1分間の永遠。


「レナの勝ちだよ………だよっ☆」
「え――――――っ!?」
「あちゃ―――――……っ。」
放課後恒例、楽しい部活。今日は魅音も初めてだという新しいカードゲーム。
ルールを把握するのが難しくテストプレイに時間がかかってしまったせいで、
教室にはもう俺たちしかいない。
「魅ぃちゃんと圭一くんは罰ゲームだよっ。」
嬉しそうにレナが笑う。
あのカードに可愛い動物さえ描いてなかったらなあ…と魅音がつぶやく。
……ああそうだな、あの技の切れっぷりったらなかったよなぁ。
沙都子と梨花ちゃんは要領よく、早々に低い点であがってしまった。
敵わないと知って戦線離脱とは卑怯なりっ!俺たちは正々堂々といくぜっ!
………………しかし、やはりかぁいい状態のレナに勝てる訳もなく。
「圭一さん、魅音さんっ、頑張ってくださいませね〜!」
「骨は拾ってさしあげるのですよ。」
「う―………。わかった。おじさんも女だ、潔く受けるよ。」
「なるべく早く済むやつにしてくれよ。もう結構な時間だし、な。」
こっちに越してから結構経つとはいえ、雛見沢の夕闇にはまだ慣れない。
都会の闇とはまた違う、吸い込まれそうなほどの、深い闇―――。
「んー、じゃあねぇ…。短くて済むけどちょっとハードな罰ゲームでいくよ?」
ルーズリーフから未使用のページを外し、目の前でひらひらさせながらさらりと一言。

「じゃあね。――この紙越しにキスしてね。」

「「ええええぇえぇえぇぇええええぇぇぇぇえぇぇええええええっっ!?」」

「1分間。………それだけでいいよ。」
「「………………っ。」」
ちらり。お互いの顔を見る。
「――ま、まあ紙越しだしな。」
「――そ、そうだねっ、これくらいなら軽いモンだよねっ!」
……しかし身体は動かない。
「魅音……おめーはイヤじゃないか?」
「圭ちゃんは、イヤなの………?」
「「イヤじゃないよっっ!!」」
「「―――あ。」」
ふたり、きれいにハモってしまった。
「……それじゃ決まりだねっ♪始めて始めてー☆」
「ちゃんと1分ですわよっ!」
「ボクがしっかり計ってるのですよ。」
………くそ、人の気も知らないで……っ。
「――じゃ、じゃあ、さっさと済ますかっ!」
「――そ、そうだねっ、早く済ませて楽になろ圭ちゃんっ!」
レナが紙を縦に持って立つ。あの紙越しに、キスを、するんだな……。
「恥ずかしいだろうから、目をつぶって近付いてね。」
「息は鼻でするんですのよー。」
「お互い抱き合って離れちゃダメなのですよ。離れたら1分追加なのですよ。」
「ワザと離れて延長なんて不潔なことは考えない方がいいですわよ圭一さん?」
「――するかっ!!」
あーーまったく、恥ずかしいったらないぞ……。
魅音のためにも、とっとと済ませてやらないとな………。
おずおずと抱き合って、紙越しに近付きながら瞳を閉じる。
そして―――。
「………………っ。」
「………………んっ。」
暖かく、しっとりとした唇の感触。
抱き合った身体から、合わせた唇から熱が伝わる。
「「………………っ。」」
「「〜〜〜〜〜〜〜っ。」」
――ぐ、く、苦しい……っ。魅音も俺も、身体が震えてきた。
キスってこんなに苦しいものだったのか?意識が遠くなるものなのかっ?
「――圭一さんっ、魅音さんっ!ですから呼吸は鼻でするんですのよっ!!」
「「―――!!………………っ。」」
年下の沙都子の指摘に動揺しながらも、慌ててその通りにする。
互いの荒い、熱をおびた息が顔に当たって、ドキドキしてしまう――。
『――え?……あれ?……え?ちょっと待って、なんで直接息がかかるの?』
『――おいおい、ちょっと待てよ…?なんで紙の感触がしないんだ?』
『『――ま、まさか……っっ!!』』
同時に目を開けた俺たちの間には、何も遮るものがなかった。

「「………………っっ!!」」
紙は………レナはっ!?
目を必死に動かして辺りを見回すと、紙を手にした笑顔のレナが、
沙都子や梨花ちゃんと一緒に立っていた。
「目ぇ開けたらダメだよふたりとも。」
「真面目にやってくださいませっ!」
「まだ40秒あるのですよ。」
みんなから目をそらして魅音を見る。
魅音は目を見開いたまま、固まって動かない。
――いくら罰ゲームだからって、こりゃやりすぎなんじゃないのか?

アソビデヤッテイイコトトワルイコトガアルンジャナイカ?

――俺はいいよ、男だし。――魅音だしな。
――けどよ、魅音は女だ。――しかも俺だぞ?
こんな形で、きっとおそらく初めてのキスを、
俺相手に経験してしまうのはあんまりだ――!

魅音をぎゅっと抱き締め、びくんと震える身体を支えてやる。
そして合わさっていただけの唇を、より深く、強く、重ねた――。
「んぅっ!?んん……っ、………んっ、んふぅ……っ。」
突然の行為に驚くしかできない魅音に、俺はさらに強く口付ける。
背中を抱いていた手は髪を撫で、反対の手を首に巻きつけ、
「罰ゲーム」なんかじゃない、「想いをこめた」キスをする。


俺は魅音が――**だ。
魅音は俺を――**じゃないかもしれないが、これは俺の本気のキスだ。
軽々しい罰ゲームなんかじゃない。
魅音の初めてのキスは、お前を想う男からの、気持ちのこもったキスなんだ。

硬直していた身体が、溶けてゆく。
そして俺の背中に回されたままだった手はすがりつくように俺に絡み、
俺に応えて唇を押し付けてくる。
みおん………っ。
――――。
いじらしかった。愛しかった。――嬉しかった。
俺が想うように、魅音も俺を想ってくれていたこと。
彼女の「女らしさ」を、こうして抱き締めてやっと理解できたこと。

――いつの間にか目を閉じていた俺の耳に、かすかに聞こえた。
そっと俺たちから離れ、少しずつ小さくなる足音。
音を立てないように閉まる教室のドア。
さらに強く、深く触れ合う俺たち。

――もうとっくに、1分間は過ぎている――


『――ほんのちょっぴりのいじわるだったのですよ。
 レナも沙都子もそしてボクも、圭一が大好きなのです。だからどうか勘弁するのですよ。』

『――わ、わたくしは……っ。…圭一さんと魅音さんがじれったくて
 見ていられなかったのですわっ!ですからレナさんに同調したんですのよ…。
 「にーにー」には、幸せになって欲しかったんですの…。』

ぽか☆
「ひゃんっ☆」
――翌朝、俺を迎えに来たレナの頭を、家の外で軽く小突いた。
「……酷いよ圭一くん。」
「酷いのはおめーらだろ?…俺はともかく、魅音が傷つくと思わなかったのか?」
「はぅ…。ご、ごめんなさい…っ。」
強く叩いてはいないが、俺の言葉でそれを理解したのか、半泣きで頭を押さえる。
「――俺はいいから、魅音にはちゃんと謝れよ。」
「うん…。――でもね圭一くん、」
「ん?」

「レナはね、好きあってる人たちにしかこんなことしないよ?」







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