ずうっと耐えていたんですよ。
苦しんでるのはあなた一人じゃないんです。」
「……………っ。」
「――私はね、あの時あなたを合法的に「鬼隠し」に遭わせることもできたんです。
村人の中にはそれを望んでいた者もいたかもしれない。でもね―――。
沙都子さんの、今となってはたった一人の肉親であろうあなたまで
失わせるわけにはいかなかった。」
「―――――――っ!」
「沙都子さんの笑顔は、みんなを明るくします。
あなたがわだかまりを捨て、沙都子さんの笑顔を受け止めていたら。
ぎこちなくてもいい、精一杯の笑顔を返していたら。そうしたら――。」

……そうしたら、オレはあの村で、一人じゃなくなった?
まわりはすべて味方。寂しくも辛くもない。沙都子のように笑っていられた?
……雛見沢に帰ってきた日、遠くから見た沙都子の笑顔はまぶしかった。
つられて一緒に笑いそうになった。強く惹かれた。
オレもこんな風に笑いたかった。幸せに生きたかった。
憧れと嫉妬。愛しさと憎しみ。
オレにはないものをもつ沙都子が羨ましかった。悔しかった。
だからあいつの持っているものすべてを奪ってやろうと必死だった――。

―――何をやってたんだ、オレは!!―――

「………っ、ぐぅ………っ!」
畜生……バカだ、バカだよ、オレは……っ。
恥も外聞もなく、両手をついて泣くしかできなかった。
もっと早く気付いていれば、もっと違った関係をあの村で築けたのに―――。
「――雛見沢に、帰りますか?」
オレを見る目は、あの時と違って、穏やかで優しい。
――いや、彼はあの時もこんな……子どもの間違いを優しく諭すようなそんな目だった。
――じゃあ、あの時オレを見ていたたくさんの目も―――?
「――帰りたい……、……けどよ、帰れねえよ、いまさら…っ!
オレになにができる?…笑えばいいったって、できるわけないだろ……っ、」
入江の肩越しに都会の薄汚れた空を見上げ、あの澄んだ雛見沢の空を思う。
「―――もう、遅いんだ………。」
「そうですか……時間が必要みたいですね。」
入江は悪戯っぽく微笑むと、耳元で囁いた。
「……それでは、こんな手はいかがですか?」


【――そして、ファミリー】

――叔父が去って半年後。
すっかり以前のような生活に戻っていた沙都子宛てに、段ボール箱が届けられた。
住所は分校宛てだったので、みんなの前で開けてみると。
洋服や食料、本に文房具、生活雑貨やおもちゃまでもが、箱いっぱいに詰め込まれていた。
――無記名だったが、これがあの不器用な叔父なりの精一杯のお詫びなのだろうことは
俺たちには容易に分かった。
「――まあ、これはきっと私をどこかで見守ってくれている
見知らぬ「叔父様」からの贈り物ですわ!少女漫画みたいですわーー!!」
満面の笑みで、おどけたように言いきった。
「――おう、沙都子すごいなあ!足長か?紫のバラか?」
「いやー、景気のいいお金持ちもいるもんだねー!
おじさん、うらやましいわぁ!」
「沙都子も隅に置けないですねー!」
「沙都子ちゃんっ、すごいねっ、よかったねえ!」
「ボクにも「叔父様」を少し分けるのですよ。」

――そう、沙都子にはやさしい「叔父様」がいる。
俺たちはそんな「叔父様」と沙都子の関係をやさしく見守る。
―――――これでいい。
さすがにあわせる顔がないだろうから、叔父はここには戻らない。
だけど――――。

沙都子は「叔父様」から贈られたワンピースを着て、
誇らしげに村中を歩き回った。
一緒に雛見沢を散歩するように、笑いながら、歩いた。
沙都子の右側に叔父。左側には悟史。三人仲良く雛見沢を歩く。

たとえ会えなくても、離れて暮らしていても、血が繋がっていなくても、
俺たちは、みんな、ファミリー…―――。







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