「とくべつなひ。」


「圭ちゃん、今日は何の日かもちろん知ってるよねぇ?」
放課後の教室に響き渡る魅音の声。今日も絶好調のようだ。
「おう、泣く子も黙るバレンタインデーだぜっ!」
俺も負けじと声を張り上げる。
「威勢がいいねえ圭ちゃん。……そう、今日は特別な日だからねえ。
 みんなが来る前に、圭ちゃんに1ゲームサービスしようじゃないの。
 サービスになるかは圭ちゃん次第だけどね。くっくっく……これだあっっ!!」
魅音が俺の目の前に広げた4枚のカード。
新品のトランプで、どのカードにも傷や印などの特徴がない。
「おじさんからとびきり美味しい手作りチョコと罰ゲームのプレゼントだよ。
 ハートをひいたらチョコレート。それ以外は……覚悟はできてるよね圭ちゃん?」
罰ゲームの内容に思いを馳せているのかにまにまと笑いながら
カードを扇のように扇いでみせる。
「……こら、動かすなっ!今どれにしようか考えてるんだから……うーーーむ……。」
「おじさんものすごく気合入れて作ったんだよぉ?味わって欲しいなあ、チョコも罰ゲームも。」
料理上手で凝り性な魅音のことだ。
きっと舌がとろけるほど美味しくて見た目も綺麗なチョコだろう。
しかし、残り4分の3はおそらく魅音が思いつく限りの過酷な罰ゲーム。
そりゃ罰ゲームでもそれなりに楽しいに決まってる。
だがやはり魅音のチョコは味わいたい。ルールは厳守。外れたらチョコはもらえないんだ。
……慎重に、後悔しないように選ばなくては……。
「…………よし、これだああああああっっ!!」
しばしの長考の後。
俺は覚悟を決めて、4分の1の確立に賭けて、魅音の手の中のカードを思い切り引き抜いた!
「く……っ。――お、ハートだ!ハートだぞ魅音っ!」
恐る恐るまぶたを開くと、飛び込んできたのは花びらのような真っ赤なハート。……やったぜ!
「おお〜、悪運が強いね圭ちゃんっ。……仕方ない、罰ゲームはまた後でじっくりたっぷり
 味わってもらうとしますか。」
残り3枚のカードを机に伏せ、カバンから取り出した小さな箱を手渡してくれた。
「今開けてもいいか?」
「だ〜め!家に帰ってこっそり味わってね。……実はね、これお酒入りなんだ。
 ウイスキーボンボンとは違って日本酒なんだけど、結構イケるんだなこれが☆」
誰もいないはずなのに、それでもひそひそ声でこっそり打ち明けてきた。
それじゃ確かに校内じゃ食べられないな。
「越後屋、そちも悪よのう」
「くっくっく……じっくり味わってね。……あ、みんなも来たね。」
俺がチョコをカバンにしまったいいタイミングで、みんなが集まってきた。
「あら、今日の部活はトランプでございますですの?」
「み〜、2人で先に始めるなんでずるいのですよ☆」
「今日はみんなにチョコを作ってきたんだよ……だよっ。みんなで食べようね☆」
「お、レナのチョコか!こりゃ楽しみだな!」
「それじゃあ部活はみんなで食べてからにしようか。みんなチョコが気になって部活どころじゃ
なくなっちゃうからね。」
「あはは、じゃあ今用意するね☆……あれ?」
「わああっ!!」
レナがくっつけようと動かした机から、さっきのトランプがぱさりと落ちた。
まるで花びらのように、真っ赤なハートが3枚。
「おっと、……あれ?これって……」
すっとんきょうな声をあげた魅音の顔も真っ赤。
「………………あ。」
きっと俺の顔も真っ赤だろう。
「どっ……どどどどうなさいましたのお2人ともっ!?」
「みー。沙都子はまだわからなくて良いのですよ☆」
「はぅ〜、真っ赤な魅ぃちゃん、かぁいいんだよぉ〜☆
 ……ほら用意ができたよ。圭一くんも魅ぃちゃんも、一緒に食べよう?」
「……う、うん!ほら、圭ちゃんっ。」
「お、おう!食べたら部活だぞ?今日はみんなに罰ゲームさせるから覚悟しろよ?」

――きっと今日は、俺は誰より絶好調だ。







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