Thanks。


退屈な授業も終わり、待ちに待った楽しい放課後のはじまり。
「――圭ちゃん、今日は部活参加するんでしょ?」
「ああ、もちろん!今日は負けないぜ。」
「ふふ。――さあて、どうかなあ?くっくっ!」
最近はバイトとかで圭ちゃん不参加だったもんねぇ。
やっぱり圭ちゃんがいなきゃ面白くないよ。
……も、もちろん罰ゲーム要員がいないと盛り上がらないってイミだけどねっ!
いそいそと机をセッティングして、ロッカーからゲームを選別。
うーん、どれにしよーかなあ。………あ、これこれ!これにしよっと!
「さー、始めるよぉ!覚悟はできてるかな?」
「――あ、魅ぃちゃん。ちょっと待っててくれるかな?……かな?」
「……どうしたのでございますの?」
「レナは知恵に呼ばれているのですよ。」
「………あ、そうなんだ……」意欲がちょっとしぼむ。
「ごめんね、時間かかりそうなんだ。」
「今日のゲームはみんながそろわないと始まらないからね。――レナが来るまで待ってるよ。」
「――あ、じゃあよかったらコレ食べてて。ウチで焼いてきたクッキーだよ。」
「――お、うまそー!」
「じゃあボクは沙都子とお茶入れてくるですよ。………沙都子」
「わかってますわよ。梨花が上手にお茶を入れるところを見届けて差し上げますわー!」
「なんか、かえって悪いねー。レナの分はちゃんと取っておくからね。」
「ありがとう。……じゃ、行ってくるね!」

………………。
放課後の教室、圭ちゃんと二人きり…。
「――あ、あの子らがいないと、なーんか急に静かだねぇ!おじさん落ち着かないわぁ!」
「んじゃ、クッキーを皿に開けて用意してよーぜ。」
「…そ、そうだね!紙皿しかないけど、いーよね…!」
よかった、これで変に意識しないですむわー…。
なるべくゆっくり動いて気恥ずかしい時間を上手く乗り越えよう。

「――魅音、ってさ。」
「―――え、え?」
「ガサツで豪快にふるまってるけどさ」
………う、改めて言われなくたってわかってるよぉっ。
「ちょっとした仕草とか女らしいよな。」
「―――な、なっ!なーに言ってんの圭ちゃんってばっ!!変な冗談やめてよねー!
レナじゃないんだから、おだてたって何にも出ないよ――」
「――ほら、そーやって赤くなって困った様な顔してさ。」
圭ちゃんの指が、私の前髪を指でもてあそびながら。
「いつもさ、見てたんだ。」
―――――っ!!
「……やだもう、圭ちゃんったら…!」
「――なんかさ、やけに可愛いなあって…」
わあぁあぁあぁあぁあぁあああっ!!
も、もうダメっ、もう限界〜〜〜っ!!
ガララッ!
「お待たせー!ずいぶん待ったかな?……かな?」
「うわあっ!!………ああ、おかえり、レナ…っ」
「魅ぃちゃん、顔真っ赤だよー?」
「圭一さん、魅音さんに何かしたんですのっ!?」
「――ツボをついたのですよ。」
「別に何もしてないぞ?」
圭ちゃんは真顔でしれっと答える。――さすがに部活で揉まれてないな…鍛えすぎたかな?

「……あ、きれいに盛り付けてくれたんだね☆」
「ますます美味しそうですわ〜。」
「――おいひいのれふよ。」
「おいおい、口いっぱい入れすぎだぞ、梨花ちゃん。」
「梨花ったらずるいでございますわ〜!」
「リスの頬袋みたいで可愛いよ〜〜おもおもおもおもちかえ……」
「レナ、待ったっ!――ほら、お茶も入れてきてもらったんだし、みんなで食べよ!」
「「「「おーーーーーーーーっ!!」」」」
―――ふう、どーにかごまかせたかな…。

結局、今日のゲームは私のボロ負け。
勝者の圭ちゃんはニヤニヤしてる。
………謀られた?
「さあてと、今日の罰ゲームは勝者の言うことを何でも聞いてもらえるんだよな?」
まあ、もちろんエロ系は禁じ手だがな…。なーんて、勝者の余裕を見せつけてくる。
「う………好きにしなよ、覚悟はできてるから。」
うー、この敗北の屈辱は次の勝利への糧になるんだからね圭ちゃんっ。
一体何を言われるんだろう…。動揺しないようにしなきゃ。
「今日は俺の荷物持ちをしてもらう。……文句ないよな?」
「―――わかった。」
………なんだ、たいしたことなさそうじゃん。
……いやいや、油断はダメっ!今日の敗北はその油断が招いたんだぞ魅音っ!
「――あ、レナたちは先に帰ってていいぞ。
荷物持ちがいるからたっぷり買い物に付き合ってもらえるしな。」
「うーーーーーー……」
「うん、わかった!頑張ってね魅ぃちゃん☆」
「転ばないようにお気をつけあそばせ〜」
「圭一、手ぶらでらくちんなのですよ。」

………まあ、罰ゲームではあるけど、2人きりでいられるのは嬉しいかな…。
みんなと別れ、夕暮れの道を他愛のない話をしながら歩く。
穏やかな、優しい時間。いつまでも続いて欲しい、愛しいひととき…。
「魅音。ここで待っててくれるか?」
「え?――う、うん。」
いつの間にか興宮の駅前まで来ていた。……ずいぶん歩いたのに全然そんな気がしない。
さっきまでの楽しい会話を反芻しながら圭ちゃんを待つ。
…待ち合わせみたいで嬉しいな。…って、毎朝待ち合わせて登校してるじゃん私っ。
「――おう、待たせたな。」
「………おかえり。」
ああ、こんな何気ない言葉の掛け合いが嬉しい自分が恥ずかしいよ…。
「――んじゃ、コレ持っててくれな。」
包装紙に包まれた大きな箱。………なんだろう?
「――あ、俺の鞄はもう持たなくていいぞ。大事な包みだからよろしくな。」
「……う、うん。わかったよ圭ちゃんっ。」
なんだかわからないけど、圭ちゃんの大事なものなら粗末にしないよ。
ちょっと暗くなってきた道を、再び他愛のない会話を交わして歩く。
雛見沢の夜は、早い。さすがの私も、一人で歩くのはちょっと抵抗がある。
一緒に歩いてわかったけど、圭ちゃんもやっぱり男の子なんだなあ。
背中や肩幅は思ってたよりずっと広い。腕だってしっかりしてる。
詩音みたいにその腕にすがりついたら、…きっと技でも決められると思って逃げ出すよね。
おじさんは、おじさん。こんな女の子みたいな可愛い思考は似合わない。
「あのこと」は忘れるから。なかったことにするから。
こんな幸せな時間を圭ちゃんと生きていたい。それだけは、許して。

「―――到着!……魅音、ここまででいいぞ。お疲れさん。」
「………へ?」
圭ちゃんが立ち止まったので、私はたたらを踏んでしまう。
私の家へと通じる、私と圭ちゃんたちとの合流地点。
「圭ちゃんの家までちゃんと運ぶよ。おじさん強いから一人でも平気だし。」
「ここでいい。……女の子に夜道を一人で歩かせるほど俺は酷い奴じゃないぞ。」
「………………っ、」
女の子……女の子……。うわあ、また顔が熱くなってきたよ…っ。
「それじゃ魅音、また明日な。」
「――あ、圭ちゃんっ、この箱……っ、」
「それはお前にだから。「魅音に」だからな。………ごめんな。」
とても辛そうな……申し訳なさそうな顔をして、小さく謝る。
「……………圭、ちゃん?」
「………そ、それじゃあな!」
真っ赤な顔を一瞬だけ見せて、あとは一度も振り返らずに走っていった――。


急いで自分の部屋に戻って、包装を解く。
――包みの中身は、あの時欲しくてたまらなかった、あの人形だった。
……そうか、これのためにずっとバイトしてたんだ…。
「………ありがとう、圭ちゃん。」
私を女の子だと思ってくれるんだね。私のままで、いいんだね。
「ありがとう……ありがとおぉ……っ。」
壊れたレコードみたいに、「ありがとう」を繰り返す。
人形を抱き締めて、あの時とは違う、喜びの涙を流しながら――。








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