〜茶色〜


悟史くんが、戻ってきた。
厳しい追及があると思っていたけど、大石さんは悟史くんの髭だらけの姿に大笑いしながら
あっさり返してくれたらしい。
……泳がせて見張るつもりなのかもしれないけど、今はそれでいい。
だって本当に悟史くんは何もしていないんだもの。
悟史くんは嘘をついていない。それは私にもよくわかっているから。

北条家はすぐに住めるような状態じゃなかったから、
とりあえず今の梨花ちゃんと沙都子ちゃんの家に泊まることになった。
詩ぃちゃんも一緒に行ったみたいだけど、悟史くんの髪を切ってあげると、
そのまま興宮のマンションに帰っていった。――梨花ちゃんを連れて。
「――兄妹水いらずなのですよ。にぱ〜☆」
「今日くらいは二人きりにさせてあげなくちゃですね。――私にはこの髪の毛がありますから☆」
――詩ぃちゃんらしいね。

監督の健康診断も異常なしでみんなひと安心。
すっかり身奇麗になった悟史くんを見て、圭一くんもビックリしてた。
「ほぉら、ごらんなさいませー☆にーにーは圭一さんなんかよりずっと、ずーっと美形ですのよっ!」
「う……おじさんなんて言って悪かったよ、悟史……さん。」
「悟史でいいよ。僕も圭一って呼ばせてもらうから。――沙都子によくしてくれてありがとう。
 沙都子がこんなに強くなったのは圭一の存在も大きかったと思うよ。――よろしく、圭一。」
「ああ、よろしくな悟史!」
握手を交わす二人のにーにーを沙都子ちゃんは誇らしげに見上げ、
詩ぃちゃんはそんな沙都子ちゃんの頭を優しく撫で、梨花ちゃんはいつものように笑っていた。
魅ぃちゃんも、何かから開放されたように安心した笑顔。
本当によかったよ。
「園崎」と沙都子ちゃんとの板ばさみで気を張りっぱなしだったと思うから。

「みんな、お願いがあるんだけど……。」
「何ですの?何なりとお申しつけくださいませっ。」
「私にできることでしたら何だってしますっ。」
「どうしたいのですか?何か欲しい物でもあるのですか?」
「よっしゃ!今日の部活は悟史の願いをかなえることに決定だね!」
「お、いいな魅音っ。――悟史、言ってみな!俺たちがかなえてやるぜ!」
「うん!みんなで頑張れば不可能なんてないんだよ。……だよっ☆」
悟史くんの遠慮がちな頼みに、みんな飛びついた。もちろん私も。
「ありがとうみんな。……実は……、」

「――悟史、大丈夫かー?」
「うん、大丈夫だよ。……よいしょ。」
私がこないだ落ちた、悟史くんがずっと過ごしてた、不法投棄所の崖の下。
辛く寂しい時を過ごしたその場所に、もう一度下りたいと言う。
「大切な物を忘れてきちゃったんだ。――だから。」
「にーにー……、気をつけてくださいませっ。」
「悟史くん……、何かあったら私もすぐに行きますからね。」
「沙都子、詩音。大丈夫だよ。ロープはしっかりしてるし、富竹さんにも来てもらってる。
 レナの救急セットもある。……心配要らないよ。」
「うん。そんなに高さもないから怖くないんだよ?戻ってくるのを待ってようね。」
「悟史、ふぁいと、おーなのです。」

………………。

………………。

「――圭一、富竹さん、引き上げてもらえますかー?」
「よし、まかせてくれ!いくよ圭一くん!」
「はい!……せーのぉっ!!」
……圭一くんと富竹さんが悟史くんを引き上げる。
――ついこないだ、お髭いっぱいの悟史くんが引き上げられたんだよね…なんだか不思議。
「にーにー!」「悟史くん!」
「どうもありがとう。おかげで無事に回収できたよ。」
「「「「「「「……………………?」」」」」」」
悟史くんが大切そうに抱えていたのは、薄汚れた茶色い布。表面がけばだっていて、正直かなり汚い。
「――あはは、これじゃ何だかわからないよね。……ちょっとごめんね。」
私の用意してきたレジャーシートの上に布を置き、そっと広げる。
すると――――。
「あ……っ!!」
沙都子ちゃんがいち早く声を上げる。
「これって……にーにー!?」
「うん。沙都子が欲しがってた熊のぬいぐるみだよ。」
「これがそうだったんですか……見る影もないですね……。」
悟史くんのいなかった一年という長い時を象徴するかのような成れの果て。……なんだか哀しかった。
「この熊はね、僕の恩人なんだ。」
「「「「「「「恩人?」」」」」」」
「うん。僕は叔母が死んで、追い詰められて、どこか遠くに行きたくて、
 それでも沙都子が欲しがってたこのぬいぐるみを購入したんだ。
 買った時のことはよく覚えていない。この熊を抱えたまま、僕はこの崖の下に落ちたんだ。」
「にーにー……っ、」
「そっか……。レナがマットレスの上に落ちたように、悟史くんもぬいぐるみのおかげで怪我をしなくて済んだんだね。」
そんなに高くはないけど、でもそのまま落ちていたら怪我をしていたはずだもの。
沙都子ちゃんが守ってくれたのかもしれないね。
「うん。でもそれだけじゃないんだ。食べ物は豊富でも、ここの冬の寒さはかなり厳しい。
 僕はぬいぐるみの背中に潜り込んで寒さをしのいだんだ。」
「そうだったんですか……。」
「おい、そんなにここの寒さって厳しいのか?」
「そうだよ、前にも話したじゃん。夏服でなんてとてもいられないよ。」
「この子がにーにーを守ってくれたんですのね……。」
「いやあ、何が幸いするかわからないね。……君が無事で本当によかったよ。」
「……熊さん、みんなで直してあげませんか?このままじゃかわいそかわいそなのです。」
熊の頭部分の布を撫でながら梨花ちゃんが呟く。
「うん、いいね!すごくいいねっ!」
「梨花、ナイスアイディアですわー!」
「なんたって悟史くんの恩人ですものね!」
「それ、沙都子の誕生日プレゼントだったんだろ?とびきり綺麗にしてやろうな!」
「僕も手伝わせてくれないか?これでも裁縫は得意なんだ。」
「みんな……ありがとう。」
「よーし、それじゃみんなでこの子を元通りにしよう!
 しばらく部活はこれでいいね、みんな!」
「「「「「「「「おーーーーーーーーっっ!!」」」」」」」

悟史くんを包んでくれた優しい茶色。
寂しい心、辛い心、疲れた身体を癒してくれた優しい熊さん。
今はくすんじゃってるけど、とびきり綺麗な茶色にしてあげるからね――。
 







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